第八話
作者は明日、歯医者に行きます(定期検診)
読者の皆様、早めに歯医者は行っておいた方がよいですよ。7年前に作者はひどい目に遭って1年間治療にかかりました……
17
あらましを書き終えるとマーベリック達は思案を始めた。金貨の強奪事件に絡む近衛隊、枢密院、第四宮の動き、そして金貨を強奪した賊、それらの動きを推理していく。
「ブラックマーケットに金貨はまだ持ち込まれていない。大量の金貨はそう簡単に処理できることはない」
マーベリックは図示した組織に現状をコメントする、バイロンが気を利かせてそこに文言を書き込む、
「近衛隊の連中はなんとか強奪されようとした金貨を奪い返そうとしているが……それもうまくいっちゃいない。そもそも誰に襲われたかもわからねぇ……」
ゴンザレスがそう言うとマーベリックが続いた、
「遅効性の毒……その調合は難儀である。知識のある人間はそれほど多くない……飲み屋で混入された可能性も微妙になってきた……」
筆記していたバイロンが口を開いた、
「その毒を調合できるのは薬師だけ?」
マーベリックが答えた、
「医師もできるだろう。だが普通の医師ではないな、…………闇医者か、その関連……」
マーベリックはそう言ったが捜査がうまくいっていない表情を見せた。かなりの時間と労力を割いて医療従事者はすでに調べていた……結果は芳しくはない……
それに対して、バイロンがあっけらかんとして発言した、
「まったく、違うヤツだったりしてね」
マーベリックは眉間にしわを寄せた、
『……異なる可能性か……』
自分の想定が妥当だと思っていたものの、思考が先鋭的になりすぎてほかの可能性を排除していることにマーベリックは気付かされた。
『……見方を変えてみるか……』
そう思ったマーベリックはしばし沈思した──
『……振り出しに戻って、もう一度……』
そう思ったマーベリックの眼は突然には虫類のごとき冷たさを放った、そこには何か思いついた節がある。
「ゴンザレス、お前は引き続き金の流れを追うんだ。」
息を吹き返したマーベリックはそう言うとバイロンを見た
「それとなく探ってほしいことがある」
マーベリックには考えがあるようでバイロンに宮中での動きを報告するように頼んだ。
「三つの道をたどれば、どれかが当たるはず──いや、繋がるやもしれん」
マーベリックはそう言うといきなり立ち上がった、
「先ずは腹ごしらえからだ!」
*
マーベリックが用意していたのはグラタンであった。適度な深さのある長方形の大皿にホワイトソースがぐつぐつと沸き立っている。チーズの焦げた匂いが部屋に充満すると食欲がかき立てられた……
マーベリックは皿の内周にナイフを入れてチーズの焦げをこそぎ落とすと、次に格子状にグラタンを切ってそれぞれの取り皿においた。その所作は流れるようで美しい。
『なにこれ……』
バイロンはその断面を見て驚いた、
『上段はホワイトソース中段にはトマトソース、そして下段にもホワイトソース、三段ソース……』
だがバイロンには素朴な疑問があった
『これ、マカロニが入ってない?』
バイロンが不思議そうな顔をするとマーベリックがにやりと嗤った。
バイロンは一瞬、憮然としたが容赦なくフォークをグラタンに突き刺した、
『あっ、これソースとソースの間に……弾力が……平たいパスタ……』
マーベリックは三層になったソースの合間にパスタをひいていたのである。
『うっ、このソース……ただのトマトソースじゃない……挽肉……あっ、にんじんとかタマネギとか……いろいろ入ってる』
二層目のトマトソースは様々な香草と粗く引いた豚の挽肉が入っていた、俗に言うミートソースである。
豚の臭みを抑えるためにニンニクやハーブを投入、豚のうまみとトマトの酸味、そして香草による風味付け――ホワイトソースとの相性も抜群だ。
「相変わらず、旦那の料理はうまいっすね……ソースもいいですけどチーズの焦げがたまらねぇ」
ゴンザレスはホイホイと口に入れるとおかわりを自分で装った。
「うまいものは早い者勝ち!」
ゴンザレスに言われたバイロンは大きく頷くと、取り皿を横に置いて大皿自体を引き寄せた。
「そうですね、早い者勝ちですね」
大皿にはまだ三人前ほどグラタンが残っている……
大皿を引き寄せたバイロンは二人の手が及ばないようにして抱え込むとパクパクとリズムよくその口にグラタンを放り込んだ。
隣でその様を見ていたゴンザレスはあんぐりと口を開けた。
「……旦那……あっしのぶんが……」
ゴンザレスが唖然とすると、マーベリックがそれに答えた。
「こういう娘だ」
ゴンザレスは快活にグラタンを頬張るバイロンをチラリと見ると大きなため息を吐いた。
18
ヨシュアはほかの近衛隊とともに金貨を強奪した下手人を捜すべく東奔西走していた。
『先輩たちを助けねば!』
ヨシュアの父であるマリオ バルトロは三ノ妃が幽閉されたコテージの警備のなかで鉄仮面の凶刃によりその命を失っていた。剣技において右に出る者がいないという父が倒されたのである。
その知らせを受けたとき、あまりの衝撃にヨシュアは我を失った。発狂するかと思うほどの心の痛みを負ったのである。
だが、そのとき彼の心身を支えてくれた人々がいた、それは近衛隊の面々であった。特にこの強奪事件に関わった四人はヨシュアを深く支えてくれた人物である。
『金貨を取り戻せば、なんとかなる。マーベリックさんやバイロンさんの力を借りればきっといけるはずだ。先輩たちを助けるんだ!』
ヨシュアはマーベリックからもたらされた情報を元にして様々なところに赴いた。そしてその中でも重きを置いたのが金貨の輸送ルートだ。
『襲われたところを起点として360度、半径5km……これが捜索範囲……』
ヨシュアは地図を見るとまだ言っていないところを探した。
『ほとんど探索は終えている……怪しげな場所はすべて見て回ったはずだ』
賊が潜んでいそうな廃墟や洞穴、さらには暗渠と言ったところまでヨシュアは捜索していた。もちろん怪しげな連中やその取り巻きにも目を配っている。
だが、金貨の袋さえも見つからない……
『畜生!』
ヨシュアは刻一刻と迫るタイムリミットに焦った。
『あと3日の間に金貨を見つけねば……』
ヨシュアは再び地図に目を落とした、
『マーベリックさんは賊が金貨を持っている可能性が高いと思っている……ブラックマーケットに大量の金貨が流れた形跡はない。表だって大量の金貨が両替商に持ち込まれた形跡もない。となれば、金貨はどこかにあるはずだ』
ヨシュアはマーベリックから与えられた情報を精査してどこかに金貨が隠されていると踏んでいた。
『かならず……見つけてやる!!』
若き青年は熱い意思を持った。
『マーベリックさんは盲点とも言うべきところに金貨を隠すはずだと言っていた……』
賊の心理を読んだマーベリックは思わぬところにこそ金貨が隠されているだろうとヨシュアに伝えていた、
『思わぬところ……か』
ヨシュアは心中でそう思うと全くマークしていないところに目をやった、
『ないだろうけど……行ってみるか……』
ヨシュアはそう思うととある場所に向けて走り出した。
マーベリックはどうやら見方をかえるようです。一方、ヨシュアは捜索を続けるようです
さて、この後いかに?




