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第二十二話

38

二人の捜査官がそれぞれ名乗るとバイロンはお茶を飲みながらギャラリーで経験したことを淡々と述べた。要所要所、マーベリックがフォローしたため人物関係には適度に伏せられている……


「私たちが追っている賊はギャラリーの主催者に身を変えていたようだけど……トネリアの宝石商、パネリとの関係があるのは間違いないわね」


美女である捜査官、スターリングがそう言うと頭髪の薄いカルロス捜査官が続いた。


「でも、競馬会は貴族の世界のことですから……我々では手が及びません。競馬会が貴族たちの裏金を作る合法的な賭博であることは知っていますけど……」


 カルロスは金の流れを追う上で競馬会がかまされるという事実を知ると何とも言えない表情を見せた。


「賊はトネリアの宝石商パネリとつるんで競馬会に金を流す。そして裏金としてキックバック……こちらは手が出せない……合法的なマネーロンダリングね」


スターリングは渋い表情を見せた。


 その表情を見たバイロンはマイラとアナベルとの間で決まった決済方法、すなわちジュエルを用いたやり取りを述べるかどうか迷った……


『言っていいのかな……でも二ノ妃様が絡んでるし……』


 二ノ妃が絡んでいる事実は十分すぎるスキャンダルである。それを広域捜査官につまびらかにするのはマズイと思ったバイロンはマーベリックにアイコンタクトした。


それに対してマーベリックは答えずスターリング捜査官のほうに話しかけた。


「あなたの耳はよさそうだ……先ほど一階での会話はすでに分かっているのでは?」


 マーベリックの物言いはスターリングの聴力を見越してのモノである、スターリングはフフッと笑った。



「ええ、宝石で決済でしたっけ」



スターリングがそう言うとバイロンはうなだれた。



『……ばれてる……さすが亜人……』



一方、マーベリックは想定内といった表情を見せて再び二人にお茶を進めた。


「まだ、こちらには弾があります。そちらの知りうることも話してほしいのですが」


それに対してスターリングが答えた。


「ええ、かまいませんよ」


 スターリングはそう言ったがマーベリックに先に話すように促した。彼女にも弾があるのだろう、明らかに自信がある。


 二人の間のやり取りには何とも言えない距離感がある……表で捜査官として活躍する人間と裏から事態を眺める人間との違いが生み出したものだ。ベクトルの違いが色濃く出ている……


『協力的ではないのね……非協力的ってことでもないけど……』


バイロンが空気を読むと頭髪の薄い捜査官がその場の状況を好転させるために発言した。


「お互いに鉄仮面とは遣り合ったんですから……もう少し……ざっくばらんに行きませんか……早くこの事件を解決して私も休暇でポルカに戻りたいですし」


 カルロスがそう言うとバイロンがそれに反応した……ポルカという単語の響きにである。かつて女優としてコルレオーネ劇団で活動していた過去がよみがえる


「えっ、ポルカに戻るんですか?」


言われたカルロスは快く答えた。


「俺のホームタウンなんだ、魚介がうまいんだよ」


バイロンも即座に反応した、


「あの……私の友達がポルカのフォーレ商会、今はケセラセラっていうところで貿易商の見習いをしているんです」


バイロンが興奮して述べるとカルロスがそれ以上の驚きを見せた。


「えっ、ひょっとして……ベアーを知ってるのか?」


ベアーという単語をカルロスが言うとバイロンは鼻息を荒くした。


「知ってるも、何も……ベアーとは同郷なんです!!!」


バイロンが驚愕の表情を浮かべるとカルロスは広くなった額を輝かせた。


「いや~、びっくりだ……こんなところでベアーの名前が出るなんて……」


思わぬ共通の知り合いに二人は一瞬でその距離を縮めた。


                                 *


 意気投合したバイロンとカルロスはポルカでの話に花を咲かせた。バイロンとカルロスにとっては取り留めもないことや、季節の移ろい、ポルカの街並みでさえも十分すぎる話題である。


「ロゼッタのパスタはおいしかった。あの魚介のパスタは最高!」


バイロンがそう言うとカルロスがそれに応えた、


「あそこではベアーがバイトをしてたんだよ。ルナちゃんっていう魔女の女子も一緒にいてね」


 特に共通の知り合いであるベアーの存在はお互いの垣根を取り払った。微妙な緊張感など吹き飛ばして昔からの友人のような口調になっている……


「ベアーにはゴルダでも世話になったんだ……あそこでの修羅場は想像を絶したからね……彼がいなければ……どうなっていたか」


それに対してバイロンが答えた、


「ゴルダのことは風のうわさで聞いています。なんでも蛮族が自治権を求めて反乱を起こしたとか、ほぼ革命に近い騒乱……それに乗じてゴルダに運び込まれていた白金が賊によって盗み出されたとか……」


カルロスはバイロンの情報収取能力の確かさに唸った、


「すごいね……ほぼ正確な情報だよ……その白金を盗んでトネリアに持ち込んだのが鉄仮面の一味なんだよ……」


カルロスがそう言うとバイロンはポロリともらした。


「トネリアの王室付のメイドが第四宮にいるんですが、そのメイドは鉄仮面の一味とのかかわりがあるんです。そして、そのメイドがパネリの宝石を使ってうちのメイドを懐柔……それだけじゃなくて競馬会における賭博資金の決済にも……」


カルロスがため息をついた、


「競馬会は広域捜査官じゃ無理なんだ。貴族の世界には手も足も出ない……それにトネリアのことは外交事案だから、こちらも治外法権になる……でも宝石を用いて決済するのか……現金じゃないんだな……」


 二人の会話を耳にしていたマーベリックは何とも言えない表情を見せた、そこにはバイロンが話しすぎているという危惧がある。


 その一方、スターリングもその瞳に氷のような冷たさを宿らせている、どうやらカルロスが捜査情報を漏らしてしまったようだ……


だが、マーベリック、スターリングともにその表情は決して悲観的なだけではない。


スターリングとマーベリックが互いの顔を見合わせるとその視線がぶつかった、



「決済は宝石で行われる……そしてダリスで現金化される……」



スターリングがそう言うとマーベリックが『フム』と頷いた。



「ここがポイントだな」



二人の脳裏には一つの考えが浮かんだ。



そんなときである、実にタイミングよく窓から何かが投げ入れられた……それは紙包みである……


マーベリックはレイからの報告だとすぐに悟ると、その包みを開けて中を確認した。



「……なるほど……」



マーベリックは実に不遜な笑みをこぼした。



そしてマーベリックはスターリングとカルロスに向き合った。



「そちらに裏を取ってほしい……表で裏が取れれば、広域捜査官の手柄にもなろう」



 マーべリックはそう言うとレイのもたらした包みを見せた。そこにはトネリアの出生証明の一部が書き写されている。



「……これは……」



カルロスはそう言ったがスターリングがにやりと笑った。



「なるほど……そういうこと……」



 レイドル侯爵の執事として闇に潜むマーベリックと治安維持におけるエリート組織、広域捜査官は事案を解決するための大きな手掛かりを手に入れていた。



マーベリックはさらに悪魔じみた微笑みを見せた。



「それぞれが、それぞれの仕事をすれば光明もさすでしょう、ですがあまり暇はありません」



マーベリックがそう言うとスターリングも怪しく笑った。




広域捜査官の二人と情報交換したマーベリックですが、さらなる手がかりを手にしたようです。さて、この後、物語はどうなるのでしょうか?

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