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第十六話

26

マーベリック達は現状を確認して、それぞれの持つ情報を交換した。だが……思いのほかに敵である鉄仮面一味の動きは止まっていた。


「奴らは下手に動かず、様子を観ているのよ……トネリアの旗のなびく倉庫では建設こそ進んでいるけど人の動きはない……鉄仮面も行方をくらましているわ……」


スターリングが捜査状況を伝えるとマーベリックが答えた、


「我々も鉄仮面の姿は確認していない……あそこから出たとは考えにくいが……」


 マーベリックがそう言うと頭皮がむき出しになりつつある捜査官カルロスが外交官の動きについて触れた。


「うちの上が調べた様子では、この事案に関してダリスの外交特権を用いてトネリアとの関係を築いている人物はいないそうだ。逆に怪しい動きがなさすぎると言っていた。」


カルロスはそう言ったが、その頭皮を輝かせた。


「だが、賊の動きには妙なものがある、トネリアの宝石商とのかかわりが見えてきた」


マーベリックは怪訝な表情を見せた、


「かつて白金を強奪した時に換金した……そのときに宝石商が一枚かんでたんだとおもう」


カルロスの発言に対して、マーベリックが勘をはたらかせた。



「その宝石商は『パネリ』ではないか?」



言われたカルロスは驚いた表情をみせた、



「……なぜ、わかったし……」



カルロスがポツリと漏らすとマーベリックが答えた、


「別のルートでパネリの名前は聞き及んでいる」


マーベリックはバイロンの存在を隠して答えた。


「貴族の世界、その中枢でもパネリの名前が出だしている……あまり芳しいことではないがな……」


マーベリックがそう言うとスターリングが反応した。



「それは『妃』が関係してるってこと、それとも付け届けってこと?」



スターリングが勘を働かせるとマーベリックがそれに応えた。



「付け届けだ」



マーベリックが示唆するとスターリングがにやりと笑った。



「競馬会ってことね。でもその行事は平民には関係ない貴族の世界のこと……私たちでは手が出ない……たとえトネリアからの付け届けがあったとしても」



 貴族と平民の世界には断絶した分け隔てがある、すなわち広域捜査官では貴族の世界で生じる事案には手が出ないのである。



「だけど、賊のほうは押さえることはできるわよ……証拠さえあれば」



スターリングがそう言うとマーベリックが沈思した。



「それぞれの領分を犯さずに提携できれば互いに果実が手に入るかもしれん。」



マーベリックはそう言うと立ち上がった。



27

週令会議――それは週に一度行われる報告会である。第四宮の代表としてリンジーとバイロンが執事長であるマイラに近々の状況を伝えるものだ。その内容は業務や行事の進捗、客人との応答、トラブルなど多岐にわたる。


「競馬会のことですが、再来週に迫っています。いかがでしょう?」


マイラはそう言うリンジーに報告を求めた。


リンジーはそれに対して作っていた資料を提示しながら現状を述べた。


「なるほど……わるくないようですね」


マイラはそう言うとトラブルについて触れた、


「アナベルとエリーの間にいざこざがあったようですが……証拠不十分によりエリーの訴えは退けた……そういうことですね?」


マイラに確認されたリンジーは「はい」とこたえた。


「ですが、その結果……エリーと仲の良いベテラン勢があなたに対して不快な思いを持った……そうですね」


マイラが詰問するとリンジーが再び「はい」と答えた。


「なるほど、あのメイドたちならやりかねないわ……」


 マイラはかつて第四宮の宮長として業務に携わっていたので、ベテランメイドたちのやり方は熟知していた。


「そこであなたたちは、貴族の方々からの付け届けを用いて彼女たちの忠誠心を高めようとした……」


マイラはすでにリンジーとバイロンの作戦を知っているようで、何とも言えない表情を見せた。


「一時預かりというテクニックを用いてメイドたちをうまく統率しようと試みたのは理解できます。その方針は悪くないと思います。」


マイラは淡々と続けた、



「私の意図を読み取ったことはこの競馬会において重要です。大臣クラスの秘書官との応対はこの先もつづきます。うまくさばきができないとあなたたちも舐められますからね。一時預かりという方針は評価できます」



マイラは二人の知恵に満足した表情を見せた。



『やっぱり、マイラさんは私とリンジーを試していたのね……この状況をいかに切り抜けるか見ていたんだわ……』



バイロンはそう判断したがマイラは突然その表情を変えるとため息をついた、



「ですが、アナベルのもたらしたトネリアからの付け届けが想像以上のものだった……」



 マイラがそう言うとリンジーとバイロンはうつむいた。視界をふさぐ大きな物貰いができたような表情である。



「……ルビーなんて……ありえない……」



バイロンがそう漏らすとマイラがその表情を歪めた、



「アナベル……いえ、トネリアはこの競馬会のレースにおいて大きな企みをもっていると思います。私が耳にしたところによると多額の現金をレースに投入するようですから……彼らの狙いはまだわかりませんが……」



マイラがそう発言するとバイロンがそれに反応した。



「二ノ妃様の専属メイドとなったアナベルは我々では感知できない動きを見せています。彼女とトネリアそして二ノ妃はこの競馬会で何を狙っているんでしょうか……」



バイロンがそう言うとマイラがそれに応えた、



「それはあなたたちが調べることです」



言われたリンジーとバイロンは言葉を亡くした。



「さあ、いきなさい……そして彼女の意図を暴きなさい、今週末にある会議ではアナベルを交えて競馬会のことを取り決めねばなりません!」


                                *


執事長室を後にしたバイロンとリンジーはお互いに顔を見合わせた。



「アナベルの意図なんてわかるわけないじゃんね……」



バイロンがそう漏らすとリンジーも同意した。



「でも、それがわからないと……話にならないわ……」



それに対してバイロンは一つの結論に至った……



『……調べるしかないわね……』



バイロンはそう思うと懐にある貝殻のような形をしたブローチに手を当てた。



『マーベリックから以前にわたされた集音器……これで二ノ妃とアナベルの会話を拾うことができれば……』



バイロンはそう思うと早速行動にでることにした。彼女の目にはカレンダーが映っている、



『二ノ妃様……今週、出かけるわね……これがチャンスになるかも』



そう思ったバイロンはその表情を引き締めた。



マーベリックはカルロス達と情報交換をしますが鉄仮面の動きはつかみきれません。


一方、バイロン達はマイラから付け届けの一時預かりについて褒められます。ですが、二ノ妃とアナベルの関係をくわしく調べるように言われます。はたしてバイロンはうまくリサーチできるのでしょうか?

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