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第十話

関係ありませんが明日は歯医者です……(いきたくない……)


皆さん、歯みがきだけでなく糸ようじをお使いくだされ!

16

マーベリックの話を耳にしたバイロンは大きな鼻息を漏らした、


 三ノ妃が幽閉されていた館が急襲されて警備の近衛隊がけちらされたこと、そして三ノ妃が拉致されたという事実はいまだ伏せられていたため、マーベリックの語った内容はバイロンに少なからぬ驚きを与えていた。



『……マジかよ……』



 バイロンは内心かなりの衝撃を受けていたが、マーベリックの腕の傷を見ると鉄仮面という存在がすさまじいということは容易に理解できた。厳しい修羅場を潜り抜けてきたマーベリックに手傷を負わしめるとは尋常ではない。


「世の中には化け物がいるのね……」


 バイロンがポツリと漏らすとマーベリックは「ああ」と答えた。そしてそのあとすぐに真顔に戻るとバイロンを見た。



「世の中は広いということだ……まだ見ぬ相手の中には対峙しないほうがいい敵もいる。」



マーベリックはそう漏らすと厳しい表情を崩さずに発言した。



「すべて他言無用だ。」



バイロンは間髪入れずに「わかってる」と答えると腕の包帯を締め上げた。


                                 *


治療を終えるとマーベリックはいつもの表情でバイロンに対して定期報告を促した。


「第四宮のほうはどうだ……新人メイドの動きは?」


言われたバイロンは思い出したかのようにアナベルの動きについて述べた。



「かくかくしかじかよ」



バイロンの報告を受けるとマーベリックは再び渋い表情を向けた。


「そちらのほうにも人手を割かねばならんな……」


 トネリア出身のアナベルの動きが想像以上に活発であり、とくに競馬会における談合の話はマーベリックにとっても気になる事案であった。


「競馬会に貴族連中が談合をするのは知っていたが、トネリアも加わるとはな……」


マーベリックは脳裏で反芻するようにしてバイロンから与えられた情報を整理した。


「競馬会と貴族たちの賭博だけならいつもの話だ。毎年同じようなことが行われている、たとえそのレースが出来レースであったとしても、こちらとしては何とも思わん……だが、トネリアの馬がそこに参加するとなると……」


マーベリックの表情に陰りがさす。


「何かあるはずだな……二ノ妃とアナベルの関係も捨て置けん……」


マーベリックがそう言うとバイロンがエリーとアナベルとの間で生じた摩擦について付け加えた。


「アナベルはエリーさんって言ううちのベテランとトラぶったんだけど……どうも……しっくりこないのよね。なんていうか……アナベルの策略があるっていうか……でもないような」


バイロンがそう言うとマーベリックは即座にそれに応えた。



「観察だ、相手を見ること……ただ見ること」



マーベリックはそう言うといつもの表情をみせた。



「アナベルはお前たちよりもはるかに優秀だ。下手に動かず観察することが現状では一番だ。相手の出方を見るんだ。そうすれば光明がさすやもしれん」



マーベリックはそう言うと突然に入口のドアにむかって声を荒げた。



「いるんだろ、レイ!」



マーベリックの声が飛ぶと部屋の戸がギギッと音を立てた。



「あっ……気づいてた?」



わざとらしくレイはそう言うと二人の前に立った。



「お楽しみかと思ったんだけどな……すまんな…邪魔をして」



レイがわざとらしくいうとマーベリックはコホンと咳払いした。



「何の用だ?」



マーベリックがそう言うとレイがいやらしい笑みを見せた。



「あの野郎の……行方がつかめそうだぜ」



言われるや否やマーベリックの眼の色が変わった。



「手下の賊のほうを追いかけていたんだ……そしたら三ノ妃とおもえる女が……」



レイがそう言うとマーベリックがフフッと笑った。



「どうやら、運が向いてきたようだな」



マーベリックはそう言うと闇に潜む獣の表情を見せた。



17

マーベリックがレイとともに向かったのは都から馬で3時間ほど離れたうら寂しい街である。その名をラジルというのだが、ここにはこれといった産業もなければ、農業や林業といった第一次産業もなかった。都に向かう人々の通過点としてだけ存在しているといっていい……


「街道筋にあってこれだけ栄えていないというのも珍しいな……」


マーベリックがそう言うとレイが調べてきた内容を口にした。


「最近ここは大きな変化があったんだ……」


レイは相も変らぬ表情を見せた。


「あそこを見てみろ」


レイが指を指すとマーベリックが遠眼鏡を使ってその方向を見た。


「開発案件……倉庫の建設か……」


マーベリックがそう言うとレイが作業している人工に指示を与える人物に眼をやるように言った。


「あれは香具師だろう。作業員の日当をはねる地回りのやくざだ。」


マーベリックがそう言うとレイはフフッとわらった。


「まあ、そうだな」


 その言い方が不快だったマーベリックはレイに抗議しようとしたが、レイはその前に工事現場に旗があることを示唆した。


「見るのはそっちだ」


マーベリックはその旗を目で追うと、思わぬものがその瞳に映った。



「あれは……トネリアの国旗……」



 ダリスのうら寂しい街にトネリアの国旗がはためくはずはない……だが、現場にはトネリアの国旗がこれ見よがしにたなびいている――明らかにおかしい


「ダリスでは外国人の土地の私有は認められていない……たとえトネリアでもだ」


 安全保障の観点からダリスではすべての外国人が土地を買うことは許されていない。大国トネリアの経済力が商行為に及ばないようにしているのだ……



マーベリックの脳裏にピンときた。



「まさか、外交特権……」



マーベリックがそう言うとレイが口を開いた。



「俺の手下が三ノ妃を見たのはこの町の酒場だ。それは間違いない。富裕な商人と連れ立ってたところを目撃している。」



レイは続けた、


「だが、あの旗を見た瞬間に捜索意欲がそがれた。」


マーベリックはレイの意図するところを理解した。


「ダリスの外交官もこの件に一枚かんでいるということか……」


マーベリックがそう言うとレイは実にいやらしい笑みを見せた。


「そっちはお前のほうで調べてくれよな、こっちは俺のほうが調べるからよ」


 レイは華々しい成果を上げるであろう三ノ妃の捜索で手柄を上げようと考えていた。その一方で地道な外交官の内偵調査はみじんの興味もなさそうである。



「なるほど、お前が俺をここに連れてきた理由が分かったよ。」



マーベリックがそう言うとレイは再びニヒルにわらった。




マーベリックの傷の手当てをしたバイロンはアナベルのことを相談します。そして『今はなにもせずに観察』という結論に至ります。


一方、行方不明であった三ノ妃はラジルといううら寂しい街にいるようです、ですが外交特権が絡んでいるようにも思えます。


さて、物語はこの後どうなっていくのでしょうか……

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