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第七話

12

間一髪でレイに助けられたマーベリックは馬の背で語りかけた。


「ずいぶんいいタイミングで……現れたな」


それに対して銀髪をポニーテールにしてなびかせる朋輩はニヒルに笑った。


「たまたま俺の追っていたやつらがお前のターゲットと重なっただけだ」


レイはそう言うとマーベリックに質問した。


「お前こそ、あのミル工場になぜいたんだ?」


レイは嫌らしい口調で続けた、


「助けてやったんだ、話せよ」


レイがそう言うとマーベリックは腕の傷を処置しながら答えた。


「行方をくらました三ノ妃の行方を追っていた、そしてあそこにたどり着いたんだ。」


レイが怪訝な表情を見せた。


「三ノ妃って……砦に幽閉されていた――あの館は近衛隊の警備がついていたはずだ」


レイが驚くとマーベリックはポーカーフェイスを崩さずに答えた。


「警備の近衛隊は全滅だ……正確には生きてはいるが不具者かたわにされた」


レイの表情が歪んだ


「嘘だろ……あそこの警備は確か二番隊だ、近衛隊でも剣の立つ猛者がいるところだ……隊長のマリオ バルトロは最強の剣士だろ……」


レイはそう言ったが、マーベリックの対峙した鉄仮面のことを思い起こすと荒い息を吐いた。



「あいつなら……やりかねねぇな……」



レイがそう言うと今度はマーベリックが質問した。


「お前は、なぜ、あそこに?」


言われたレイは一瞬声を詰まらせたが、状況を勘案して発言した。



「……金だ、金を追っていたらここについたんだ……」



 レイはかつてベアーたちがゴルダで経験した事件の顛末である白金強盗の行方を秘密裏に追っていた。そして白金の一部を盗賊団が手に入れたことを知ると、トネリアにわたり彼らの動きを探知しようと努めていた。盗賊の上前をはねて活動資金にしようと考えていたのである。



「奴らは白金をトネリアに持ち込むと、新しく発行された紙の金、紙幣に変えていたんだ。」



 レイはそれ以上のことは口にしなかった、あとは『秘密』ということだろう。その表情はいつもの顔である……



レイは話題を変えるためにマーベリックに質問した。



「どうする、今ならつなぎをつければ、あいつらを捕まえられるんじゃねぇのか?」



言われたマーベリックは首を横に振った。



「もう遅い、奴らは馬鹿じゃない……すでにあそこを引き払っているさ」



マーベリックはそう言うと渋い表情で続けた。



「誰が行ったところで返り討ちにされるだけだ」



マーベリックの見識に対してレイはニヒルな口調で同意した。



13

アナベルはひと月もたたぬうちに業務のほとんどを貫徹する能力を見せた。帝位につく『妃』からの信頼も厚く、一ノ妃でさえもその働きぶりを褒めるという事態が生じていた。


『完璧』と誰もが口をそろえて言う働きぶりである。


 だが、この能力の高さが新たな問題を引き起こした。それは帝位につく『妃』を世話するベテランたちがアナベルに対して不快な思いを抱いたのだ。アナベルの完璧すぎる立ち居振る舞いが故の弊害とでもいえばよいのであろうか……



『トネリア出身のメイドが帝位につくお妃様のお世話をするのはダリス人として許せない』


『二ノ妃様との結託がありうるので安全保障の観点から『妃』に仕えるのはよろしくない』


『挨拶の仕方がときおりトネリアのメイドのそれとなっていて、ダリスの宮中でははなはだ不適切だ。』



 半ば言いがかりに近いものもあるが、ベテランの言い分にも筋が通るところがあり、バイロンの耳に入るアナベルに対する誹謗も100%否定するということもできない……



『やっかいよね……無能な新人ならいくらでも何とかなるけど……有能となるとやっかみも含めてベテランが……うるさいのよね』



 バイロンがベテランからのクレームをうけてそんなことを思っていると、バイロンに頭突きを食らって一の子分となったマールが走ってきた。


血相を変えたその表情は芳しいものではない……


『……なにかあったな……』


バイロンの読み通り、マールは息を切らせながら後に事件となる事態について触れた。


                                *


マールの報告は以下のようなものであった。


 二ノ妃様をエスコートするはずのベテランメイド、エリー(32歳)が業務を遂行しようとするとアナベルが突然に動いて、その業務を妨害したという内容である。


 その結果、馬車に荷物を運ぼうとしていたエリーが携帯していた化粧箱を落とし、その中にあった手鏡を割ってしまうという事態が生じた。(ちなみにこの手鏡は二ノ妃が愛用している年代物で、職人にオーダーメイドで造らせた品である。)


「手鏡は修理が効くようですが……アナベルさんとエリーさんが対立していて……」


報告を受けたバイロンは腕を組んだ



『……トラぶりやがったな……』



バイロンはマールを見ると業務に戻るように目で合図した。



『今日の夕方は修羅場だな』



バイロンは直感的にそう判断すると事態の収拾に動くべくリンジーにつなぎをつけた。


                               *


 その日の夕刻、第四宮の待機所では会合が持たれた。すでにバイロンはリンジーとともに事件の収集のために動いて大まかな状況は把握できていた。だが、アナベルとベテランメイド、エリーの事情聴取はまだであった。


 若い二人はそれぞれを別々に宮長の執務室に呼んで互いの見解に耳を貸しながら、事件の実態をつかもうと試みた。


『うまくトラブルをまとめることができればいいけど……間違えれば波乱が起きる』


 経験の無い若い二人にはなかなかにやっかいな状態である。第四宮のベテランとトネリアの王室付きの肩書きを持つアナベル――ベテランを配慮した判断をすればアナベルに軽んじられる……一方、アナベルに配慮をみせればベテラン達から冷たい視線を浴びるだろう……


どちらにも与せず客観的な判断を下すことはできるのだろうか……



『さて、どうなるか……』



バイロンの表情は険しいものであった。




マーベリックはレイのもたらした情報を耳にすると驚きを隠しません。まさかゴルダで起きた金貨強奪事件の賊が三ノ妃をさらったとは思いもしませんでした………


一方、バイロンとリンジーはアナベルの関連するトラブルに巻き込まれました。二人はこのトラブルをうまく解決できるのでしょうか?

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