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第三話

ゴールデンウィークも終わりです……

マーベリックのところから第四宮の待機所に戻るとバイロンはリンジーに『新人』が入ることを耳打ちした。


「具体的なことはわからないけど……」


 バイロンがそう言うとリンジーは驚いた表情をみせた。新人の人選は面接を行ってから決めるものであり、宮長であるリンジーの専権事項でもある。それを知らされていないとなるとリンジーは人事にかかわれないということになる。


リンジーはその点にすぐに気付いた。


「私たちはやっぱり信用されてないのね……この前のルッカさんの件ね……」


ルッカの起こした事案はリンジーとバイロンに少なからず打撃を与えていた。


「ルッカさんは私たちの横領の嫌疑をかけた連中とつるんでたんだもの……上のほうは監督不行き届きっていう判断をしてるんだろうね……」


リンジーが残念そうに言うとバイロンがそれに応えた。


「そらそうよ、私たちはかりそめの状態だもの……しょうがないよ。若いしね」


 バイロンがそう言った時である、バイロンとリンジーの下にすべての宮を統括する執事長となったマイラがやってきた。


「ふたりとも、ちょうど、いいところにいました。」


マイラはそう言うと二人がいままさに話していたことに言及した。


「今日、新人が来ます」


マイラがそう言うとリンジーが間髪入れずに質問した。


「どんな人ですか?」


それに対してマイラが何とも言えない表情を見せた。


「実は私も、この人事には関与してないの……」


マイラはそう言うと以前のことについて触れた。


「ルッカを第四宮に連れてきたのは私だから……その点のこともあって今回の人事には一切触れてないの……執事長だけど」


 マイラはルッカの事案においての責任として人事権を失っていた。足元である第四宮のメイドの選定さえ関与できない状態に陥っていたのである。


「悪いわね、あなたたちにも迷惑が……」


マイラが正直に現状を吐露するとリンジーが首を横にブンブンと振った。


「私たちもルッカさんを信用しすぎたんです、彼女の行動を把握できていなかったのは私たちにも問題が」


リンジーがルッカを信用しすぎたことに触れるとバイロンがそれに同意した。


「宮長と副宮長の二人が側近に裏切られたのは情けない話です。こちらにも非があると思います」


バイロンがハキハキとそう言うとマイラが息を吐いた。


「……すまないわね……」


 マイラも執事長を執り行えるほどの経験や人望があるわけではない。さらにはまだ28歳ということもあり、老獪な年長者とのやり取りは決してうまくいっているとは言い難い……執事長というポストについているものの未だに力不足である……



マイラはリンジーとバイロンを見てうらやましそうな眼を見せた。



「あなたたちはいいコンビね……お互いに足りないところを補い合って……私の人事の唯一の成功だわ」



マイラがそう言うとリンジーがそれに応えた。


「私たちを宮長と副宮長に選んだのはマイラさんですから、マイラさんの眼力は間違いないってことですよ。つまりあなたも優れた人材であるということです!」


リンジーがそう言って元気づけるとマイラは自虐的に笑った。


「そうだといいんだけど……」


 マイラがそう漏らした時である、宮の裏門のほうからおもそうな皮の旅行鞄(ボストンバックに似ている)を持った女が3人のほうに向かってきた。



「きたわね」



新たに赴任してきたメイドの到着であった。



さて、その頃マーベリックは早馬を走らせていた。そして現場から少し離れた場所に陣取ると懐から遠眼鏡を取り出して状況を確認しようとした。その視野には三ノ妃が幽閉されていた館がおさめられている。


『館といっても実際は幽閉するための砦といっていい……警備も近衛兵の中でも優秀なものが選ばれている。剣の腕がたつ猛者のはずだ』


 三ノ妃を幽閉していた館を警備する人材は間違いなく優秀な隊員が割り振られていた。さらには血縁や地縁といったつながりを排除して顔なじみに対する配慮を一切させない布陣となっていたのである。


『だが、ふたを開けてみればこのありさまか……』


マーベリックは集めた情報を脳内で分析した。


『手足の切断、警備の者はだれ一人として死んでいないものの不具者となっている……外部との連絡を遅らせるための策か……』


 館の警備にあっていた近衛兵は見るも無残な有様を呈していた。二度と警備につくことはないだろう。


 マーベリックが渋い表情を浮かべていると林道からゴンザレスがやってきた……額からのあせさえぬぐわず息せき切らしている


「……旦那……」


そう言ったゴンザレスの表情は蒼ざめている、


「二番隊の隊長が見つかりました」


マーベリックはすぐさま意図を読み取ると『案内しろ』とゴンザレスに目くばせした。


                               *


 二番隊隊長、マリオ バルトロ、近衛隊随一の剣の使い手である。人柄もよく部下からの信頼も厚い。警備隊長としては申し分のない存在といって過言でない。一ノ妃からも一目置かれる人物だ。近衛隊では一番隊隊長よりも人望があるとさえ言われている。


 だが、マーベリックの前に横たわるマリオは虫の息であった。息はあがり顔面は蒼白である。あまりにひどい有様にマーベリックは思わず顔をそむけた。



「……部下の治療を……頼む」



 消え入りそうな声でバルトロがそう言うとマーベリックは耳元に顔を近づけた。血臭が嗅覚を襲う……



「あいわかった」



マーベリックがそう言うとバルトロが続けた、



「奴は、やつは……化け物だ……すさまじい……剣が風を……」



バルトロは砦を急襲した賊について触れた、



「鉄仮面をつけた黒い騎士だ。賊の長だ……あれとは戦ってはなら…ない」



 バルトロはそう言い残すとこと切れた……すさまじい死相である。慙愧の念が堪えない表情はあまりにむごい。



『三ノ妃をさらっただけでなく警備の近衛隊をも蹴散らした。2番隊の隊長マリオ バルトロは人に見せられぬ亡骸にされた……見せしめという意味なのだろう』



マーベリックは深いため息をついた。


「三ノ妃をさらったのはとんでもない奴だな……」


さしものマーベリックも二の句を告げることができない。血臭いが正常な思考を阻害しているのだ。


そんなときである、近衛隊の応急処置を終えたゴンザレスがやってきた。



「現場の引き継ぎはどうしますか?」



マーベリックはそれに応えなかった。



ゴンザレスはその表情を見て理解した。



「追うんですね」



マーベリックはただ小さくうなずいた。



そして、



「ついてくるな」



と言った。


 そこには複数の人間で捜索することで賊にこちらの動きが悟られるリスクを鑑みる姿勢と鉄仮面という化け物じみた存在に対して自分の手下では歯が立たないであろうという予測がある。


ゴンザレスが厳しい表情を見せるとマーベリックはそれにかまわず発言した。



「今なら奴らの居所ヤサをおさえられるやもしれん」



 そう言ったマーベリックはフロックコートをたなびかせると馬上の人となった。そして単身追跡を始めるべく颯爽とその場を去って行った。




バイロンたちの前には新たなメイドがやってきました。執事長であるマイラでさえもその情報を知りません。果たしていかなる人物なのでしょうか?


一方、マーベリックは三ノ妃を拉致した鉄仮面を追跡することにしました、この後どうなるのでしょか?

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