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第一話

今までの章で誤字脱字が多かったようでなおしておきました。ご指摘していただいた方々、ありがとうございました。たすかります!!

うららかな日である、第四宮の待機所には燦々と陽光が降り注ぎ、穏やかな風が業務をいそしむメイドたちの頬を撫いでいた。



『今日も落ち着いているわ』



 バイロンは待機所の食堂で朝礼を終えると、それぞれの持ち場に向かおうとするメイドたちを送りだしていた。その表情は凜としていて晴れやかである。



 副宮長となってからすでに10か月――うら若き乙女の表情はすでになく、その背中からはメイドたちを統べる統率者としてのオーラが滲みだしていた。頭突きを武器にして数々の事案を乗り越えてきたため、武闘派女子としてベテランたちも一目置かざるを得ない人物に成長している、



『今日も何もなければいいのだけれど』



バイロンが副宮長らしくそんな風に思うと、その後ろから声がかかった。



「バイロン~」



 声をかけてきたのは幾度となく一緒に苦難を乗り越えてきた信頼できる相棒リンジーである。決して美人とは言えないがその風貌は愛嬌があって憎めない。天然ではあるが知的水準の高い娘は事務能力においてバイロンをはるかにしのいでいる。



「どうかされまして、宮長?」



 バイロンがエレガントにふるまいながらリンジーに挨拶すると、宮長と呼ばれた小柄な女子がニンマリとした。その相貌には花が咲いたような明るさがある。


その表情を鑑みたバイロンは鋭い洞察を見せた。



『どうやら解消されたようね』



バイロンがそう結論付けると、リンジーはバイロンと同様にエレガントなあいさつを交わした。



「ええ、今朝は快便でしたわ~」



 便秘女子から快便女子へとクラスチェンジしたリンジーはさわやかに発言した。その表情ははつらつとしている。難敵を倒したリンジーは無敵感を醸し出した。


 だが、一瞬ではあるがリンジーはどことなく落ち着きのない態度を見せた。困っているわけではないが、悩んでいるような様子が見て取れる。


バイロンはそれを目にすると月末にある行事が関連していると推察した。



『次の行事ね……』



今月の末に待ち構える行事はバイロンもリンジーもいまだ経験したことのないものである。



『……競馬会か……』



 4年に一度開かれる競馬会は貴族連中にとってその威厳と財力を知らしめるビックイベントである。複数年をまたいで行われるためにその規模は大きく、そこで動く金額も小さくない。


リンジーが眉間にしわを寄せた。



「ここで粗相をすれば厄介よ……下手すればクビもあるかも……」



 競馬会は表立った競争よりもその裏で蠢く金の力がモノ言う世界である、第四宮のメイドたちにもその影響はないとはいえない。不正な金銭を第四宮のメイドが授受すれば、その監督責任を問われることは必至である……


リンジーはその点を考慮して憂鬱になり始めている。



「ねぇ、バイロン……バイロンの人脈で何かあったら教えてほしいの」



 バイロンの持つレイドル侯爵の情報網は通常では得られないものが収集できる、いわば魔道器のような魅力を秘めている、今までもその人脈のおかげで二人は厳しい事態を切り抜けてきた。


リンジーはそれを仄めかすと宮長らしい口調で発言した。



「副宮長、よろしくお願いします」



リンジーはそう言うと舌をペロッと出した、そして中年のおっさんのような表情を見せた。



「あっ、それから、彼氏にもよろしくね!」



リンジーはそう言うとその場をそそくさと離れようとした。



「だから、彼氏じゃないって!」



バイロンが間髪入れずに否定するとリンジーは鼻をフガフガさせながら宮長室へと戻っていった。



それから数日……


 頃を見計らうとバイロンは定期報告を行うべくいつもの場所へと足を進めていた。宮内から市囲へと抜ける門をくぐると足早に雑踏をぬけて路地裏にたたずむ骨董屋に向かった。


そして、しばし……バイロンの眼に目的の店が映る、


 いつもと変わらぬ独特の雰囲気は何とも言いがいたが、ドアを開けた瞬間に現れる淫靡な様相は相も変わらず怪しげである。


 バイロンはその空気を感じながら奥のカウンターに眼をやるといつもと変わらぬ様子で店主が人差し指を上方に向けた。


『いるようね』


バイロンは軽く会釈するとカウンターテーブルをくぐって二階に続く階段へと向かった。


                               *


扉を開けると芳しい芳香が鼻を抜けた。アールグレイも香りはいつもと変わらず香しい。


バイロンは鼻いっぱいにその香りを吸い込むといつもと変わらぬルーティーンでいつもの椅子にドスンと座った。


「相も変らぬ態度だな」


執事服を優美に着こなした男はそう言うとため息をついた。


「第四宮の副宮長とは思えぬ粗野な振る舞いだ」


男はそう言うとディッシャーに載せたカップをバイロンのほうに寄越した。



 バイロンは男の言葉を無視してティーカップを手に取るとその香りを楽しんだ。そしておもむろに男を見るとニヤリと笑った。



「あるんでしょ?」



言われた男は再びため息をつくと隣接する隣の部屋と向かった。


                               *


 時をおかずして戻ってきた男の手には銀製のトレーが載っていた。装飾の施された取っ手は雅であり、まったく嫌みのないデザインだ。鏡面のように磨かれた表面は実に美しい。


バイロンはトレーに一瞬目を落としたが、その視線はすぐに移った。


 その視線の行く先はトレーの上に鎮座した『ブツ』にむけられていた。バイロンは目ざとくそのブツを確認するとその眼を細めた。



『……サンドイッチ……か……』



 第四宮の副宮長として宮中で様々なものを毒味しているバイロンはサンドイッチを毎日のように口にしていた。料理の切れ端となっている高級ベーコンやハム、さらには一等品のチーズなどをパンにはさんでランチとすることも多く、庶民では経験できぬ味と風味をたしなんでいた。



『サンドイッチには自信があるんだよな、毎日食べてるし……ちょっと飽きてるんだよね……』



 バイロンはそう思ったがその思いを出さずに執事服の男の所作を目で追った。男の様子はいつもと変わらぬ優美さを秘めている。滑らかであり艶やかである。訓練された執事の所作は色気があるといっていい……



『まあ、たまにはうんちくでも聞いてやるか』



バイロンはそう思ったが、男が目の前に置いたサンドイッチを目にすると言葉を詰まらせた。



『なんだ……これは』



 長方形に切られたサンドイッチは一見すればふつうである、だがそのパンの合間にはさまれた中身には驚天動地の食材が挟まれていた。



『……フルーツ……だと』



 バイロンが驚いた表情を見せると執事服の男は銀のトレーに乗ったフルーツサンドをこれ見よがしにバイロンの視線上であおった。



 だがバイロンがその一片を手に取ろうとするや否や男は絶妙のタイミングでトレーを手前に引いた。



「報告が先だ」



執事服の男はそう言うとニヤリと笑った。




物語はいつものようにして始まりました、さて14章はどんな展開をみせるのでしょうか?

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