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第二十八話

あついぞ!!!!!(もう無理)





62

ベアーたちに絶体絶命の危機が訪れたときである、思わぬ事態が生じた――なんと大地が揺れ始めたのだ。その揺れは尋常ではない、誰しもが不安になると顔を見合わせた。


ルナが叫んだ、



「……マナよ、すごいマナ、荒ぶってるわ!!」



魔女の感性は地震の要因が魔源にあると訴えた。一方、エマは魔道兵団としての見識をみせた。



「力が収束してるのよ……あの子達がいなくなったから……いままで集められた力が……元に戻ろうとしている……あの靄があるべきところへ回帰している」



エマがそう言うと魔道器を探知する機器が煙を上げた。



「……嘘……壊れた……」



 幼子たちが祟り神となって行使しようとした呪力はマナを原動力としていたわけだが、彼らがいなくなったことでその力は再び自然へと戻ろうとしているのだろう。そして、それは思わぬ自然現象を引き起こしていた、揺り戻しとでも言えばいいのだろうか……


だが、この状況をチャンスと取らえる人物がいた、



63

それはセルジュであった、



『あの子達に申し訳が立たない!!!』



 そう思ったセルジュは町長に飛びかかっていた、決して素早い動きではないが現状を打破しようという気概があふれている。醜き男は必死になった。



それに対して、町長は容赦なく銃口をセルジュにむけた、



再び銃声が響く……



だがセルジュはそれにかまわず町長を抑え込んだ、



 一方、状況を鑑みたベアーたちはそれぞれが動いた。今まで修羅場を潜り抜けてきた勘がそうさせたのである、



ベアーはセルジュとともに町長を押さえつけ、



ルナは体勢を崩した町長の腕から散弾銃を叩き落とし、



そして、エマは地面に落ちた散弾銃を拾って、アルマの子孫である中年女に銃口を向けたのだ。



この間、わずか10秒もかかっていない……だが形勢は再びベアーたちに有利に傾いた。


                                *


「さあ、どうする!!!」


町長を押さえつけたベアーは正対するアルマの子孫である中年女に雄々しく言い放った。


「こっちも武器をもったわよ!」、


エマが容赦なく引き金に指をかけると、中年女はその顔色を変えた。


それを見たルナは更なる圧力をかけるために倒れた町長の顔面を先のとがった靴でけりあげた。



「こうなりたくなかったら銃を捨てなさい!!」



 だが、アルマの子孫の中年女は含み笑いを見せた。それどころか持っていた短銃の引き金に指をかけたのである。



「真実が露見すれば私は終わり――だけど、あんたたちが死ねば私の勝ち!!」



アルマの子孫である中年女はそう言うとエマより早くその引き金を引いた。



だがその銃口はベアーたちに向けられてはいない。発射された弾丸は思わぬ方向であった。



 凄まじい音とともに巻き上げていたチェーンが外れる、それと同時にベアーたちの上方で何かがきしむ音がする――中年女は悪魔的な笑みをこぼした。



瞬転



 ベアーたちの頭上からすさまじい勢いでリフトが落ちてきた――貨物用のリフトは一台ではなかったのだ……中年女が打ち抜いたのは2台目のリフトの安全装置の金具だったのである。



ベアーたちはまさかの展開に度肝を抜かれたが、すぐさまその場を飛ぶようにして離れた。



一瞬の間の後、轟音が洞穴にとどろく……



ベアーたちは何とか身の保全を確保していた



だが……逃げ遅れた人物がいた……



……町長である……



 落下してきたリフトの下敷きになった町長は人としての原型をとどめていないだろう。砂埃が舞い上がる中、ベアーたちはリフトの下から流れ出る血液を見て震え上がった……



だが、それこそが中年女のねらいであった、



 ベアーたちが町長に気を取られている間に中年女は素早く動くと、操作パネルのある詰所の棚からあるものを取り出していたのだ。


 なんと女の手には着火された発破ダイナマイトがあるではないか……掘削工事を容易にするために使用される戦略物資である……



アルマの子孫である中年女は二重あごをプルッと震わせた、



「この発破で通路をふさげばあんたたちはここから逃げられない」



中年女はそう言うと操作パネルのある詰所に発破を放り込んだ。詰所が黒煙を上げて破壊される。



「これでリフトも使えないわよ~」



 中年女は聖女廟にあがるルートをつぶすとケラケラと笑った。そして間をおかずして岩盤の崩れそうなところに向けて2つ目の発破を投げた。



 その刹那、轟音が響いた。壁面が崩れるとベアーたちの正面の空間は落石により完璧に閉ざされた。大小さまざまな岩は人の手で除去できる量ではない……



わずかな岩の隙間から中年女の高笑いが聞こえてくる。



「そこで死になさい~、ばいばい 、じゃあねぇ~」



 退路をすべて立たれたベアーたちは言葉を失った……自分が生き残るために町長さえも犠牲にし、それでもなんとも思わぬ女の精神性に言葉を詰まらせたのである……



 だが、しかし、黙ったところで現状が良くなるわけではない……密閉された空間の中で暗闇だけが迫っていた……



64

「クソっ……ここまで来たのに……」



 ベアーの中で怒りと悔しさが滲む。このままでは今までの行いすべてが水泡に帰してしまう。名無し合唱団との約束が反故になってしまう……



 アルマの子孫である中年女の『生』に対する妄執と、悪逆非道な行いを貫徹する遂行力はベアーたちの善意をはるかに凌駕していた……



「ちくしょう!!」



 ベアーが心の底からそう思ったときである、再び地震が起こった……先ほどとは異なる横揺れである……そしてそれと同時にベアーが袋に入れて保管していたオルゴールが鳴り出した。



「壊れているのに……鳴るはずがない……」



ベアーがそう漏らすとルナが発言した。



「マナが満ちている……さっきと違って荒ぶっていない……」



 ルナがそう言うや否やであった、再び小さな横揺れが生じた。そして不思議なことに洞穴の岩の一部が崩れた……



 かがり火を松明代わりにしたエマが崩れたほうに眼をやると明らかにぽっかりとした空間ができている……



それを見たセルジュが声を震わせた。



「奇跡だ……あの子達が……助けてくれたんだ」



セルジュはキリッとした表情を見せた。



「あっちの方向には技術者が緊急避難のために置いた船があるんだ、そこに行きつければレビ川の流れにのって外に出られる」



 一同はセルジュの言葉を耳にすると驚きの表情を見せた。考えられぬ事態が生じたことに対する素朴な反応である。だが、そこには希望の花が明いたような明るさがあった。



65

ぽっかりと空いた空間は人ひとりが通れるほどの細道であったが通り抜けた先にはセルジュの言った通り小舟が係留されていた。



小規模の地震が続くなか、ベアーたちは素早く脱出に向けての準備を始めた。



「これでいいわ、出発しましょう!」



すべての準備を終えるとルナが勢いよく言った。その声に合わせて皆が小舟に乗り込む、



だが……セルジュだけは乗ろうとしないではないか……



不審に思ったベアーがセルジュに近寄るとセルジュは首を横に振った。



「水門は閉まっているんだ……それを開けなきゃいけない」



セルジュの顔色が青い……



「先ほどの落石で詰所にあった操作パネルが粉砕されている……だから水門は手動で直接あけるしかない」



ベアーはそのとき、セルジュが腹部を抑えていることに気付いた、



「……セルジュさん……血が」



セルジュはそれに対してポツリと漏らした。



「さっき、町長を抑え込もうとした時に弾が当たったみたいなんだ……」



 セルジュはそう言うとベアーの両肩を勢いよく押した、受け身が取れなかったベアーは小舟のほうによろけると船床に尻もちをついた。


セルジュはそれにかまわず、船を係留していたロープを素早く外した。



「さあ、行くんだ。誰かがあの子達のことを伝えなくてはいけない。真実を知らしめる必要があるんだ!!」



 そう言ったセルジュはオールを使って接岸していた船を押しやった。小舟は川の流れにのると見る見るうちに接岸していた橋げたから離れていく……



「セルジュさん!!!」



 驚天動地の表情をみせると皆が声を上げた……だが、セルジュはそれに応えず、水門を開けるために必要なクランクを手に取っていた。



危機が訪れたベアーたちですが……地震のおかげで逃げ道が現れます……


ですがセルジュが……


はたしてこの後どうなるのでしょう?

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