第二十七話
あついぞ!!!!!!(以上)
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ベアーは子供たちがいなくなったことに気を取られることなく、最後のミッションを敢行するべく声を上げた。『慰撫して祀る』という行為の最後の仕上げである。
「あの子達との約束を果たすんだ。」
ベアーがそう言うとセルジュが続いた。
「彼らを聖人として祀るんですね!!」
セルジュはそう言うと大きく息を吐いた。
「聖女廟はあの子達のために使いましょう。皆にアルマのおこなった真実を知らしめて、本当の聖人があの子達であることを伝播させるんです!」
セルジュは勇んだ、己の所業を悔い改めるチャンスが到来すると先頭を切って歩き出した。
*
靄がうすれると視界が開けて街の様子がわかるようになった。倒れていた人々は徐々に意識を取り戻しているようだ……みな茫洋した表情を見せているが命に問題があるようには思えない。
ベアーたちはそれを横目に確認すると足早に聖女廟に向かった。『鉄は熱いうちに打て』という言葉があるが、ベアーたちは祟り神であった幼子たちを聖人として祀るためには微塵の遅滞も許されないと判断した。
だが、しかしである――聖女廟に赴いたベアーたちの正面にはいまだ靄が深くかかり前進するには困難であった。
イリアもすでに精神力を使い果たして力がないことを明示した。ロバも疲労が蓄積しているらしくその場にへたり込んでいる……
「聖女廟のどこかにこのオルゴールをどこかに安置したいんだけどな……」
ベアーはアルマを排除して聖女廟の中心に『名無し合唱団』のシンボルを据えたいと考えていた。遺体のない子供たちを祀る上で一番大切なことである。
「闇歴史に光を当てて真実をこの聖女廟から知らしめるには……なんとしてもやり遂げなきゃいけない」
ベアーはそう言ったが素朴な意見をルナが述べた。
「だけど、これじゃあ、中に入れないわよ」
靄に阻まれたベアーは腕を組んだ……苦虫をつぶしたような表情をみせる……
「……どうしよう……」
ベアーがそう言った時である、セルジュが思いついたように発言した。
「はいれますよ、中に!」
セルジュは自分が聖女廟設計にかかわったことに胸を張った。
「遠回りになりますけど、我々が抜けてきた地下大河をさかのぼると、建設用に作ったリフトがあるんです。そのリフトは今も動いてるはずですから、それを使えば問題ない!」
セルジュはそう言うとベアーたちについてくるように手招きした。
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地下大河を川に沿って遡上した一行はその道すがら、これまでのことを整理しながら進んだ。
「いかにして、名無し合唱団を祀るか……」
すこぶる重要な命題である、アルマのために造られた聖女廟を非業の死を遂げた幼子たちのために置き換えねばならない。
「新しい墓碑を造るのが筋なんだけど、すぐにはできないからね……それよりもこの聖女廟をあるべき形にしないと」
ベアーがそう言うと、他の者もそれに同意した。
「内装を変えたり、改装して立派にするよりも『本質』をおさえる必要がある。名無し合唱団の御霊は……この聖廟の中心に据えたほうがいい」
ベアーがそう言うとエマが反応した。
「棺をどかして台座を使えばいいんじゃない……そして、その上にこの朽ち果てたオルゴールを鎮座させれば」
「……仮安置か……悪くないね」
ベアーがそう言うとセルジュが胸を張った、
「そんなのは簡単だ!」
セルジュはそう言うと醜い顔に自信を滲ませた、
「棺をすえつけた部分は金具で固定されている、それを外せばいいだけだ。工具があれば誰でもできる」
セルジュはパッと明るい表情を見せた、
「あとは台車に棺を移せて運べばいい、これだけの人がいれば十分に可能です」
セルジュがそう言い切った時であった……一同の前にリフトと思しきものが見えてきた。
*
セルジュはリフトに隣接した詰所に入ると操作パネルについた取手の一つを操作した。チェーンのまかれる音が洞穴に大音量で響くと作業員と物資をのせるためにリフトが上方から降りてきた。
ベアーたちは貨物をのせるためにリフトが下りてくる様子を眺めた。
だが、この音がいけなかった、ベアーたちはリフトの駆動する音に気を取られ、背後から迫る存在に気が付かなかったのである……
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リフトが地面に到達するや否やであった、想像だにしない音が洞穴にこだました。
タン!!!
乾いた音がベアーの耳に入る、その音はかつてベアーがウィルソンとともにドリトスで仕入れた羊毛を運搬している時に経験した音である。
「銃だ!!!」
ベアーたちが振り向くとその後方から声が飛んだ。実に不快な声色である……
「すべてきかせてもらったぞ!」
そう言ったのは舶来品の銃を構えた町長であった、その手には2連式の小銃が握られている。
「我々は靄のかからないところに避難していたんだがな……靄がかすれた時に光がさして――そのとき、お前たちの姿が眼にはいったのだよ。あの状況下でまともな人間などいるはずがない……何かあると思った」
町長は続けた。
「お前たちの後をつけて、その会話を盗み聞きさせてもらったが……なるほど……どうして」
町長が不敵に笑うと、その後ろから現れた中年女が妙に高い声で言い放った。
「私も聞かせてもらったわ~」
町長の隣にいた中年女はそう言うと操作パネルのある詰所のほうに向かった。彼女の手にも短銃と思しき物が握られている。中年女はセルジュに銃を突き付けて詰所から蹴りだすとすぐさま操作パネルを元に戻した。
ベアーたちの退路がふさがれる、町長と中年女はその場の主導権を握ると落ち着いた表情を見せた、実に禍々しい表情である…
「どうやら、お前たちはこの靄の原因となる呪われた存在をあの世に送ってくれたようだな」
町長はベアーたちの会話の内容をよく理解していた。町長の隣にいたアルマの子孫の中年女も同じようで実に淫猥な笑みを浮かべている
「呪われた合唱団を成仏させてくれるとは」
町長がそう言うと中年女が嬉しそうな声で続いた、
「一度死んだと思ったら、蘇ってトラブルまで解決してくれるなんてね……フフフ……あんたたち最高だわ~」
中年女は脂ぎった唇をぺろりと舐めるとハスキーボイスで二の句を告げた。
「私たちに再び風が吹いできたわ~」
町長がそれに続いた、
「町の者はまだ意識がはっきりしていない。もちろん法王庁の使節たちも……ここでお前たちがいなくなればすべては我々の思い通りになる」
町長は悪辣な笑みを浮かべた。
「すなわち、真実を隠してアルマを崇め、そして我々がこれからも君臨する。レビを治める領主としてな!」
町長がそう言い切ると中年女がほほ笑んだ。
「でも、そのためにはあんたたちに消えてもらわないとね」
それに対してベアーが吠えた、
「お前たち、人間としての恥はないのか!!」
言われた二人はせせら笑った。
「そんなものはとっくに消えてしまったよ。100年前から代々の祖先が嘘をつき続けているんだ。あるはずがないだろ」
その物言いには倫理観など微塵もない――人畜にももとっている
「このど畜生!!」
ルナが叫ぶとアルマの子孫である中年女が笑った。
「ど畜生ですって、こっちからすれば真実を白日の下に晒そうとするあんたたちのほうがど畜生なのよ~!!!」
中年女は悪逆非道な行いを貫徹する物言いで発言した。
「最初の一歩を間違えるとね、その後の修正はきかないのよ。今更、殊勝にしたところで200年間の過ちが消えるわけじゃなし――それならとことんまで突き詰めていかないとね~」
アルマの子孫の中年女は悪人として腹を据えているようである……
「今度は確実に、息の根を止めてやろう!!」
町長は手にしていたダブルバレルの散弾銃をベアーたちに向けた。散弾銃は発砲時に弾丸の中に入っている小さな金属玉が散らばるため、至近距離から撃たれれば逃れるすべはない……
ベアーたちに絶体絶命の危機が訪れた。逃げ場を失ったベアーたちの背中に死神が手をかけたのである。
名無し合唱団の御霊を祀るためにベアーたちは聖女廟に向かいましたが……その途中で現れたのはあいつらでした……
さて、この後どうなるのでしょうか?




