第二十三話
読者の皆様、今日はすこぶる暑いです……水分補給を!
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さて、ベアーたちがパスタを提供している時……
エマはベアーの言った『慰撫して祀る』という考えにおいて『祀る』という部分の核心要素に触れようとしていた。
エマの脳裏にベアーの発言が浮かぶ、
『あの子達はアルマによりその肉体を奪われました。すなわち彼らの遺骨は存在していません。ですが彼らにゆかりのある物が残っていれば彼らの魂をみちびくことができる……』
そしてもう一つ、アルフレッドが交信中に発言した内容がそこに重なる、
『魔道器が複数あるということは複数のコアが存在する……一つを破壊したとしても祟り神となった子供たちの力がそげるとは思えない。だが子供たちと魔道器をつなぐ『根っこ』がみつかれば、そのつながりを切断することで道が開けるやもしれん』
エマはベアーの発言とアルフレッドの想定を鑑みて自分なりの推論を立てた。
『魔道器を示すこの波動を分析すれば根っこの位置がわかるはず……その根を見つけることができれば……ベアー君の言ったゆかりのある物も……』
エマは魔道器を示す機器の中にある波動をみつめた。彼女の勘はベアーの言った『ゆかりのあるもの』とアルフレッドの発言した『根っこ』がリンクしていると訴えている。
『きっとそうよ!』
そう思ったエマは計器に記された波動の中に共通項がないかつぶさに観察した、
*
だが、しかし、その作業はうまくいかない……
波動の流れはランダムで規則性もなければ、共通するものもない。それぞれが別の生き物のようにして自由闊達に動き回る。彼女の推論をことごとく潰していく……
『全然だめだわ……』
エマは泣きそうになった……
「あの子達をなんとかしないと大変なことになる……洪水が穀倉地帯を襲えば社会が荒廃して維持できなくなる……とんでもないことに」
エマが絶望を吐露したときである、隣にいたロバが突然にくしゃみをした。不細工な顔が歪んでさらに不細工になる……
エマはその表情を見て半笑いになったが……思わぬ事態が発生していた。
「ちょっと、何やってんの…」
なんと、くしゃみをしたロバの鼻汁はエマの持つ機器の表面にべったりと付着していた……一方、ロバはシレっとした表情を見せてほほんとしている……
「君は……ほんとうに……」
エマは悪態をつきながら機器の画面を服の袖で拭おうとした。
そのときである、袖のほつれが機器についていた振幅を調整するつまみに引っ掻かかった。
「……あっ……」
「………」
「……嘘……」
「………」
「……マジ……か」
機器つまみは魔道器を示す感度を調整するものだったのだが、それが最弱になった時に思わぬ動きが機器の表面に現れた……
『そうか、感度を上げすぎてたんだ……逆だったんだ』
すぐさま、エマは機器に現れる動きを追った、
*
『……思った通り……』
『この動き…』
『収束してるんじゃ』
機器に現れた魔道器を示す波動の中にあった不可思議な動きを分析した彼女はただの魔道器とは異なる反応を感知していた。魔道器を探知する機器の感度を変えたことにより、波動とは異なるものが目視できたのだ。
『やっぱり……』
時折、現れるノイズのような波形に規則的な動きがあったのである。
『これを追いかけて、いけば』
急いでロバの背に乗ったエマは乳白色の靄を避けながら目的の場所を目指した。
*
そして、しばし、靄の薄いところを通りながら木々の間を抜けると……彼女の眼にはどこにでもありそうな寄生木が映っていた、
『……私の予想が正しければ、このどこかにあるはず……』
魔道兵団の団員の分析能力……否……彼女の勘は寄生木のどこかに子供たちにゆかりのあるものがあると結論を下していた。
『だいたいの場所は特定できた……あの子達にゆかりのあるものがあるはず……』
一方、エマには素朴な疑問もあった、
『ゆかりのあるもの……一体なんなのかしら……』
エマはまだ答えの出ない疑問を持ってあたりを見回した。だが、不幸なことに寄生木近辺の靄の濃度が急激に高くなった。ロバは野生の勘をはたらかせるとエマを見て『無理です!』といわんばかりの表情をみせた。
「せっかく、チャンスが巡ってきたのに……」
エマはため息をついた。
「この濃度じゃ、探すどころかこっちが昏倒するわ」
エマがそう漏らしたときである、突如としてさわやかな一陣の風が吹いた。その風は乳白色の靄の中にトンネルのような空間を作り上げると人が通れるほどのスペースを確保した。
エマはその現象を見るとすぐに理解した
「イリアね、ダークエルフの力…」
エマがそう言うとその耳にイリアの声がかすかに飛び込んできた、その声は消えりそうだがなんとか聞き取ることができる、
『……それを探せばいいのね……』
エマはイリアの消え入りそうな声からそう判断すると寄生木に向かって歩き出した。
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さて、その頃、ベアーたちは……
パスタを出した後にベアーたちは小さな円筒形の陶器に入っているものを提供した。
子供たち全員にいきわたると3品目をルナが読み上げた。
「次の料理はコールスローでございます」
コールスローとはあら微塵に刻んだ野菜をマヨネーズベースのソースであえたサラダである。一般家庭でもよく作られるもので彩りにコーンやニンジン、風味づけにセロリなどの香味野菜を入れることもある。
「どうぞ、ご賞味ください!」
ルナは丁寧な口調でロザリーたちにすすめた。
*
ロザリーは目の前の陶器に入ったサラダを見て訝しんだが、思い切ってフォークで口に運んだ
ベースになるキャベツ、彩のトウモロコシ、そしてコクと塩味を出すために細かく刻まれたベーコン(カリカリにローストしてある)がソースと相まって口の中で踊る。シャキシャキとした野菜の触感、そしてトウモロコシの『プチッ』とはじける歯触り……いずれも食べる人間にとって楽しみを与えるインパクトがある。
「………」
だが、咀嚼していたロザリーはその味のなかに欠点を見出したていた。その表情に灯りがついたような変化がある。
「酸味が強いわ、これ」
ロザリーは勝ち誇ったように言った、
「すっぱいわよ、このサラダ!」
酸味の強いサラダはおいしいとは言い難い、実際にベアーたちの出したコールスローは酸味が強かった。先ほどのクリームパスタと比べれば天と地の差があった。
子供たちも同様の感想らしく『酸っぱい!』と口ぐちに言った。顔の四角い女の子に至ってはルナをにらみつけて『マズイ!』と言い放った。
ダイナーを覆う空気が一瞬で変わるとロザリーは口角を上げた、
「どうやらヘマしたようね?」
ロザリーが意地悪く言うと子供たちもそれに賛同する姿勢を見せた。そしてそれと同時にダイナーの窓際に先ほどまでなかった乳白色の靄がかかり始める。
状況が一転してベアーたちにピンチが訪れたのだ……
だが、ベアーもルナもたじろぐこともなければ、動じることもなかった。淡々とした所作で次に控えた料理の準備をしだした。
その様子を見たロザリーは不快な表情を浮かべた、
「失敗を認めないつもりね、はったりをかまして誤魔化すつもり!!」
ロザリーはそう言ったが、ベアーが何食わぬ顔で発言した。
「次の料理がメインとなります」
ベアーは胸を張って堂々とそう言い放った。
エマは子供たち『祀る』ために必要なものを見つけるために一本の寄生木にたどり着きます。
一方、ベアーはコールスローを提供したものの子供たちの口に合わず怒らせてしまいます。
はたして大丈夫なんでしょうか……




