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第二十一話

皆さま、熱中症にはお気を付けください!

44

アルフレッドとの交信を絶たれた一同であったが、不幸なことにさらに追い打ちをかける事態が生じた。エマの持っていた魔道器を探知する機器がけたたましく鳴りだしたのだ……



機器の波形は先ほどと異なり、花びらのような形が変化していく、



「……エネルギーだけ噴出している……」



再びあたりを靄が覆い始める……



「魔道器が見つかれば事態の収束もあり得るのに……靄が邪魔で調査もできない……」



 エマがそう言うと乳白色の靄はさらに勢いを増した。そして間をおかずして機器に現れた紋様が姿を変えた……



よくみればその紋様は数字の≪8≫を45度傾けた≪∞≫になっている。



「これ、まずいわよ……ベアー」



ルナはそう言うと顔をひきつらせた。



「……祟り神の力……無限大ってこと……」



 ルナに指摘されたベアーは沈思した……そこにはあきらかに苦悩が滲んでいる。怒りと憎しみに満ちた子供たちの力は絶大であり、それをいさめる方法があるとは思えない……


だがその一方で、ベアーは『祟り神』という言葉から一つの可能性を導き出していた。



「……ダメかもしれないけど……」



その表情には自信があるわけではない……だが、光明を感じたフシがある。



ベアーは一同を見回した、



「あの子達を鎮められるかもしれない……」



ベアーはそう言うと自身の見解を展開した。


                                 *


「あの子達を『力』をもって諌めるのは不可能です。200年にわたる呪いの力は我々の能力で調伏できるものではありません。」



ベアーは自分たちの持つ魔道の力が彼らに及ばないことを認識していた。



「鍵は二つ、その二つを合わせることであの子達のあらぶりを鎮められる可能性がうまれる」



ベアーは僧侶の勘を働かせる一つ目を述べた、



「一つは慰撫すること」



ベアーは続けた、



「そして、もう一つは彼らを祀ること」



 ベアーの表情はいつもと変わらぬものがある。この厳しい状況下で平静でいられるのは不可思議ともいえるが、一同から不安を払しょくするだけの余裕がある。



「でもこの二つのカギを手に入れるためには皆で力を合わせる必要があります。」



ベアーはそう言うとセルジュを見た。



「もちろん、あなたもです」



ショックで半ば呆けていたセルジュであったが、ベアーをみると声を震わせた。



「ああ……手伝わせてくれ……」



 自分の信じていたアルマの闇に触れ、彼女の保身のために犠牲にされた子供たちの姿を見たセルジュにとって、ベアーの申し出は何よりもありがたかった。



「少しでも贖罪がしたい、私の過ちを……なんとかしたい……」



セルジュがそう言うとベアーはうなずいた、そして今度はロバのほうに目をやった、



「おまえもだぞ!!!」



 言われたロバは『ええっ……めんどうくさい~です』といったしぐさ(前脚を顔の前まで上げて足先をフリフリする)を見せた。だが……エマがチラリと太ももを見せるとその表情を一変させた。


その様子を見たベアーは一同に語りかけた、



「あの子達に必要なのは安寧です。そのためには慰撫して祀らねばなりません」



 ベアーは重ねてそう言うとそのために必要な要素を伝えた。その二つの要素を耳にした一同は頷くとそれぞれに役割をはたすべく知恵を巡らせた。



「それぞれが、自分たちにできる最善を尽くす。それが僕たちにできる限界です」



 ベアーは朗らかな表情でそう言いきった。そこには祟り神を畏怖する心情とともに彼らと対峙する姿勢が見て取れる。



ルナはいつもと違うベアーの様子に妙なものを感じた。



『あれ……なんか……いいカンジじゃない……』



58歳の魔女はなぜかしらねど、その頬を赤らめていた。



45

べアーは『慰撫して祀る』ために具体的な方法を一同に伝えた。その内容は以外にもシンプルであったが祟り神となった子供たちを鎮める論法としては筋が通っていた。


「神に祈っても意味はありませんからね。」


 子供たちの熟成された呪力は壮大であり、その力を正面から受け止める能力はベアーたちにはなかった。太平の世をぬくぬくと過ごしてきた彼らに呪いを打ち返すだけの神通力は宿っていない……


 それゆえに祟り神となった彼らに対して敬意と誠意をもって『満足』してもらうという僧侶的な手法をベアーは導き出していた。



ベアーはセルジュを見た、



「材料を集めてください、山、川に必要なものがあります。」



セルジュは何も言わずにうなずいた。


ベアーは続けた、



「エマさんは、あの子達にかかわるモノを見つけてください」



 エマは魔道器を探知する機器を見るとベアーの言ったことを貫徹する自信を見せた。魔道兵団の団員としての経験がそうさせている。そこにはアルフレッドの問いかけた疑問の解があると踏んでいた。



「イリアさんは僕たちのバックアップをお願いします」



言われたイリアはその指先で美しい紋様を中空に描いた……そこからさわやかな風が吹き出す。



「シルフの守りをあなたたちに」



イリアがそう言うとベアーたちにまとわりつこうとしていた乳白色の靄が退けられた。


シルフに守られたベアーは一同を見回した。



「僕とルナは準備を始めます」



ルナはベアーの考えを理解しているようで袖をまくった。



「これでダメなら……しょうがないよね」



悲観的な物言いだがルナの表情は実に明るい、



「祟り神をいい感じで慰撫して、お祀りするぞ、大作戦!!!」



ルナが天を衝く作戦名を言い放つと周りの一同はこぶしを突き上げた。



46

ロザリーは子供たちの合唱する様子を見ると不可思議な思いに駆られた、



『……力はとても強い…』



 子供たちの歌声は練習の成果が凝結していた。乳白色の靄は町を覆い尽くしただけでなく、街道付近まで拡がりっている。さらにはドーム状の形状を取ると外部と遮断するような外壁とおぼしき濃密な層を作り上げていた。



『……十分すぎるといっていいわ……』



だが、ロザリーにはどことなく不安があった。



『……でも、落ち着きがない……』



 旋律をおう子供たちの声はしっかりとしているが、芯がはいっていないように感じられる。ただ歌っているだけのようだ……



『やっぱり、アイツの言ったことが……』



 ベアーの言った言動は明らかに子供たちの心に影を落としている……だがその迷いは天誅を下すうえであってはならないことであった。



『怒りを凝縮させ、呪いを打ち込む……でも、まだそこには至らない……』



 ロザリーの視野にはドーム状になった靄の外側が映っていた、そこには異変を感じた人々が集まっている……


 内側に入ろうとした者が昏倒するために、皆二の足を踏んでいた。人々の中には早馬で駆け付けてきた魔道兵団の一行もいたが、彼らも対応に苦慮している。



『ふふっ』



ロザリーは慌てふためく人々を嘲笑った、



『思い知るがいい!』



そんな風に思ったときである、ロザリーの背後から声が聞こえてきた、それはイリアの声であった。


                                   *


「準備ができたわ、ロザリー」


イリアがそう言うとロザリーが答えた。



「あら、ずいぶん時間がかかったじゃない、もう逃げたと思ったわ」



その物言いはベアーたちの行動など歯牙にもかけぬ余裕がある。



「あなたが私たちに与えたチャンスを行使させてもらうわ」



イリアがそう言うとロザリーは嘲笑した。



「いいわよ、どうせ意味のない茶番でしょうけど……」



ロザリーはそう言うとイリアに厳しい視線を浴びせた。



「妙なことは考えないほうがいいわよ、あんたたちの力じゃ、私たちの足元にも及ばない」



ロザリーが半ば恫喝するように述べるとイリアは涼しい顔で答えた。



「わかってるわ、そんなこと……」



イリアの様子をじっくりと観察したロザリーは子供たちに声をかけた。



「間抜けたちの顔を拝みに来ましょう」



ロザリーがそう言うと子供たちは手を上げて『おっー!!』と声を上げた。




ベアーたちは祟り神となったロザリーたちを慰撫して祀ろうと考えます。はたしてこの試みははうまくいくのでしょうか?

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