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第九話

18

さて、ほぼ同じころ……


 泉のほうに足を向けたベアーの眼には肌の白いエルフたちが楽しげにたわむれている様子がうつっていた。若き童貞の少年はマッチングがうまくいけば酒池肉林の展開があるのではないかという期待を膨らませた。


『……たまらない……』


垂涎の光景が目の前に展開している。ベアーの懐に入った財布を確認した。財布の中には若干ながらの余裕がある、今までためてきた貯金が……



『出し惜しみはしない、ここが勝負だ!!』



 そんな風にベアーが思うと、二人のエルフがベアーの近くにやってきた。その視線はベアーの財布に注がれている。



 ベアーは二人の容姿ケツとムネを確認すると悪くないと判断した。そしてそれとなく二人に料金を確認した……



『思ったよりも安い……良心的な価格じゃないか……』



二人のエルフは怪しく笑うとベアーの耳元でささやいた。



『……二人同時もOk……だと』



 エルフの娘がほほ笑むと童貞少年の中で熱い焔が沸き起こった、すぐさま脳裏にイマジネーションが湧く。



『はじめては、3P……悪くない!!』



ベアーは即決すると、二人に金を払おうとした。



 と、そんなときである突然にエルフの娘たちが茂みのほうに耳を傾けた。そして何やら不可思議な表情を見せた。そこには『何か』を感じた節がある……



 二人のエルフ娘は急に真顔に戻ると飛ぶようにして泉から出て森の奥へと行ってしまった。ベアーのことなどすでに忘れている……



『……どうなってんだ……』


『俺のニャンニャンが……』


『酒池肉林の展開が……』



 ベアーはそんな風に思ったが……その耳に突然に妙なざわめきが聞こえてきた。小さな音であるがそれはメロディーのようにさえ思える。美しい旋律ではないが、哀愁漂うメロディーの流れは望郷の念を思い起こすような力がある。



『なんだろう……』



気になったベアーはそのざわめきのほうへと足を向けた。


                                 *


 ベアーが向かった先では思わぬ存在が隊列を組んでいた。2列に整然と並んだ彼らは正面にいる指揮棒を持った存在に対峙している。


明らかに彼らは合唱隊である。



『ルルル~ 13人~』


『るるる~ 頑張っている~』


『ルルル~ 悪魔との戦い~』


『るるる~ 頑張っている~』



 ベアーは妙なフシとその歌詞に不思議なものを感じた。だが、その音程よりも驚いたのは合唱隊の面々である……



『この子たち……あの時の……』



 ベアーの眼には宿の厩でロバと戯れていた子供たちが映っていた……彼らが身に着けていたコスチュームには同じ紋様が描かれている。



幼子たち(6歳から9歳程度)は指揮棒に合わせると発声した。



『るるる~ 13人~』


『ルルル~ 世界を救うのだ~』


『るるる~ 世界を革命するのだ~』



 一小節、合唱隊が歌い終ると、フードをかぶったリーダーと思しき人物がその指揮棒をベアーに向けた。



『誰だ、お前は!!』



 その声はやはり幼い、子供であるのは明白だ。だが異様なまでの緊張感がある……軽い殺意が滲んでいると言って過言でない……


ベアーはあまりに驚いて声を出すと合唱隊の一人が反応した。



「あっ……お前!!」



声を上げたのは背虫の幼子である、ロバの背中に必死に上ろうとしていた人物だ。



「見たな!!」



合唱隊の幼子たちはその声を聴くとベアーのところに一斉に駆け込んで周りを取り囲んだ。



「邪魔をするな!!」


「そうだ、邪魔するな!!」



たどたどしい口調でありながら居丈高に発言してくる幼子たちの様子はなかなかに猛々しい。


だが、所詮は小さな子供たちである、ベアーは幼子たちを歯牙にもかけぬ様子を見せた。


それに対して顔の四角い女の子が怒りをぶちまけた。


「私たちを馬鹿にするつもりね!!」


言われたベアーは素知らぬふりをした。


「だから、人間はダメなのよ!!」


 顔の四角い女の子がそう言った時である、背虫の幼子のおなかがグウッと鳴った……その音を聞いたベアーは素朴な疑問を呈した。



「ひょっとして、おなかがすいているのかい?」



 言われた背虫の幼子はお腹を押さえると首を横にブンブンと振った。ベアーの問いかけを一生懸命に否定しているのだ。だが明らかにその様子からは裏腹であることが推察された。



「何かたべさせて……あげようか……」



 ベアーは続けようとしたが……突然にその頬に鋭い痛みが走った。ベアーが手で触ると、なんと流血しているではないか……



「これ以上、私たちにかかわろうとするなら容赦しないわ」



そう言ったのは指揮棒を振っていた人物である……その手にはいつのまにか弓が握られている、



「次は威嚇じゃ済まないわ!」



 そう言うとフードをはいで指揮者は顔を見せた……10歳ほどに見える女の子である。だが普通の人間ではない……ダークエルフの血脈がその肌の色と耳の形にあらわれている。



「ロザリーおねぇちゃん、やっちゃえ!!」



 顔の四角い女の子がそう言うとロザリーと呼ばれた指揮者の女子は弦を引き絞った。その動作に遅滞はない、確実にベアーの息の根を奪うであろう……



『マズイ……』



ベアーはそう思った。



19

だが、しかし、思わぬ事態が生じた。なんとベアーとロザリーの間に美しき女性が割って入ってきたのである。その人物は先ほどベアーがケツとムネを確認した美しきダークエルフの娘だ。



「ロザリー、エルフの里で流血沙汰は困るわ!!」



両手を上げると美しきダークエルフの娘は矢の軌道をふさいだ。



「お願い、止めて!」



言われたロザリーとダークエルフの娘の間で火花が散る……



「ここは、あなたの生まれた場所でしょ、諍いを生むのはエルフの恥よ!」



 言われたロザリーは不快な表情を浮かべてダークエルフをにらみつけた。その形相は鬼のごとき厳しさがある。



「関係のない人間まで巻き込む必要はないわ、ねぇ、おねがい!」



 美しきダークエルフの娘が懇願するとロザリーと呼ばれた少女は不快な表情を崩さずに合唱隊の子供たちに目を向けた。



「場所を変えるわよ!」



 ロザリーがそう言うや否やであった、子供たちはいっせいに茂みの中に飛び込んだ。そして実に素早い動きで蜘蛛の子を散らすようにしてその場から離れていった……


                               *


ベアーはほっと息を吐くとダークエルフの娘に感謝した。


「助けてもらってありがとうございます」


ベアーがそう言うとダークエルフの娘は憂いのある目を森のほうに目を向けた。



「もうここは終わり……すべてが沈む……あの子達を怒らせたから……」



その表情は絶望に満ち満ちている……ベアーはその美しさよりも、言動の中身が気になった。



「どういう意味ですか?」



ダークエルフの娘は問いかけに答えずに口を開いた。



「アルマ……あなたの過ちは……今……糺される」



 ダークエルフはポツリと漏らすとベアーを見た。憂いのある目が括目されると……彼女の視線がベアーにくぎ付けになった。



「……あなた……もしかして」



 ダークエルフはベアーに近づいてその頬に両手をあてた、ひんやりとした体温と柔らかい手の平がベアーの頬を包む。


 大人の女性の色香がベアーを包む……ベアーはダークエルフの醸す香りにポワンとした表情をみせた。



『ひょっとして、これはチャンスなのか……童貞卒業のチャンスなのか……』



 思わぬダークエルフの行動にベアーは鼻息を荒くしたが……ダークエルフは悲しげな表情を浮かべて発言した。



「……どうやら、あなたに力はないようね……」



 ダークエルフは意味深にそう言うと、跳ね上がるようにして木の枝に飛び乗った。そして10mほど先にある枝に向けて跳躍した。実に美しい軌道である。その動作はあまりに美しく神秘的とさえいえる。


ベアーは呆然と眺めた。



『……いったい何なんだ……』



ベアーがそんな風に思ったときである……地面をから響いてくる馬蹄の音がその耳に入った。



「あ、アイツ!!」



 短い脚を回転数で補いながらダークエルフを追うのはロバであった、土煙を上げてダッシュするその速さは尋常ではない。主人のことなどアウトオブ眼中である。



置いてけぼりを喰ったベアーは唸ったが、ロバは瞬く間に消えてしまった。



『どうなってんだ、一体……』



ベアーは口をぽかんと開けたままその場に立ち尽くした。




エルフの里でマッチングしていたベアーですが、思わぬ存在に遭遇します。それは妙な紋様のあるコスチュームをみにつけた子供たちの合唱団とその指揮者でした。


 さらには美しきダークエルフがそこに現れて、状況が一変します。不可思議な状況にベアーは首をかしげるほかありません……


さて、物語はこの後どうなるのでしょうか?

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