第八話
16
エルフの里……そこはレビのダウンタウンから20分ほど緑深き緑道を馬車で進んだ先にある集落である。この時期は観光地として『知る人ぞ知る』という場所になっているのだが、その実態は逢引の場所である、
……もちろん売春ありきである……
ベアーが入口と思しきところから中を覗き込むと森林浴にいそしむエルフや透明度の高い湧水にその身をさらす観光客がいた。みな楽しげであるが、その眼は何かを物色しているようなフシがある。
『マッチングか……』
マッチングとは気になる相手と小話をしながら『値段』の交渉をする行為である。指を使って値段を提示する者や、耳元で愛の言葉をささやくようにする者もいる……
ベアーはマッチングにいそしむ人々を横目にしながら入口にあるブースにむかって入場料30ギルダーを払った
『さて、どんな感じだろう……ダークエルフとやらは』
ベアーは目当ての対象を探すべくその目を凝らした。
*
『なかなか見つからない……』
ダークエルフはエルフ族の中でも極めて珍しい種族である。エルフ元来の出生率が低いだけでなくダークエルフは100年に一人程度しか生まれない為、希少種族といって過言でない。……人生においてダークエルフを目にせずに生涯を終える者も珍しくない……
『本当にいるんだろうか……』
ベアーは疑心暗鬼になってダークエルフを探してみたが、やはり普通のエルフしか目に入らない……
『まぁ、そんな簡単に見つからないか……』
ベアーがそんな風に思ったときである、その眼に異様な人だかりが映った。不思議に思ったベアーはその人だかりに近づいてみた。
*
『あっ、あっ、あれは……』
なんと、ベアーの視覚にはおとぎ話で耳にした存在がいるではないか。
『褐色の肌……長い耳……絹糸のような銀髪……間違いないダークエルフだ!!』
ベアーは後ろからそれとなく近寄った……
『くびれた腰、すらりと伸びた脚……そして引き締まっているケツ……完璧じゃないか』
ベアーはのどをごくりと鳴らした……
『顔と胸を確認せねば……』
ベアーはそう思うとダークエルフの顔を確認しようと回り込んだ。その動作に遅滞はない、高き志を持つ童貞少年の動きは迅速であった。
『あっ……美人だ…っていうか超美人だ…』
憂いのある切れ長の目、すらっとした鼻梁、少し厚めの唇、細いおとがい……エルフの特徴をそなえているものの女性的な美しさがあふれている……
そして、もう一つ……性少年には欠くことのできない重要なポイント
『……絶妙の大きさ……』
赤いチュニックのような衣服は胸元がVの字になって空いているのだが、その谷間はまさに絶景。大きすぎることもなく、小さすぎることもない……申し分のない様相である……
ベアーの中で熱い思いがたぎる、
『これはぜひ、お願いしたい!』
そう思ったベアーであったが、前方に目をやるとかなりの数の男たちが熱い視線をダークエルフに注いでいた。
『競争率はかなり高いな……』
一方、ダークエルフは交渉を持ちかける男たちに怪しい視線は浴びせるものの『OK』のサインを出していない……
『価格の問題なんだろうか……』
ベアーは素朴な疑問を持ったが……そのあとすぐにダークエルフは絹糸のような銀髪をかきあげると男たちに侮蔑の視線を浴びせて掻き消えるようにしてその姿を消してしまった。その後にはアホ面をさらした男ども残されている……
『向こうのほうが何枚も上手だな……戦略変更して別の娘を探そう』
ベアーはそう思うと泉のほうへと足を向けることにした。
17
さて、その頃……ルナは
単独行動を望んだルナは滝壺の近くにその身を置いていた。爆水からほとばしるしぶきは離れていてもその身に降りかかってくる。
ルナはその飛沫を丁寧に観察した……
『おかしい……』
魔女の感性はルナに訴えかけた。
『何かおかしいのよね』
この後、滝壺を離れたルナは緑の深い森の入り口に立った。作業をしている木こりたちが切り落としたヒノキの材木をエッコラ、エッコラと掛け声をかけて運んでいる。
ルナはその様子をちらりと見ると近くにあった巨木に触れた……
『ここもおかしい……』
魔女の感覚はルナに妙にもどかしさを与えた。
『違和感あるのよね……』
『魔源の流れがゆがんでるのかな……』
ルナがそう思った時である、その後ろから突然に声がかけられた。
*
声をかけてきたのは旅姿の女である、その口調は若干ながらも驚きがある、
「あなた、ゴルダ卿の館でベアー君と一緒にいた……」
ルナが怪訝な表情を見せて振り返ると、そこには見たことのある顔があった。
「あっ、あなた……たしか魔道兵団の人……」
ルナはゴルダ卿との死闘の中で魔道兵団の紅一点として館の地下に姿を現した女性を思い出した。アルフレッドの指揮を受けて負傷した人々を介抱していた団員である。
「そうよ、あの時はお互いに大変だったわね……」
旅装の女はそう言ったが二人の間には微妙な雰囲気が流れていた。それというのも魔道兵団と魔女の関係が良好とはいえないからだ。かつての魔女狩りといわれた歴史的な事象があったため、お互いの間には妙な緊張感がある。
先に口を開いたのは魔道兵団の女であった、
「私はエマっていうの……ここには物見遊山できたの。」
それに対してルナが答えた
「私はルナよ、ベアーと一緒に聖女の祭りを見に来たの」
ルナはそう言うとエマの表情を読みながら発言した。
「別に敵対する気はないから安心して、腕輪もついてるし…」
ルナが魔封じの腕輪を見せながら言うとエマも落ち着いた表情で答えた。
「こっちも喧嘩を売りに来たわけじゃない……」
二人の間にあった緊張は若干ながら緩和した……
「お互い、それぞれにやることがありそうね……」
エマは意味深にそう言うとルナに背を向けた。
「またの機会があればお茶でも飲みましょう」
エマは明るくそう言うとルナのところからそそくさと離れた。その様子は余計な面倒事を起こしたくないという意思が垣間見える。
ルナは背を見せて去りゆくエマを見て思った。
『……魔道兵団の団員が単身で物見遊山……』
ルナは魔女としての知恵を働かせた、
『……私がマナの流れを感じようとしていたのを見ていたのに…それも無視した……魔道兵団の人間なら、嫌味の一言もあっていいはずなのに……』
魔女の勘がささやきだす
『……なにかおかしいわね……』
『……滝からも木々からもマナが感じられなかったし……』
『それに魔道兵団も動いている……』
ルナの中で強い疑念がわいた、
『やっぱり、ここには……』
ルナは58歳の魔女の表情を見せるとレビという土地に『何かがある』と確信した。
ニャンニャン目当てのベアーはダークエルフを目にしますが……残念ながらダークエルフはいなくなってしまいました。
一方、ルナは偶然ながら魔道兵団のエマと顔を合わせます……魔女の勘はレビという土地に何かがあるのではないかと訴えますが……
さて、物語はこの後どうなるのでしょう……




