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第四話

長い冬瓜劇場を終えた店の親父は満足するとやっとのことで日常的な内容を問いかけた。


「あんたたち、観光客かい?」


冬瓜の説明に聞き疲れたベアーであったが親父の機嫌を損ねないようにするため素直に頷いた。


「ええ、聖女の沐浴を見に来たんです。でも人が多くて姿は見れないし……おまけに屋台は高いし……今のところ何とも言えないです」


ベアーが率直な感想を述べる店の親父は苦笑いした。


「そうだろうな……4年に一回……この田舎町は豹変する……いい意味でも、悪い意味でも。とくに屋台に関しては観光客から評判が悪いな……地元の連中が通ううちみたいなところに来てくれれば何とかなるんだけど……」


 親父がすまなさそうに言うとテーブル席に座っていた地元住民である陰険そうな老女が突然に声を上げた。


「屋台の連中がぼったくってんのは町の税金として売り上げが持っていかれるからだよ。6割だよ、6割!!」


その物言いは実に不愉快そうである、


「4年に一度のイベントも町に売り上げを上納しなけりゃ、商売ができないようになってるのさ……観光客からぼったところで、町の住民にはさほどの利益にはならないのよ!」


老女が憤るとテーブルの向かいにいた同じく陰険そうな老女の妹が続いた。


「町の行政と聖女の身内の連中には恩恵がたんまり、関係ない住民には何にもなし。私たちみたいな連中には聖女の沐浴も不愉快なイベントなんだよ!」


どうやら老女の姉妹にはこのイベントも不快なものらしい……


「おまけに、国の税金を払うのが嫌だからって、寺院の直轄地にしてもらう算段までしちゃって、ろくなことしないんだよ。あいつらは!」


相当鬱憤がたまったような物言いで二人の剣幕はすこぶる荒まじい……



『なるほど、町の住民でも恩恵を被れるのは一部だけで、他の住人にはうま味がないんだな……おまけに国税を払うのを嫌がって寺院と結託するつもりなのか……町の幹部連中はなかなかの策士だな』



ベアーがそんな風に思うと、ルナが素朴な疑問を呈した。



「これだけ大きなイベントなら、町一丸となって成功させるのが普通なんじゃないの…………皆で富を分けて発展すればいいのに……」



それに対して店の主人が答えた、



「お嬢ちゃん、この問題は根深いんだよ。100年前からの軋轢なんだ……」



店の親父がそう言うと老婆の姉妹が声を上げた。



「よその人間は首を突っ込まないほうがいいよ、これはあたしたちの問題なんだ!」



ベアーはその様子を察するとルナの肩をやさしくたたいた。


「この祭りにはこの地域のゆがみが凝縮してるんだ、下手に詮索して妙なとばっちりを受けるのもよくない……とりあえず、出よう」


ベアーはルナの耳元でそう囁くと勘定を払って席を立った。



アルフレッドは弟子のもたらした難題に顔をしかめていた。


『この感知は不可思議極まりない……』


 代々が魔道器の職人といわれ、数多くの魔道器と対峙してきたアルフレッドは弟子の持ってきた6角形の石板を見ると嘆息した。



『まるで、生きているようだ……』



アルフレッドは石板から現れたオーロラのようなビジョンを見ると口元に手を当てた。


「団長、波形は不規則な波を打っています。形も不安定で弧を描かないものも少なくありません。このような形は今まで見たことがありません」


 弟子の持ってきた魔道器を探知する計器は明らかに通常とは異なる様相を呈していた。安定しない波形は人間でたとえるならば混乱の極み……錯乱状態といって過言でない。


「通常なら一定のペースで魔道器の存在を『点』としてとらえる。そして誰かが使用すれば『波』として感知する……反応の弱いものなら波形が小さく、逆であれば大きい……だが、この波形には一貫性がない……」


アルフレッドは地図を広げて、魔道器の反応のあるポイントと重ねた。


『このあたりに関しては通り一辺倒の知識しかないな……歴史を読み解くほかない。』


アルフレッドは地政学なアプローチだけでなく歴史をたどるように弟子の女に指示した。


「近隣にある図書館の蔵書では意味がないぞ。この地に関する古い資料を分析する必要がある。」


弟子の女はうなずくと、他の団員に指示するためにすぐに伝書鳩の用意を始めた。


「この波形は尋常ではない、いそげ!」


アルフレッドは弟子の女を叱咤した。


                                 *


それから18時間……


 各地に散らばる魔道兵団の団員から情報が集まるとアルフレッドと弟子の女は頃を見計らって資料の分析を始めた。


 だが、この作業は想像以上に難儀した。古文の読解が厄介だったこともあるがそれ以上に集まってきた資料がほとんど役立たなかったためである。地域に関する歴史資料は凡庸としていて魔道器の存在をにおわすものは皆無であった。


「あの地域に関する歴史は100年前からははっきりしていますが、それ以前のことがわかりません。200年前、魔人の残した悪魔を倒した聖女が降臨したとされる土地です。歴史書が存在しないはずないのですが……」


弟子の女がそう言うとアルフレッドは太い腕を組んだ。



「……存在しないのではない、隠されているのだろう。」



アルフレッドはそう言うと一つの結論を出した。


「民話や伝承にも手を付ける必要があるな」


言われた弟子は怪訝な表情を浮かべた。


「うちの兵団には学者や研究者もいます。彼らが調べた結果がこれです……民間伝承など調べても何も出ないのでは……」


言われたアルフレッドは意味深な笑いを浮かべた。そこには弟子の考えが浅いという思いがある。



「お前は現地に飛んで調査しろ、地元の住民に悟られぬようにしろよ!」



アルフレッドは『さっさと行け』と言わんばかりの所作を見せて弟子をせかした。弟子は不服そうだがすぐさまアルカ縄のリュックを背負うと旅支度を始めた。


                                *


そして、しばし……弟子が出て行ったのを確認すると……



『この事案は普通ではないな……こちらも心せねば……』



アルフレッドはそう思うと大きな決断を下した。



『やむを得ん……賢者たちの知恵を拝借するとするか』



アルフレッドは無表情のまま食器棚の上に飾ってある野鳥をかたどった工芸品をふれた。



『まさか、この炭焼き小屋の地下に秘密があるとは思わんだろ……』



 間をおかずして……床板の一部がアコーディオンが折りたたまれるようになると地下へと通ずる階段が現れた。



『この階段を下りるのも3年ぶりだな……』



アルフレッドは深いため息をつくとランタンを手に取って暗い階段を下りて行った。




魔道器の職人でもあるアルフレッドは弟子のもたらした事案に顔をしかめます。そしてその事案を解決すべく秘密の空間へとその身を潜ませます。


炭焼き小屋の地下には何があるのでしょうか……賢者の知恵とは?

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[良い点] 待ってました!いつも楽しみに見てます
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