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第十九話

16

 ルナが来てから初めての日曜が訪れた。


「おかみさんがおばあさんと手紙でやり取りしたらしいんだけど、夏まではここでいてもいいって。」


「そうなんだ、3週間くらいだね。じゃあ、お店の手伝いしないとね」


「うん」


ルナは素直に頷いた、ベアーは殊勝なことだと思った。


「ところで、今日の休みは何するの?」


「今日は、用事があるんだ。フォーレ商会って言う貿易商のおじいさんの所に行かないといけないんだよ。」


「ふ~ん」


ルナは見た目こそ子供だが、実年齢は大人に等しい。ベアーの行動には興味があった。


「パトリックっていう友達がいるんだけど、彼のおじいさんが病気なんだ。」


ルナはベアーを見つめると一言発した。


「あたしも行く」


「えっ?」


「だから、あたしも行く」


「いや、別に来なくても……」


ベアーはそう言ったが……


「絶対行く!!!!!!!!!」


ルナは有無を言わさぬ口調で押し切った。


                                *


 こうしてベアーはルナを連れてロイドの元を訪れた。ロイドは先週と同じように庭に水をまいていた。


「今日はお客さんもいるんだね」


ロイドはルナを見てニコニコしていた。


「さあ中に入ってくれたまえ」


そう言うとロイドは二人を客間に通した。


 ルナは初対面のロイドに対してそつのない対応を見せた。子供の容姿を存分に生かしつつ、粗相のないように立ち回る。見ていたベアーは舌をまいた。


「賢い、お嬢ちゃんだ。ちょっと待っててくれるかい、ベアー君の回復魔法が終わるまで」


ロイドはそう言うとレモンケーキと紅茶を出した。


「おいしそう……」


ルナの目は一瞬でスイーツに釘付けになった。


                                *


 ロイドは客間から自室のカウチソファーに移るとベアーの回復魔法(初級)を受けた。


「あの子は変わった子だね。」


「ええ、気が強くて……」


ロイドは笑った、だがその目は鋭い。


「魔女なんだろ?」


「えっ?」


「腕輪だよ、あれは魔封じの腕輪だ」


「よく気づかれましたね。」


「普通はわからんだろうけど、長く生きていると色々な者に会う。若いころ魔女と商売したこともあるよ。」


ベアーはロイドの見識に驚きを隠さなかった。


「だが、魔女とは……最近では珍しい。ベアー君、君は不思議な交友関係を築いているようだね」


ロイドは感心した様子だった。


「いえ、行き当たりばったりと言うか、たまたまというか」


「ベアー君、人の縁というのはそういうものなんだよ」


ロイドは続けた。


「人間はね、人のつながりの中でしかいきていけない。そうした『縁』をうまくつなげられた者が最後は勝つんだ。」


ロイドは淡々と話すがその口調は熱がこもっていた。


「人脈は宝だ、商売でも人生でも」


若いベアーにとっては今一つピンとこない話だったが、かつて祖父が同じような話をしていたのを思い出した。


                                *


 客間に戻るとルナがレモンケーキを頬張っていた。


「ルナ……それ」


「おいしいよ」


「俺の分じゃない?」


「うん、おいしい」


「えっ?」


「ごちそうさまでした」


ルナはベアーの分まで平らげると何事もなかったかのように微笑んだ。


さすがのロイドも苦笑した。


「来週はもう少し多めに買っておくよ。」


ベアーは不服だったがロイドのいる手前、ルナを怒るわけにもいかず悶々とした。


「紅茶はね、心を落ち着かせる効果があるんだ。」


ロイドはそう言って紅茶を入れた、どうやらベアーの気持ちに気づいているようだ。


                               *


 その後、取り留めもない世間話をしていたがベアーは気になっていたことを尋ねた。


「ロイドさん、パトリック、今日はいないんですか?」


ロイドの表情が曇った。


「実は今週は会っていないんだ」


「えっ?」


「学校にもいってないらしくて……」


「大丈夫なんですか?」

「ああ、悪い知らせは入ってないから……」


そうは言ったもののロイドの顔色はよくない。


「僕に何かできることがあれば……」


「いや、いまはいい、気にかけてくれてありがとう」


ロイドのことは気になったがパトリックの居所を知っているわけではないので助け舟を出せるわけではない。その日はそれで暇乞いすることにした。


                                *


帰る道すがらルナがベアーに話しかけた。


「ねえ、パトリックってどんな人?」


「超絶イケメンだね、見たら驚くと思うよ」


「マジで?」


ルナはニヤついた。


「あたし、スイーツとイケメン大好物なんだよね」


その時である、ベアーの目がキラリ光った。


「そういえば、俺のレモンケーキ食ったよね」


ベアーはジットリとした目でルナを見た、そこには明らかに怨嗟が含まれている


「だっておいしいんだもん!」


「そう言う問題じゃないでしょ!」


「なによ、ケチ、5000ギルダー持ってんだから、そのくらいいいでしょ!」


言われたベアーは一瞬、ドキッとした表情を浮かべた。


その様子を見たルナは『何かおかしい』と感じた。


「5000ギルダーどうかしたの?」


「………」


ベアーは沈黙した。


「えっ、使っちゃったの?」


「………」


ベアーは沈黙を崩さない。


「変な女に貢いだりして……」


「いや……そう言うわけじゃ……」


貧乳に騙されて身ぐるみはがされたとは格好悪くて言えないため、ベアーはスタスタと歩き出した。


ルナはその背中をジロリと見た。


『怪しい』


その目は魔女のそれであった。



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