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第二十四話

56

会議は一気に紛糾し、統制が取れなくなり始めた。


 糾弾していたクレイのほうが指弾を受けるという事態になったのである、査問委員も校長も顔色を変えていた。


『……どうなっとるんだ……』


 候補生の代表である総代が中間試験における過去問のリークを下級生に持ちかけた事実は倫理的に問題がある……たとえ実際に資料の受け渡しがなかったとしても……


 フレッドとホフマンは土壇場でルドマンがクレイを裏切ったことに言葉を失ったが、その一方で状況が変転したことは喜ばしい……


フレッドは思った、



『ルドマンを調教して……査問会で証言させる……それも土壇場で…』



ホフマンは唖然とした



『パトリック……シュゴイ』



ポーカーフェイスを崩さないパトリックを見た二人は息をのんだ。


                                   *


 一方……クレイの状況は一転して悪くなった……だが、クレイも馬鹿ではない、ホモを駒にしてでものしあがる人物である。クレイは不快な表情を隠さずにその知恵を最大限にいかそうとした。



『……起死回生の一撃はないか……』



 クレイは下唇を噛みしめながら熟考する……そして瞬間的に脳裏に浮かんだ策はパトリックの過去をあげつらうことであった。


クレイはすぐさま発言した、


「パトリックはブーツキャンプに収監されたことのある前科者です。昨日の暴行事件でルドマンを嬲ったことで嘘の証言をさせているんです!」


クレイは息巻いた。


「前科を持つ不逞の輩です、ルドマンごときを操るのは朝飯前でしょう!」


 パトリックの過去を暴くことで、その人間性を貶めて、ルドマンを操作しているとクレイはハキハキと発言した。


円卓を囲んだ連中が互いに顔を見合わせる、査問委員と校長はクレイに注目した……



『査問委員の顔色が変わったぞ……ここでもう一押、奴の人間性を暴くことでこの流れを変える!』



 そう判断したクレイはしたり顔を見せるとかつてパトリックが巻き込まれたポルカでの人身売買について触れた。



「パトリックは恐ろしい事件に一枚かんでいた人物です。『群青の館』という新興宗教団体の人身売買に船を貸すという過ちを犯しています。……決してまともな貴族とはいえんでしょう。人としてもおろかとした言いようがありません!」



クレイが勝ち誇ったかのように言うとパトリックが落ち着いた声で反応した。



「確かに、私には前科があります、それは否定いたしません。過ちを犯したのだからブーツキャンプに収監されたのも当然と言えましょう。ですがクレイ総代に質問があります。」



パトリックはそう言うとクレイをねめつけた。



「私に前科があるという事実はどこでお知りになったのですか、それも事件の詳細に関してまでも……教職員が知っているならまだしも、総代と言えども一候補生であるあなたが知るはずはありません。もしや個人情報を不正に手に入れたのでは?」



 パトリックがそう発言すると査問委員と校長の顔色が再び変わった。そこには生徒の個人情報が漏えいしたことに関する危惧がある……もちろんそれは許されることではない。



『……なるほど……そこをせめるか……』



 生徒の個人情報漏えいは芳しいものではない、特に学園職員から生徒に対して漏れ伝わったとなると職員を統括する側としても黙って見過ごすことはできない。


校長は口角を上げた、



『関係者の処分と監督責任を問うつもりか、パトリック……ただでは転ばんというわけか……』



 校長はクレイの事案だけでなく、そこから個人情報の漏えいまで一挙に結び付けたパトリックの論法に息をまいた。



『口は災いのもとというが、クレイの巧みな弁舌を逆手に取るとはな……さらにはこちらにも火の粉を振りまいてきた……』



 査問会に何とも言い難い雰囲気が生まれる、それはそこにいるすべての人間にとって芳しくない事態を仄めかしている……



 だが、そこで一人だけその雰囲気にのまれない人物が発言した、今まで沈黙している数学教師マルチンである。腕を組んで目をつぶって聞いていたが突然に発言した。



「パトリック、査問委員でさえも沈黙せざるを得ないようにした貴様の口技はなかなかのものだ。だがこの査問における議題は貴様が中間試験において過去問を入手してチートしたか否かがだ。」



マルチンは議論の本質を言い穿つと査問委員と校長に進言した。



「私はそこにいるホフマンから言質を取っています。すなわちホフマンの資料がフレッドにわたり、そこからパトリックに行ったことを認識している……」



そう言ったマルチンはホフマンを尋問した時の書類があることを示唆した、



「私が作成したホフマンの事情聴取にかんする書類は完ぺきで非の打ちどころのないものと自負しています。事案を鑑みて連座して責任を問うのが筋だと思いますが。」



 マルチンがそう言って懐から何枚かにわたる便箋と思しき書類を見せるとホフマンは下を向いてうなだれた、その様子はマルチンの言動を肯定する様子がみてとれる……



校長と査問委員はパトリックに視線を移した。



「何か申し開きはあるか?」



 言われたパトリックはフフッと笑った。その笑みにあきらめの境地のような達観がある。負け戦を自覚した敗軍の将といえばいいのだろうか……


だがパトリックは『敗北』をいさぎよく受け入れるだけでは済まさぬ粘りを見せた。



「マルチン先生、ホフマンの言質を取って書類を作成したことは大変ご立派です、ですが一つ勘違いされていることがある。」



パトリックは滔々と述べると、円卓を囲んだ皆がパトリックに注目した。



「この事案の首謀者は私,フォーレ パトリックであり、ホフマンもフレッドも枝葉の存在であります。したがって連座制という点においてフレッドとホフマンに対して同じ罪を負わしめるのはいかがなものかと思います」



パトリックが一人で罪をかぶる姿勢を見せるとホフマンとフレッドは度肝を抜かれた……



『あいつ、一人で罪をかぶるつもりか……』



フレッドとホフマンがそう思うとパトリックが毅然とした物言いを見せた。



「いかなる処分もお受けいたしましょう、では、これにて、後免!」



 パトリックはそう発言すると小気味よく立ち上がった。マルチンの糾弾に対して反論できないと認識した敗軍の将は『放校』という罰を受けてブーツキャンプに帰還するという選択を自ら選んだのである。



すべてが終わったと誰もが思った……



マルチンの厳しい糾弾をかわせないと思ったパトリックは自らがカンニングの首謀者として裁かれることを選びます。このままではパトリックは放校になるのは間違いありません……


本当に……そうなるのでしょうか……それともまた別の展開が……(まだお話は続きます!)

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