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第十三話

30

サセックス家の当主はパトリックとマディソンの会談がおわるのをまっていた……


『いつまでかかるのだ!!』


不穏な状況が続いているため当主の精神には落ち着きがない


『領民の氾濫など握りつぶせばいいのだ……』


当主はそんな風に思う一方で、『枢密院にこの事案が漏れ聞こえてはマズイ』という思いもあった。


『領民たちに反乱を起こされたと都の貴族たちに知れれば恥をかくだけでは済まない。最悪、領地の没収まであり得る……』


 領民に反乱を起こされたという事実は領地の統治ができていないということになる。それは領主としては芳しいことではない……貴族のトラブルを裁く枢密院に事実が知られるのは何としても防ぎたい……


 そんな思いをサセックス家の頭首が持ったときである、入口のドアが開いてパトリックが足早に入ってきた。


                                   *


「ご当主、領民の代表者と話してまいりました。」


パトリックはそう言うと条件を述べた。



「……この条件が限界かと……」



パトリックが内容を述べると当主は激高した!!


「ふざけるな!! 息子を差し出せだと、そんなことできるか!! 向こうは石つぶてを投げてわが執事と兵士を傷つけたのだぞ!!」


ブチ切れた領主はパトリックの胸倉をつかんだ。その形相は鬼にも勝っている……


 だがパトリックは乾いた目で領主を見ると、懐からマディソンのもたらした証拠の一部を出して、息子のしでかした余罪を含む暴行事件の詳細を述べた。


「暴行事件の主要な証拠は向こうが握っています。彼らの動き次第ではご子息のほうが厳しい沙汰を受けるかと……下手にこのことが枢密院に知られればサセックス家の名前に泥を塗ることになるでしょう」


パトリックはそう言うと策士的な思案を吐露した。



「ですが、条件を変えろというのであれば……私に考えがございます……」



パトリックはそう言うと相も変らぬ美しい顔でサセックス家の頭首を見た。



「この条件はいかがですかな?」



 交渉の条件を聞かされたサセックス家の当主は生唾を飲み込んで沈黙した……だが、その沈黙は『否』ではなく『是』とする姿勢に傾いていた。



31

一方、その頃…マディソンは暴徒になりかけた町民たちをなだめてすかしていた。


「暴行に対する見舞金は何とかなる。あとは暴行犯であるサセックス家の跡取りの処遇だが……」


マディソンがそう言うと興奮した町民が声を上げた。


「ここで八つ裂きだ! 婦女暴行犯の貴族なんて生きている必要はない!!」


「そうだ、そうだ!!」


感情を制御できない一人がそう言うと、日頃のうっぷんをためている町人たちもそれに続いた。


「モラルのない貴族の息子なんて、生きている必要はないだろ。そんな奴は袋叩きだ!」


「そうだ、そうだ!!」


「最低でも、去勢だ!!」


 エキサイトした群衆の様子は先ほどよりも勢いが増している……マディソンと治安維持官は状況が芳しくないことに口を真一文字に結んだ。


「皆の衆よ……暴徒になれば我々のほうが処理されてしまう。したたかな貴族であれば逆にこの状況を利用して我々を鎮圧してくるだろう。暴力的な行為は逆に我々にとってマイナスになる。向こうにもけが人が出ている……これ以上の暴力行為は慎むべきだ」


 マディソンが冷静な見解を述べたが、群衆はそれを無視した。それどころかマディソンを疑う様子を見せた。



「あんた、まさかサセックス家と妙な約束を取り付けたんじゃやないだろうな?」



邪推した町民の一人がそう言うと、ほかの者が続いた。


「あんたは俺たちの代表者だが……被害者を家族に持つわけじゃない。俺たちの気持ちがわかるのか!」


娘を暴行された領民がいきまくとほかの領民たちもそれに同調した。


マディソンはヒートアップする町人たちの様子に沈黙した……



『マズイな……制御できん』



 マディソンがそう思ったときである、ふたたび館の入り口のドアが開いて門扉の前に美しい青年が現れた。



32

月光を受けた青年の姿は実に神秘的である。その青年は群衆全体を見回した後、一点を凝視してから視線を戻した。一歩下がったところにいたフレッドは意味深なパトリックの目の動きに首をかしげたが、パトリックはそれに構わず群衆と対峙した。


「今の話は聞かせてもらった、どうしても当主の息子をせっかんしたいということだな?」


パトリックが涼しい声で述べると群衆の一人、農夫の男が声を上げた。


「その通りだ、息子は複数の娘たちを暴行した。そのけじめを取らなきゃならん!」


 暴行された被害者の父親であろう、ゆるぎない制裁の意思を表した。学はなさそうだが、娘を思う気持ちは人一倍強そうだ……


パトリックは被害者家族を見ると気炎を吐いた。



「ならば、領主の息子の命をとるがいい。お前たちの気がおさまるようにな」



パトリックは実に乾いた口調で述べた。その響きは感情が喪失しているようにも思える。


「その代わり、お前たちも同じ末路をたどることになるぞ。貴族の身内に手をかければ一族郎党が憂き目にあうことになる。その覚悟あるならな!」


 パトリックがそう言うと農夫の男がさらにその身を乗り出した……そこには交渉さえも厭う様子が見て取れる。明らかに拳で決着をつけようという意思がありありと窺える……



「俺には、脅しはきかねぇぞ!」



農夫の男がそう言うとパトリックは恐れることなく対応した。



「そうか、ならば私をなぎ倒してからにしろ!」



パトリックがそう言うと隣にいたフレッドがひきつった表情を見せた。



『……マジかよ……この状況で啖呵を切るのか……町人の奴らめっちゃエキサイトしてるのに……』



マディソンにたてついた農夫はパトリックに敵対する様子を見せた。


「いい度胸じゃねぇか、小僧!」


農夫はそう言うとパトリックの前に進み出た。



「もう、俺には失うものはない……上の娘は暴行された後……心を病んだ。父親としては何もしてやれなかった……そのけじめは必ず取る!!」



 頭は悪そうだが、その分その意思は固そうだ。知恵の足りない人間の意固地になった姿勢ほど厄介なものはない……だが、そこには父親としての意地も滲んでいる……



「貴族だろうと、士官候補生だと、俺には関係ない!」



農夫はそう言うとパトリックに襲い掛かろうとした。



マディソンは思った、



『……マズイ……』



 マディソンは先ほどパトリックとの会話で、この騒乱を収束する条件をあらかた決めていた……だが感情的になった被害者家族の激高で状況は変転して芳しくない方向へと向かっている。


『あの候補生がやられてしまえば……すべて水泡に帰してしまう……』


 農夫は容赦なく鉄拳をパトリックの顔面に叩き込もうとしている、このままいけば騒乱の収束どころではないだろう……



『賠償どころではない……むしろこちらが……鎮圧されてしまう』



マディソンの表情は凍りついた。




激高した農夫の父親はパトリックに襲いかかろうとします、はたしてこの後どうなるのでしょうか?

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