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第十二話

受験生の諸君、明日はセンター試験です。英語における単語と熟語は覚えたものがそのまま素点に直結することが多々あります。本日は中途半端に過去問を解くよりも、単語、熟語の復習、暗記に時間を使うのも悪くないと思います。


何はともあれ、体調管理に万全を期すように!!

28

パトリックは相も変らぬ美しい顔で領民の代表者と思しき男のところに向かった。先ほどの頭髪のない領民の隣にいた壮年の男である。


「私は士官候補生のフォーレ パトリック。そしてこちらはローズ フレッドだ。私がこの事案における交渉の全権を委任されている。」


パトリックは物怖じすることなく続けた。


「我々はサセックス家の人間ではない……それ故この事案に関して中立的な立場をもってことに当たる。」


パトリックは当事者の貴族ではなく士官候補生であることを前面に押し出した。



「ではお前たちの用件を聞こう」



 パトリックがそう言うと領民のリーダー格の男はパトリックに値踏みするような視線をあびせてから口を開いた。


「私はこの町で医者をしているマディソンという。此度は領主の息子の暴虐を糺に来た」


 マディソンという人物は他の領民と異なり理知的であり、パトリックは交渉する相手としては厄介に思えた。


『こいつは馬鹿じゃないな……』


パトリックはそう判断するとマディソンの主張に耳を傾ける方針を取った。


 マディソンは脇にいた治安維持官を呼ぶと被害者の事情聴取の資料や捜査結果を記した文章を提示した。さらには暴行現場に残されていた遺留品や、犯人の特徴を裏付ける証拠を出した。



「これを見ろ!」



 完璧といっていい内容である、通常の裁判の手続きを踏めば100%有罪にできるだけの証拠といっていい。


「この一年の間に5名の若い娘が未遂も含めて襲われている……そして我々はその犯人を捜すべく半年以上の時間をかけて捜査した。そしてその結果、サセックス家の嫡子が関与していると結論付けた。」


 マディソンはさらに暴行された娘たちの診療記録を提示して、暴行された娘たちが精神的に追い込まれている事実を知らしめた。


「高貴な貴族といえども、今回の事案は許せるものではない。我々としてももう黙ってはいられない。」


治安維持官がそう言うとマディソンが要求を述べた。



「被害者たちに対する十分な賠償とサセックス家の嫡子の引き渡しを求める」



 完璧な証拠を突きつけられたパトリックは言葉を失ったが、その一方で彼らのやり方に問題がある点をついた。


「窓ガラスが割れて室内にいた執事と兵士が大けがをした、あれは明らかに誰かが投擲したものだ。お前たちの中にその行為に及んだ者がいるだろう。その者たちの引き渡してもらおう。さもなくば交渉は進まないぞ」


パトリックがそう言うと治安維持官がしらを切った。


「なんの話か分からんな」


 したたかに言い張る治安維持官の姿勢は領民を守るという姿勢が色濃く見られた。サセックス家の横暴に対する反撃は合法といわんばかりである……松明を持った領民たちもその姿勢を支持する様子を見せた。


『マズイな……』


 パトリックは領民たちがかなりエキサイトしていることに気付いた。すでに一触即発といって過言でない。治安維持官が居直ったのも領民の様子を肌で感じているからだろう…


だがパトリックはそこで引く姿勢を見せなかった。


「お前たち、よく聞け。サセックス家は貴族の中でも名家だ。平民が大挙して押し寄せたとなればこの事案は暴動として処理されるはずだ。さすればお前たちは反乱分子として扱われる……その沙汰は厳しいぞ!」


パトリックはさらに続けた、


「お前たちの中にはサセックス家と刺し違えてもいいと考えている者もいるのだろうが、それほどことは甘くないぞ。貴族に反乱を起こした平民は一族郎党、そして、その子々孫々まで憂き目にあうことになる。」


 パトリックが貴族の持つ平民に対する蔑視意識とそこから生じる異様に厳しい罰則を容赦なく行う貫徹性を述べると領民のリーダー格であるマディソンが口を開いた。


「我々は矛を構えるわけではない。穏便に交渉は進めたい!」


マディソンは意外に冷静である、パトリックはその様子を見逃さなかった。



『こいつは、衝突を望んでいない……ならば交渉で活路を見いだせる……』



パトリックは瞬時に判断すると美しい表情を変えずに思わせぶりな言動を見せた。


「では先ほどの事案はどう対処する、サセックス家もけが人がでている、きちんとした対応をそちらがとるべきであろう。それに治療も必要だ」


パトリックがそう言うとマディソンが不快に応えた。


「いいだろう、私は医者だ……治療に関しては一肌脱ごう」


マディソンはそう言うと領民たちに向けて声を上げた。


「けがの治療を済ませてくる、それまでは待つんだ!!」


 マディソンがそう言うとパトリックは心の中でほくそ笑んだ。そして入り口の門を少し開けるとマディソンを引き入れた。



29

パトリックは館の中にマディソンを招き入れると、けがをした二人の様子を見させた。二人とも軽症で命にかかわることはなかった。


そして、


一通りの治療を終えたマディソンに対してパトリックは単刀直入に尋ねた。


「そちらとしてはどうしたいのだ?」


マディソンはそれに対して答えた。


「私の主張は先ほどと同じだ。息子の引き渡しと賠償だ。」


それに対してパトリックが答えた。


「お前もわかっているだろう、貴族の館にスリングを用いて投石したことは許されざることだ。サセックス家が潤沢な資金を使って司法を懐柔すれば、お前たちの行為は平民の氾濫として処理されるぞ。」


パトリックは反乱を起こした平民の末路を語った。


「下手な立ち回りを見せれば枢密院の審理においてつぶされる、したたかな貴族は平民の命など歯牙にもかけんぞ。」


パトリックは説得を試みた。


「そちらの言い分で飲める条件はこちらも飲むつもりだ。だが息子の引き渡しは無理だ」


パトリックはサセックス家の領主が溺愛する息子を突き放さないと判断していた。


「賠償金額の引き上げか、その他の条件で折り合いをつけられぬか?」


言われたマディソンは深い思考をみせた。


「お前のような若ぞうが交渉できるとはおもわん、ましてサセックス家の領主と渡り合うとは。」


マディソンがそう言うとパトリックは息を吐いた。


「ここにいるフレッドは御三家といわれる大貴族のローズ家の嫡子だ。ローズ家がこの事案を取り上げればサセックス家もただではすまん」


パトリックは現状を淡々と述べた。


「平民の統治ができない人物であれば、それは貴族としては失格だと思っている。此度の事案でけじめが取れないようであれば我々がサセックス家を枢密院に告訴してもいい。」


 マディソンの表情はまだ懐疑的である、貴族を信用できない思いがあるのだろう。むしろサセックス家が潤沢な資金を用いてローズ家を懐柔するのではないかという疑念さえわいている……



「……なんともいえん……」



 マディソンがそう言うとパトリックは厳しい表情を見せた、そこには明らかに今までとは異なる冷徹さと、常人とは異なる冷え冷えとした昏さがある。


『………』


マディソンはその眼をみるとハッと気づかされた、



『……この目は……似ている……』



 マディソンは25年間という医者の経験の中で厳しい判断を迫られたことが幾度となくあった。とくに馬車にひかれた母子を治療するに当たり、彼女たちの命を選別したことはわすられぬ過去であった。



『……あの時、私は子どもを助けるために、瀕死の母親の治療をあきらめた……あの選択は医者としては正しかったはずだ……だが、母親を死なせたということも否めない事実だ。ある意味、私は人を殺めていた……』



医者としての冷徹な目は母親を見捨てなければ子供の治療が滞るという厳しい決断を下していた。



『この候補生の目は……あの時の私と同じだ……医者でありながら母親の命を切り捨てた私の目と……』



 昏くて深い……罪深き眼である、マディソンは自分を見つめる美しい青年の瞳に自分と同じものがあると直感した。



『この士官候補生は……人を……殺めたことがあるのか……』



 一方、パトリックもマディソンの洞察に対して感じるところがあった、それはマディソンと同じ推察である。



「私もあなたと似た経験をしています……命を助ける医者とはまったく違いますがね」



パトリックが表情を変えずにそう言うとマディソンは妙な親近感を覚えた。



そして、その親近感はマディソンの思考に変化をもたらした。



「領主を説得できるのであれば、条件を変えてもいい……それならこちらも領民を説得できるやもしれん。」


マディソンがそう言うとパトリックはあらかじめ考えていた案を提示した。



「この条件なら、飲めないか?」



言われたマディソンはしばらく沈思した後――仏頂面でうなずいた。




サセックス家の当主から交渉の全権を委任されたパトリックは群衆と対峙します。そしてその群衆のリーダーと腹を割って話すことで活路を導き出そうとします。


はたして、パトリックはいかなる条件をマディソンに提示したのでしょうか?

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