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第十一話

今回は少し少なめです

26

松明をもって集まっていた領民は50人を超える、彼らは『領主に会わせろ!』と叫んでいた。


「よくも娘を手籠めにしやがったな!!」


 そう叫んでいるのは50代前半の血気さかんの親父である、頭髪がないため松明に照らされたぼうず頭が煌々と輝いている。


「貴族が町娘に手を出すとはどういうことだ!!」


親父がそう言うと周りの領民たちも声を上げた。


「そうだ、そうだ!!」


「顔を見せろ!!」


集まった町人たちはシュプレヒコールのように言葉を合わせた。


「貴族なら、きちんと説明しろ!!」


「そうだ、そうだ!!」


領民たちは襲われた娘のけじめを取るべき集まってきたようでその表情は怒りに打ち震えている。


「先月も、ハンターに襲われた娘がいるんだぞ。お前のところ息子がやったんだろ!!」


「先々月もだぞ、うちの姪っ子がどんな思いをしたのかわかっているのか!!」


 どうやら領民たちは領主の息子が暴行事件に関与していることをわかっているらしく、すさまじい舌鋒を浴びせた……ほとんど罵詈雑言といって過言でいない


「息子を出せ、きちんとけじめを取らせろ!!」


「息子を去勢しろ!!」


領民たちが怒鳴る姿を小窓から確認したパトリックは冷徹な目で状況を観察した。


『どうやら、バカ息子に余罪があるようだな……もしそうなら、あいつらは暴徒になる……』


パトリックは沈思した。


「下手に動けば、こちらまでとばっちりがあるかもな」


どうやらフレッドも同じことを思っているようでその顔つきは蒼ざめている。


「暴徒となった連中が入ってきたら、ただじゃ済まないだろう……俺たちフルボッコにされるんじゃないのか?」


フレッドが声を震わせるとパトリックは頷いた。


 領主とその地域の領民との関係は昔からいざこざが尽きないものである。特におさめる税に関してはトラブルとなって武力闘争になることも少なくない。かつては圧政を敷いた領主の一族郎党が農民に火あぶりにされて打ち取られたという事件も存在している。それ故、貴族がおさめる帝王学では領民の統治に関しての書籍が何百冊も出版されている……


だが、今回のケースは明らかに領主側に問題がある……特にその息子に……


「早めに手を打たねば……まずいことになる」


 パトリックがそう思ったときである、突然、子窓のガラスが割れた。そしてそれと同時に初老の執事がどさりと崩れ落ちた……その側頭部からは出血しているではないか……


パトリックは倒れた執事の近くにある丸い石を見て唸った。



「投擲か……この大きさと形状なら……投石器スリングだな」



 スリングとは木枝にとまった鳥を落とすのに使う古典的な投石器である。縄を編んで石を包める部位を作り、その両端を紐のようにしてのばしたものだ。遠心力を用いて石を投げるため手で投げるよりも遠くに石を運ぶことができる。言い換えれば破壊力抜群である。投擲者が熟練であった場合は命中率も高く、動かないターゲットであれば十分に屠ることも可能である。


パトリックは少民たちがエキサイトしている状況を鑑みると声を上げた。



「ご当主、意見具申いたします!!」




27

パトリックの意見を聞いたサセックス家の頭首は苦虫をつぶしたような表情を見せた。


「ご子息に婦女暴行の余罪があるのであれば、領民たちは許しはしないでしょう。彼らは暴徒とさほど変わりません。このまま引き下がるとは思えない。特にこの土地の領民は血の気の盛んな連中が多い」


パトリックは血の気の多い領民の特性をのべながら続けた、


「領民たちに反乱を起こされれば領主としての地位も危うくなるのは必至です、邸宅の中まで彼らが入ってくれば貴族のメンツは丸つぶれです。それに我々とて暴徒に襲われれば多勢に無勢……このままでは命を落とすやもしれません。」


 言われたサセックス家の当主はパトリックたちに槍を向けていた自分の兵士たちが震えていることに気付いた。



『こやつらビビリおって……』



領主は不快な表情を変えずに言い放った、



「……策はあるのか……」



言われたパトリックはにやりと笑った。



「交渉の全権を委任していただきたい」



 パトリックがそう言った刹那である、先ほどの小窓から再び石が飛んできた、その石つぶては兵士の鎖骨を襲った。ポキリという嫌な音がすると兵士は槍を落としてうずくまった。



「どうされますか、サセックス家のご当主、交渉の全権は委任されますか」

 


パトリックが詰問するとサセックス家の当主は体を震わせて力なく頭を縦に振った。


                                  *


 謁見の間を出たパトリックはフレッドに『ついてくるな!』と目で合図したが、フレッドはそれをよしとしなかった。


「あそこにいても落ち着かないからな……どうせ周りも囲まれているだろうし……」


フレッドは小窓から覗いた領民の松明の数が増えていることを指摘した。


「下手に逃げようとしても無駄だろうし……石が飛んでくるだろうし……」


 エキサイトした領民たちと渡り合うのは厳しいだろう、フレッドはそう思うとパトリックにかけることにした。



「何か策があるんだろ、全権大使!」



フレッドが震える声を絞り出すとパトリックが反応した。



「わかった。お前は俺の隣で立っていろ」



 そう言ったパトリックの相貌は引き締まっている、凄味のある美しさは貴族の士官候補生には見えなかった。




サセックス家の当主に息子の愚行を進言しに来たパトリックたちでしたが……領民の娘を手籠めにした当主の息子のせいで群衆に取り囲まれる事態に陥ります。


はたして、この後、パトリックはこの事態をどのように切り抜けるのでしょうか?

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