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第二十三話

この暑さ……おかC (熱中症にはお気を付けください、寝てるだけでもなるからね……)

47

ボルト13世は書斎で不快な表情を浮かべていた。


『一体、どうなっている……』


執事からの連絡が途絶え、状況把握ができなくなったボルト13世は眉間にしわを寄せた。


『そろそろ積荷に関しての報告があるはずだ』


ボルト13世がそう思ったときである、客間のほうが急に騒々しくなった。



『なんだ、喧しい!!』



そう思ったボルト13世は自ら書斎を出て客間へと足を向けた。


                                   *


 客間には顔を包帯でまいた貴族とその執事と思える人物が立っていた。そびえたつ彼らの姿は大山のようであり、泰然とした様子には余裕さえ感じられる。


 だがその周りには複数の人間がうめき声をあげて倒れていた……皆すべてボルト家の衛兵である。すでに戦意を喪失し、衛兵としての役目は果たせそうにもない……


「何事だ……」


 ボルト13世がひとりごちて状況を確認すると、残っていた衛兵が裂帛の気合いとともに槍の一撃を包帯で顔を覆った男にかました。


だがその切っ先はいとも簡単に跳ね上げられると、勢い余った衛兵は体勢を崩して膝をついていた。


 槍を跳ね上げた黒い執事は一瞬にして間合いを詰めると、衛兵の顔面に右足を叩き込んだ。受け身の取れなかった衛兵の顔に革靴ブーツの踵が飛ぶと、衛兵の鼻がひしゃげて、前歯が折れた。


そらを舞った前歯がボルト13世の前まで飛んでくると、ボルト13世は声を荒げた。



「人の家で狼藉を働くとは舐めた真似をしてくれるな!!」



ボルト13世はそう言うと包帯で顔を隠した貴族を見た。



「レイドル侯爵、無礼すぎるのではないか!」



言われたレイドルは静かに答えた、相変わらず声はくぐもっているがその声ははっきりと聞こえる。



「舐めているのはそちらでしょう、話をしに来て槍を向けるとは無礼千万この上ない」



レイドルはそう言うと意味深に笑った。



「トネリア軍から兵器として正規に輸入した積荷が燃えたことを、我々が直々に伝えに来たにも関わらず……なんとも許しがたい歓待ですな」



言われたボルト13世は顔色を変えた。


「……何の話だ……」


ボルトの声色から状況を類推したレイドルは不快な笑みを見せた。


「そちらの執事はあなたに何も報告していないようですね」


言われたボルト13世は息をのんだ。



「あの積荷の中身はなんだったのでしょうね?」



レイドルが不気味な雰囲気を醸すとボルト13世は口ごもった。


「……何の…何の話か……わしは……知らん」


半ばしどろもどろになってボルトがしらを切るとレイドルが大きく息を吐いた。



「トネリアで新しく作られた貨幣……金貨の代わりになる紙幣でしたかね……紙はよく燃える。木箱に入っていたブツは消し炭になったそうです……」



レイドルが積荷の中身を言い当てるとボルトは唇を震わせた。



「証拠の採取はできませんでした……ですが失われた資産は相当大きなものじゃないのですか……せっかくトネリアで裏金を作ったのに……」



レイドルが揶揄するとボルト13世はこぶしを大きく震わせた、感情の起伏が明らかに見て取れる……


「無能な執事を持つと損害も大きいようですな」


レイドルはそう言ってククッと笑うと要件の本丸にはいった。



「ボルト様、先日、クラーク司法長官に会いましてね……『計画』の全容をお聞きしました。」



ボルト13世は素知らぬふりをかました。



「トネリアで得た還流資金を用いてダリスの貴族を買収し、そしてマルス様の王政復古をなさしめると……三ノ妃様も一枚かんでいるとか……」



言われたボルトは居直った、


「知らぬな、執事の描いた計画など」


ボルト13世はそう言うと責任を転嫁する方針をとった。


「証拠は燃えたのだろう。それがなければ枢密院もこの事案を取り上げるとは限らんぞ、執事だけを勝手に裁けばよい」


言われたれレイドルはフォフォッとくぐもった笑いを見せた。


「確かに証拠がなければそうでしょう。ですが執事の監督責任は逃れられないと思いますよ、あなたの執事は魔道器を用いたのですから」


言われたボルトはギョッとした表情を見せた。


その時である、隣に控えていた黒服の執事、マーベリックが発言した。



「僭越ながら申し上げます。魔道器の使用は現在のダリスにおいてはご法度、死罪も免れません。許されざる行為を犯した執事を使用していたとなると……ボルト様、あなた様の状況も芳しくありません。」



マーベリックが執事の監督責任について触れると、レイドルがくぐもった声で続いた。



「魔道器の使用は魔道兵団のアルフレッド様に申告する必要があります」



 言われたボルト13世は目の色を変えた。すべての事案を執事のせいにして誤魔化すつもりが≪魔道器の使用≫という不快な事実がもたげてきて自分の首を絞めつけたのである。


「『知らぬ』、『存ぜぬ』と申開いても、魔道兵団では通用せんでしょう。正規の裁判とは異なる手法を用いる超法規的な世界です、その聴取もかなり厳しいと聞き及んでおります。魔道器を用いた執事を使っていた責任は間違いなく問われることになりましょう」


沈黙したボルト13世をねめつけたレイドルは相も変らぬくぐもった声で話しかけた。



「どうです、ボルト様、取引しませんか?」



言われたボルト13世は面を上げると括目した。その表情にはわらをもすがる思いが詰まっている。


「マルス様の復古計画はすでに頓挫しましたし、あなた様がトネリアで作られた工作資金も灰となりました。表に出ない処理をするのであればこちらとしても事をこれ以上荒立てるつもりはありません。」


レイドルはボルト13世に『協力者』になれとほのめかした。



「もし、それが嫌というのであれば『告発』することになります」



レイドルがそう言うと隣にいたマーベリックが懐から羊皮紙に記された文章を提示した。


「これはあなたの所業を魔道兵団に告発する正式な文章です。これが受理されて正式な捜査が始まればあなたのお立場は厳しくなります。『退位』は間違いないでしょう」


マーベリック爬虫類のごとき人間味のうすい表情で述べるとボルト13世は歯噛みした。



「いかがですかな?」



 言われたボルト13世はしばし沈黙していた……そこには己の起こした計画がとん挫して収拾がつかなくなった哀れな貴族の姿がある。




「……あい、わかった……」



ボルト13世はか細い声を上げた、そこにはレイドルの取引に応じる姿勢があった……



 だが、しかし、ボルト13世は目つきを変えると突然、右手の人差し指を掲げた。そしてそれと同時にヒュッという音がした、後方にある天窓から矢が放たれたである。


 なんとボルト13世はレイドルとのやり取りする合間に残っていた弓兵に不意打ちをしかけるよう仕向けていたのである……



『バカめ、レイドル……お前が死ねば、すべては丸く収まるのだ!』



そう思ったボルトはその瞳にレイドルの倒れた姿を映そうとした……



 だが、しかし、ボルトの眼には倒れるどころか、悠長にあくびをするレイドルの姿が映っているではないか……



レイドルはくぐもった口調で語りかけた。



「あなたの行動は想定済みです……我々に茶番は通じませぬぞ」



 そう言うや否やであった、矢を放った弓兵が天窓から落ちてきた……その肩には短刀が突き刺さっている……


 黒い執事はあらかじめ弓兵の動きを感知していたようで、弓兵が矢を射るよりも先に短刀を投擲していたのである。


ボルトは言葉をなくすと息をのんだ。



「先ほどの条件は飲んでいただきますぞ」



レイドルはさらに続けた、



「そうそう、『協力者』になれと言いましたが……それはやめです。『犬』になっていただく」



 『犬』という単語には深い意味がある……首に縄をつけるということだが、そこには生殺与奪の意味合いが含まれる。レイドルの命を狙ったことが災いしてボルト13世は自分の命運を握られてしまったのだ……



「余計なことをせねば、それなりの処遇もあったでしょう……ですがいたずらが過ぎたようだ」



 レイドルは相も変らぬくぐもった声で語ると、さしものボルト13世も顔色を蒼くした。その表情には明らかな屈服感がある……


レイドルは沈黙するボルト13世をねめつけてダメ押しすると声を上げた。



「では、これにて」



 レイドルはボルト13世の人徳の浅い姿をその目に焼き付けると足音を立てたてずに玉座の間から出て行った。だがその表情が嬉々としていたのは言うまでもない。




ボルト13世の策略はとうとう潰えました……余計なことをして『犬』にされるというおまけつきです。今回はマーベリックよりもレイドル侯爵のほうが出番が多かったかもしれません……(マーベリックを応援する方々、申し訳ない)


さて、次回ですが……この章の最終話になります。エピローグっぽい感じにしようと思います。


では次回~

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