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第二十一話

お盆が終わっても暑いそうです……(作者号泣)

43

さて、マーベリックがボルト家の還流された資金の捜索している時、第4宮、宮長室では……


 バイロンは一連の横領事件の嫌疑が晴れたことに気を良くしていた。その表情は明るく、年ごろの乙女の快活さが戻っている。晴れ晴れとした顔には副宮長としての威厳も戻り始めている……


『今回の事件はヤバかったわ……』


バイロンは事件の経緯を振り返ってみたが、ギリギリのタイミングで嫌疑が晴れたのは奇跡だと思った。


『マーベリックに助けられなかったら……終わっていたもんね……借りをつくちゃったわ……』


そんな風にバイロンが思ったときである、リンジーが宮長室へと戻ってきた。


 リンジーはドアを閉めるとバイロンに対して雄々しい表情を見せた。そこには『リンジー特有の懸案』が解消されたことを仄めかすニュアンスが内包されている。


 バイロンが何かと思ってリンジーを観察すると、いままでのポッコリとしていたおなかが平らになっているではないか……


バイロンの視線を浴びたリンジーは誉れあるメイドの表情で発言した。



「さきほど……激しい格闘の末に私は勝利いたしました」



 心づけの横領嫌疑が払しょくされたため、精神的に解放されたリンジーは災厄とも思える『懸案』を自力で粉砕し、心身ともに充実した状態を手に入れていた。



「便秘女子から快便女子へとクラスチェンジしましたわ!」



リンジーが宮長としての威厳を存分に見せて言い放つとバイロンは言葉を失った。



『……そっちかよ、リンジー……』



だがリンジーはそのあと顔つきを変えた。その表情は神妙であり、明るさのないものである……



「あのハンスっていう経理の職員……クビだって……」



リンジーが渋い口調でつづけた、そこには忸怩たる思いが滲んでいる。



「マイラさんと話したんだけど……ルッカさんもクビだって……」



動きの速いマイラの動向にバイロンはうなった。


「もともとマイラさんが連れてきた人間だし……厳しく処するしかなかったんだろうね……」


バイロンがそう言うとリンジーは疲れた顔を見せた。


「まさかルッカさんが……裏切るなんてね」


 リンジーはルッカに対して全幅の信頼を置いていたため、今回の事案には大きな衝撃を受けていた。天真爛漫なリンジーのメンタルは腹心に背中から刺されたことでズタズタになっている……


「……ふぅ……」


 リンジーがため息をついて人間不信の極みともいえる表情をみせるとバイロンは真実の一部を語ることにした。リンジーに隠し事をするのが心苦しかったためである。


「実はね、ルッカさん……お孫さんの起こした事件で今回の凶行に手を染めたみたい。孫の起こした傷害事件をもみ消す代わりに私たちを貶める手伝いを……」


 バイロンはそう言うと、マーベリックに伝えられた事実をかいつまんで話した、都合の悪い人物は伏せる形で……


それを耳にしたリンジーは呻いた。



「……マジで……」



リンジーがその眼を点にするとバイロンがため息をついた。


「レイドル侯爵の側近がいて、その人が教えてくれたの……詳しいことはわからないけど…」


バイロンが無駄を省いて説明するとリンジーは『なるほど』という表情を見せた。


「私たちに対する不可解な疑いは、斜め上から降ってわいた災難だったんだね……そんなの避けようがないじゃんね」


リンジーは現状を的確に分析すると大きく息を吐いた。



「……権力の世界って、怖いわね……」



素朴な感想であるが、はめられて濡れ衣を着せられた立場としては妥当な見解である……


リンジーは再び表情を変えるとバイロンを見た。



「ところでレイドル侯爵の側近って……ハンスさんを連行する時に兜のひさしを上げた人?」



リンジーが鋭い勘をはためかせると、バイロンを思わずうなった。



「そういうことか……でも、そのおかげで私たちは助かったわけね……さすがレイドル侯爵ね、ダリスの銀狼っていわれるだけあるわね」



リンジーはそう言うとバイロンを見て怪しんだ。



「どんな知り合いなの?」



リンジーが興味津々な表情を見せるとバイロンは口ごもった



「……えっ、そうね……」



バイロンが対応に苦慮するとリンジーがにやりと笑った。



「ひょっとして……彼氏的な……」



リンジーは鼻の下を伸ばして、さらに突っ込もうとした。


バイロンは一瞬、間を置くとそれを否定しようと口を開いた。



「そんなはずないでしょ!」



 バイロンが語気を強めて発言するとリンジーが鼻の穴をフガフガさせた。年ごろの乙女がもつ恋話に対する触角が90度に立っている。



「まさか、もう、キ…キッス……とか?」



リンジーはさらに鼻の穴を広げてバイロンに迫った。



44

そんな時であった、宮長の執務室のドアが叩かれると甲高い声を上げて二人の前にマールが郵便物を運んできた。


「副宮長、郵便です!」


 バイロンは小走りに現れたマールから郵便物を受け取るとリンジーの詰問をサラリとかわして手紙に目をやった。


「何かしら」


バイロンは怪訝な表情を浮かべて裏側を見るとそこには差出人の名があった



「……フォーレ パトリック……」



 バイロンがそう言った瞬間である、リンジーの目が輝いた。すでに先ほどのやり取りなどアウトオブ眼中である。


「バイロン、中を見て!!!」


凄まじいリンジーの勢いに押されたバイロンはその圧力に飲まれると中の便箋を見開いた。


バイロンは目を爛々とさせるリンジーの目の前に便箋を提示した。




拝啓


バイロン殿


 先般は会合を開いていただき誠にありがとうございました。そのお返しといってはなんですが、今度はこちらから皆様との会合を催したいと思います。


今週末の12時あたり、前回と同じホテルで


芳しい返事をお待ちしております。


追伸:

宮長のリンジーさんのおかげで定期試験をのりきることができました。彼女にもよろしくお伝えください。


敬具





バイロンの隣にいたリンジーは絶叫した。


「パトリック様がわたしの名前を……したためている……」


 前回の合コンでパトリックに対して数学的思考を伝授したリンジーは自分の行為が役立ったことに喜び勇んだ。



『これ…次の合コンで……新たな展開があるんじゃ……接吻的なやつ……』



そう思ったリンジーは突然キリッとした表情を見せた。



「合コン、いえ、会合の用意を速やかに進めてください、副宮長!!」



異様なまでに威厳のある声を出すとリンジーはバイロンを見た。



「横領事件を乗り越えたんだし、このくらいのことは良しとしましょう。 あとはよしなに」



リンジーはそう言うとエレガントなあいさつを見せてからさっそうと宮長の執務室から出ていった。


だが、その背中から湧き出ているオーラは誉れあるメイドではなく、恋い焦がれる乙女のそれである。



『うちの宮長……メロメロだわ……』



 バイロンはそう思ったが……その一方で、彼女は手に持った便箋の裏に何やら文言が記されていることに気付いた。



『何かしら…』



それは走り書きにされたメモのようなものである。



バイロンはそれを目視した。



『これって……』



バイロンはその短い文面の中に何やら不穏なものを見出した。



『……これは、役立つかもしれない……』



そう思ったバイロンの脳裏に浮かんだのは他ならぬマーベリックの顔であった。





心づけ横領事案の乗り越えたバイロンのもとにパトリックから合コンの誘いがかかります。リンジーは喜び勇んで興奮していますが……バイロンはその手紙の裏に書かれたメモに目を光らせます。


はたして、パトリックの送ってきた便箋の裏には何が記されていたのでしょうか?


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