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第十八話

読者の皆様、熱中症にはお気を付けください!(迫真)

37

さて、会議が終わってから暇をおかずして……


 マイラに呼び止められたバイロンはリンジーとともに執事長室に呼ばれた。二人は思わぬ事態にいまだ興奮冷めやらぬ表情を見せたが、マイラはそれにかまわず話し始めた。



「此度の事案はこれにて終了となります。二人とも嫌疑が晴れたので、今まで通りの職務を遂行するように。」



マイラが淡々と言うとリンジーが反応した。


「あのお咎めはなしですか?」


言われたマイラは小さくうなずいた。


「今回の事案はあなた方が考えているよりも大きなところで生じた余波です……私も含めてですが。……この事案での懲戒はいたしません。」


 マイラは自分の連れてきたルッカの起こした策謀であったため、自分の間接責任を痛感していた。だが……それ以上に大きな策謀がめぐらされていることで、リンジーとバイロンの責任を回避する考えを示した。


マイラはホッと息をついた。



「バイロン、あなたの人脈に今回は助けられました……レイドル侯爵の実力は想像以上です」



マイラは今回の事案の裏側をすでに知っているようでバイロンに対して感謝の弁を述べた。



「良い友達を持ったようですね」



マイラはマーベリックの存在を揶揄すると突然、その表情を変えて声を張り上げた。



「さあ、いきなさい、業務がとどおこることになれば咎めねばならなくなりますよ!」



言われたリンジーとバイロンはエレガントなあいさつを見せると執事長室をそそくさと出て行った。



マイラは二人が執事長室を出ていくとポソリとこぼした。



「いい男を捕まえたようね……バイロン」



マイラは羨ましそうにそう漏らすと、あとは何も言わずに書類に目を落とした。



38

マイラとの会話を終えたバイロンは午後の業務のキリのいいところを見計らうと、リンジーに断ってからマーベリックのいる隠れ家へと向かうことにした。


何が起こったかわからないため、状況を客観的に確認したいと思ったからである。



『まさか、ルッカさんが一枚かんでいたなんて……』



 信用していた人物がバイロンとリンジーを背中から刺したわけだが、その事実はゆゆしきものである。バイロンはその内情を知るであろうマーベリックのところに向かうと淫靡な骨董屋の入り口に立った。



 バイロンが急ぎ足で店内に入ると店主の男は『待っていました』といわんばかりの表情を見せてカウンターの裏側へとバイロンを通した。


奥に向かったバイロンは階段を一段とばしで跳ねるようにして上ると呼吸を落ち着けてからノックした。


                                    *


「入れ」


マーベリックの落ち着いた声が届くとバイロンはドアを開けてテーブルの前に立った


「どうなってんの!」


バイロンが大声を出すとマーベリックはハーブティーを入れながら静かに答えた。


「声が大きい」


マーベリックがそう言うとバイロンはそれにかまわずに吠えた。


「ルッカさんが一枚、絡んでいるなんて!!」


バイロンがそう言うとマーベリックはコホンと咳払いしてから事の顛末を話し出した。


両替商ルザールの行員がルッカと組んだんだ。そしてハンスという会計係をたきつけてお前たち二人を貶めようとした。その情報をつかんだ我々はマイラにその事実をご注進しただけだ」


それに対してバイロンが口を開いた。


「どうして、ルッカさんが……私たちを裏切る理由がないわ……敵対してるわけでもないし、リンジーには手当てを多くつけてもらって……経済的には私よりも優遇されているのに」


バイロンは続けた、


「それに私とリンジーが役職を降ろされたとしてもルッカさんが宮長になれる可能性はないわ。あの人は一時的に第四宮に配属された人だから人事的に優遇される見込みはないし……」


バイロンが客観的な意見を述べるとハーブティーを飲みながらマーベリックが答えた。



「理由なくして人を貶める人間はいない」



マーベリックはそう言うと爬虫類のような目を見せた。



「ルッカは間違いなくクロだ、そろそろその内情がわかるだろう」



マーベリックがそう言ったときである、入口のドアがノックされた。


                                   *


勢いよく入ってきたのはゴンザレスである、その表情にかげりはない。


「旦那、ルッカの背景わかりやしたぜ!」


 タイミングよく現れた密偵はバイロンの顔も見ずに話し出した。嬉々として言うゴンザレスの顔は特ダネをつかんだかわら版の記者のような高揚感がある。


「旦那の言うとおり、あのばあさんには裏がありやした」


それに対してマーベリックが変わらぬ口調で口を開いた。


「続けろ」


ゴンザレスは鼻から大きく息を吸った。


「ルッカには孫がいるんですが、先々週、暴行事件の加害者になって牢屋にぶち込まれているんです。相手はかなり深手を負ったみたいで……有罪は免れない状況でした。収監される可能性が高かった」


ゴンザレスはそう言うと留置場での面会記録の『写し』を提示した。


「ですが、この人物がルッカの孫と会った後です……ルッカの孫は保釈され、さらには訴追もされなくなりました」


ハーブティーを口にしようとしたマーベリックがその表情を歪めた。


「その人物は誰だ?」


ゴンザレスはその問いに対してニヤリと笑ってから答えた。



「ボルト家の執事です」



その名を聞いたマーベリックはその感をはためかせた。


「訴追を免れたのはクラーク司法長官の言質があったのではないか?」


言われたゴンザレスは『御名答』と答えた。


「傷害事件の捜査にあった治安維持官と話をしてきたんですが、突然、上司から捜査打ち切りの宣言があったようです。その裏にはクラーク司法長官の介在があったと……事件の担当検事はあまりに理不尽だと酒場で息巻いていました。」


 マーベリックとゴンザレスの話を聞いていたバイロンは自分とリンジーを貶めようとしたルッカの行動にはその孫が関係していると認識した。そして、その背景にはボルト家の執事がいることも……さらには、クラーク司法長官も……


「これ……単なる横領事件じゃないんじゃない……権力闘争っていうか……もっと根深いっていうか……」


バイロンが状況を勘案して述べるとマーベリックは罪深い表情を見せた。


「おもしろくなってきたな……」


 マーベリックはニヒルな笑みを残すと隣室に向かった。そして、間をおかずして、大きな鉄鍋を持って戻ってきた。



「対策を立てるには空腹ではこころもとない、栄養補給と行こうじゃないか」



マーベリックはそう言うと二人の前に鉄鍋をドスンとおいた。


                                   *


 マーベリックがふたを開けや否や湯気が立ち上がり。魚介の芳香が香った。鼻孔をくすぐるのはハーブとトマトの風味である。


『うわっ……スープだ……』


 トマトベースのスープの中には複数の魚介類が見え隠れしている。その中でも有頭エビの姿は雄大である。バイロンたちをにらみつけるようにしてスープに浸っている……


「こりゃ、うまそうですね」


ゴンザレスがそう言うとマーベリックは木製の椀に具材たっぷりのスープを注いだ。


「喰いながら、事案を精査するぞ」


 マーベリックはそう言うとバイロンの前にホタテ、アサリ、イカ、有頭エビ、そしてジャガイモの入った椀を置いた。




無事に横領事案を乗り切ったバイロンですが……その背景にボルト家の執事とクラーク長官の名前があることがわかりました……同僚であるルッカの裏切りも彼らの力が及んでいたようです……


さて、この後、どうなるのでしょうか?

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