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第十七話

暑い、暑い、暑い!!!(以上)


36

ハンスは資料を配り終えると会計報告を始めた。


「第一宮から第三宮までの資料は特にこれといったことはありませんでしたが、第四宮に関してはいささか不安な点がございます」


ハンスはそう言うと資料の3枚目を見るように進言した。


「俗にいう『心づけ』といわれる宮長と副宮長の自由裁量になる資金において不可思議な動きがございます」


ハンスはそう言うと日付と資金を記した両替商の出金記録について言及した。


資料にはハンスの言動を裏づける妙な資金の動きがあった、


「盾持ち3名と御者4名に対する心づけはそれぞれ300ギルダーと500ギルダーとなっています。ですが彼らにもらった金額を尋ねるとそれぞれ100ギルダーと150ギルダーしかもらっていないと判明しました。」


ハンスは盾持ちと御者に渡された金額が帳簿と異なることを述べた。


「小さな金額ですが、明らかに差額がございます……」


ハンスが決然として言うとバイロンとリンジーの二人を見た。


「説明していただきましょうか?」



ハンスが嬉々とした表情を見せるとリンジーは唇をかみしめた状態で立ち上がった。


そしてしばし沈黙するとポツリと発言した。



「えっ~、そのようなことは今初めてわかったことなんですけど……」



その物言いは青天の霹靂といった感が否めない、だがその一方ですっとぼけた感じも否めない……


ハンスは不快な顔を見せると机をドンとたたいてリンジーを詰めた。



「ここに証拠があるでしょうが!!」



 中年のおっさんが10代の少女を口撃するさまは弱い者いじめをしているように映るが、ハンスには逆にそれが心地よかった。


『逃がすものか、小娘が!!』


 リンジーは上級学校を飛び級で卒業した才女である、学歴コンプレックスのあるハンスにとっては何が何でもひれ伏せさせたい相手であった。


「きちんとした説明をしていただきましょうか!」


ハンスが激高すると、それに対してバイロンが反論した。


「あなたの口のきき方は常軌を逸しています。若輩とはいえリンジー、モンローは第四宮の宮長です。最低限の敬意を払うべきです」


バイロンがそう言うとハンスはバイロンを見た。


「ほー、副宮長は宮長をかばうわけですね……ひょっとしてあなたが横領の首謀者ですか~」


ハンスが実にいやしい口調で述べるとバイロンは怒りに打ち震えた。



『この野郎……頭突きをかましてやろうか!』



 内心ははらわたが煮えくり返っているものの、誉れあるメイドとしてふるまわなくてはならないバイロンは表情を殺した。


そのときである、落ち着いた表情でリンジーが口を開いた。


「あなたのもたらした資料は第四宮にいるメイドのリーク情報ではないのですか、もしそうならあなたと第四宮のメイドが組んでいる可能性もありますよね」


リンジーが追い詰められた状態で知恵を回すとハンスが激高した。


「すでに調査は終わっている、あなたたちが首謀者であると私は確信している!!」


ハンスは額に青筋を立てた。


「それなら、あなたが調査したという内容が正しいか否かここで発表なさったらいかがですか?」


 リンジーがシレっと言うとハンスは唇をワナワナと震わせた。17歳の娘に居直られたことでハンスは怒りが抑えられなくなった。


「会計担当者でもあなたは下級学校しか出ていませんよね。専門的な知見があるとはおもえませんが」


リンジーがさらに煽るとハンスが声を上げた。


「情報提供者の個人情報は横領の嫌疑がかけられた人物に教える必要はない。つまりあなたたちに報告する必要はない!!」


それに対してバイロンが口を出した。


「我々は横領を否定しています。にもかかわらず横領犯だというなら、密告者が我々をはめたという可能性も否定できません。」


バイロンはそう言うとハンスをにらみつけた。


「ひょっとしてあなたと密告者が内通しているんじゃないですか、あなたの経歴では通常この会議に出席できないでしょ~」


バイロンがわざとらしくけしかけるとハンスは顔を真っ赤にした。


「そこまで言うなら、教えてやる、どうせ枢密院の審議では名前もわかるしな」


ハンスはそう言うと大きく息を吸い込んだ。



「ルッカだ,ルッカ バギンズが教えてくれたんだよ!!!」



 ハンスがそう言うとリンジーとバイロンは絶句した……まさかの人物の裏切りである……さしもの二人も言葉を亡くした。


『……そんな……ルッカさんが……』


バイロンが内心の動揺を顔に出すとハンスが息巻いた。


「どうした、お前たちの横領はルッカがチクったんだよ。子飼いの部下に背中から刺される気分はどうだ!」


ハンスはそう言うと勝ち誇った。


「お前たちの心づけに関する横領は明らかだ、この馬鹿どもが!!」


ハンスはそう言うと舌を出した



「アッキラメロン~」



 ハンスの物言いに怒りを抑えられなくなったバイロンはすくっと立ち上がるとハンスに詰め寄ろうとした。



と、そのときである


会議室の重々しい扉が開いた。


そして2名の武装した近衛兵が鎧の音を立てながら内部へと入ってきた。


それを見たハンスは口を開いた、


「どうやら、お前らも年貢の納め時のようだな!」


ハンスはリンジーとバイロンが逮捕されると確信した。


                                 *


 2名の武装した近衛兵はマイラの前に立った。その表情は兜のひさしを降ろしているため表情は見えない。


 隊長と思しき人物はマイラに挨拶すると懐から逮捕状を見せた。マイラはそれを確認して目を通すとうなずいた。


 執事長に報告するという儀礼的な所作を終えた近衛兵たちはバイロンとリンジーのほうに向けて歩き出した。ガヤリガシャリと鎧の揺れる音が会議室にこだまする。



『馬鹿どもめ!』



ハンスは自分の計画がうまくいったことに歓喜の表情を見せた。



『苦節20年、俺の労苦が報われる……上級学校を卒業した第四宮の宮長と副宮長の首を取ったんだ……出世は間違いない!』



ハンスはリンジーとバイロンの手に手かせがはめられると確信した。



だが……



 近衛兵たちはバイロンとリンジーの前に来ると手かせをはめるどころか左手を上げると敬礼したではないか……



そして彼らは再び歩き出した。



「えっ……」



ハンスはまさかの展開に素っ頓狂な声を漏らした。



だが、その声も一瞬で変わった。



『なんで、こいつら俺の前で止まったんだ……』



ハンスは鼻汁を垂らした……


と、そのときである。近衛兵の一人、あきらかに隊長格と思しき者がハンスに声を投げた。



「現時刻、10時3分、ハンス ケイジを心づけに関する横領事案においてリンジーとバイロンに濡れ衣を着せた容疑で逮捕する!」



 隊長がそう言うと控えていた近衛兵がハンスの後ろに回ってその腕を素早くとった。そして鮮やかな手並みでハンスに縄をうった。


何が起こったかわからないハンスは虚脱状態に陥るとあたりを見回した。



「これ、どうなってんの……」



 ハンスが魔の抜けた声出すと会議室に何とも言えない雰囲気が生まれた。その場にいる一同も何が起こったかわからずいかんともしがたい表情を浮かべている。



『マジで……どうなってんの、これ……』



 バイロンは一瞬にして状況が逆転し、さらにはハンスが捕縛されるという事態にその目を白黒させた。隣にいたリンジーは鼻汁を垂らしながら、口から魂を吐きだしている……


 バイロンたちが驚愕の表情で立ち尽くしていると、ハンスの脇を抱えた近衛兵が二人の隣を通った。そして一瞬だが近衛兵の一人がバイロンに見えるようにしてわざと兜のひさしを上げた。


兜の中を見たバイロンはまさかの≪顔≫に驚きを隠せなかった



『うっ……マーベリック……じゃん』



想定外の展開にバイロンは言葉を亡くした。




会計係のハンスによって追い詰められたバイロンとリンジーでしたが……なんと土壇場で逆転劇がおこりました。


はたして、マーベリックはいかなる手段を用いたのでしょうか(次回で解説予定)

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