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第十五話

暑い……(以上)

30

ボルト13世の邸宅で企みが進んでいる頃……


 バイロンは自分の窮状を打破するべくマーベリックのもとを訪ねていた。横領犯の嫌疑を払しょくするために知恵を借りようと考えたためである。


バイロンはいつものように階段を駆け上がると2階の扉をノックしてから間をおかずして中に入った。



 部屋には辺境の土地、ベルツから戻ってきたマーベリックとゴンザレスがいた。ゴンザレスは気を使って出て行こうとしたが、マーベリックは『構わない』という表情を見せた。バイロンは二人の様子を確認するといつもの席に座って大きく息を吐いた。


                               *


 バイロンが現状を簡潔に話し終えるとマーベリックはミルクのたっぷり入った紅茶をバイロンの前に出した。


「なるほど……使途不明金を使い込んだ嫌疑がかけられているのか……」


マーベリックはバイロンの思わぬトラブルにその眼を細めた。


「うちの人間に手を出してくるとなると組織的な工作かもしれんな……そうだとするとこちらもだまってはいられない」


マーベリックが蛇のような目を見せた、


「誰が犯人かはわからないけど……同じ第四宮の人間の関与があるのは間違いないわ、何とかして犯人のしっぽをつかまないと!」


バイロンが意気込んでそう言うとティーカップを手にしたマーベリックがそれに応えた。


「お前にもリンジーにも日々の業務があるだろう、下手に犯人探しをすれば向こうに気付かれる……それでは逆効果になるな」


マーベリックが冷徹に判断するとバイロンは口をとがらせた。


「じゃあ、どうしろっていうわけ、もうすぐ月末だし帳簿の精査もあるわ。使途不明金が明るみになれば私もリンジーもアウトよ。週明け月曜の会議がタイムリミットなのよ…」


当然至極なことをバイロンが述べると二人のやり取りを耳にしていたゴンザレスが口をはさんだ。


「小口現金は宮中の会計係から第四宮に出るんですよね……ということは両替商との接点があるはずだ…」


 ゴンザレスは宮中で使われる費用の決済やメイドや庭師の給料、さらには備品に関する小口現金が街にある両替商によって宮中にある会計部門に供給されていることを指摘した。


マーベリックはそれを耳にすると深くうなずいた、その表情には余裕がある。


「第四宮の小口現金を扱っている両替商を調べれば何らかの手掛かりがつかめるだろう、誰がお前をはめに来たのかこちらも確認せねばならない」


マーベリックはそう言うとバイロンを見た。


「第四宮の資金を扱っている両替商はどこだ?」


言われたバイロンが≪ルザール≫という両替商の名を口にするとゴンザレスが席を立った。


「ちょっくら調べてきますよ、その両替商ならコネもありますし」


ゴンザレスはそう言うとドア開けて振り返った。


「任して下さいよ、旦那、そのくらいならすぐにわかりやす!」


自信を見せたゴンザレスは二人を見てニヤリと笑った、



「あとは、ごゆっくり~」



 何とも言えない意味深な物言いを放つとゴンザレスは好色な表情を見せてからドスドスと音を立てて階段を下りて行った。


 残された二人は妙な空気が残された小部屋でティーカップを片手にもったまま形容しがたい雰囲気に包まれた。



31

さて、同じ頃……


 枯れ枝のような容姿をした執事はボルト13世の指示を受け、トネリアにある両替商にある口座の金をいかにしてダリスに運び込むかという難題を解決しかけていた……



「パストールさん、この事案はあなたの腕にかかっています」



偽造した身分証でダリスに入国したパストールは淡々とした表情で答えた。


「手数料をいただければ何でもやりますよ……今の私は体面を気にせずに動ける」


それに対して枯れ枝のような執事は鷹揚に答えた。


「船荷の中に紛れ込ませるのはよくある手ですが……本当にそんな古典的な方法で『ブツ』を運び込むことができるですか?」


言われたパストールはククッと笑った。



「蛇の道は蛇ですよ……裏ルートを使わなくとも堂々と表からいけばいい」



パストールはすでに解決策を見出していた。


「お耳を拝借」


パストールはそう言うとボルト13世のの執事の耳元でささやいた。



「ほう、なるほど……そういう手ですか」



ボルト13世は納得した表情を見せた。


「ですが手数料は安くはありませんよ」


パストールがそう言うと枯れ枝のような執事はククッと笑った。


「ええ、わかっています」


ほくそ笑んだ執事は計画が遂行されることに確信を持った。


                                   *


 ボルト13世の執事がボルト家の邸宅に戻るとその応接間ではクラーク司法長官と頭巾の女が心地よいな緊張感のなかでこれからの計画を練っていた。


「ボルト様、ただ今戻りました」


執事がそう言うとボルト13世は即座に尋ねた。


「それで?」


枯れ枝のように痩せた執事はパストールとの間で交わされた金銭にかかわるやり取りを簡潔に述べた。


「なるほど、そのような手を使うのか……」


「はい、親方様……現金を間接的にダリスに送るようなことはせずにダイレクトに運ぶつもりです。」


その場にいたクラーク司法長官と頭巾の女は目を見合わせた。


「それなら貴族連中に配る時も堂々といけるな……」


ボルト13世は満足げに言うと頭巾の女こと三ノ妃とクラーク司法長官の顔を見た。


「このことは内密に……」


 計画の全貌を明かされた二人はポーカーフェイスを装いながらも、その実効性が高いということを確信していた。


「ところでクラーク司法長官、書類に関する手続きのほうは?」


尋ねられたクラークが答えた。


「滞りなく……」


司法長官はそう言って書類のひな型となる原案を見せた。


「これを基にして本書を作成して……私がサインすれば終わりです」


原案を目にした頭巾の女は口角を上げて笑った。



「これで未来が変わるわ!」



 ボルト13世、頭巾の女、そしてクラーク司法長官……この3人が描いた絵はダリスの未来を変えようとしていた。



32

それから間をそれほどおかずして、マーベリックのいる骨董屋の二階では……


 ゴンザレスが第四宮の入出金を管理している両替商≪ルザール≫の情報をマーベリックに報告していた。かなりのことが分かったようでその表情には自信が滲んでいる


「旦那、おもしろいことがわかりやしたぜ」


 短髪に借り上げたごま塩頭(白髪と黒髪がまじりあっている)にランプの光が当たると不可思議な反射を見せた。


「行員の中に知り合いがいるんですが、そいつから情報をとりやした」


 ゴンザレスは≪知り合い≫を使うとルザールの行員の中で第四宮に資金供給する会計係と懇意にしている人物を割り出していた。そしてその人物の背景も……


報告を受けたマーベリックは相も変らぬ表情でカモミールのティーに手を伸ばした。


「やはり……そうか」


マーベリックは自分の想定が当たったことに納得した表情を見せた。


「使途不明金を宮の会計係にご注進した人物はルザールの両替商とタッグを組んでバイロンをはめようとしたようです。」


 ゴンザレスが高級風俗の無料チケットをエサにして≪知り合い≫から手に入れた情報を述べるとマーベリックは立ち上がった。


「灯台下暗しとは言ったものだが……足元をすくわれたようだな」


マーベリックはその表情を変えた。


「だが、レイドル侯爵の手の者にちょっかいを出したのは捨て置けん。」


マーベリックがそう言うとゴンザレスがそれに応えた。


「痛めつけてやりますか……そのあと、一部始終を吐かせる」


それに対してマーベリックは沈思した…その脳裏には熟慮する密偵の戦略が蠢いている。


「いや…相手が気付いていないのであれば……しばし泳がす、敵にも背景があるやもしれん」


 マーベリックの勘は容疑者である第四宮のメイドが単純な理由でバイロンとリンジーを貶めようとしているとは囁いていなかった。むしろその裏側に黒幕が存在していると……



『まだ何かあるはずだ』



マーベリックはそう確信すると壁にかけてあったフロックコートを手に取った。



「出張るぞ!」



そう言ったマーベリックの顔は嬉々としている、ゴンザレスはその表情を見るとニヤリと笑った。



クラーク司法長官、頭巾の女、そしてボルト13世の企みは最終段階までやってきました……


一方、マーベリックはゴンザレスによりバイロンを陥れた人物の情報を手に入れました。


はたして、バイロンのひっ迫した状況はよくなるのでしょうか……

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