第八話
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会合は無事に終わり充実した休日を過ごしたバイロンたちは翌日から通常業務にもどったが……
すでに会合という名の合コンがメイドたちの間では話題の種となっていた。
翌日の朝礼ではメイドたちの反応がいつもと違っている…
『予想以上ね』
ベテランたちにはティナから情報が流れ、中堅のメイドたちにはローラから実情が流れ出していたのだが……ここまで速く伝播するとはバイロンにとっても想定外であった。
『ベテランの視線に厳しさがない……』
ベテラン勢はバイロンとリンジーの出世のことをよく思わない連中もいたのだが、ティナが合コンに行って彼氏を作ったことがわかると、副宮長プレゼンツの会合に対して並々ならぬ興味を持つ者が現れていた。
『……値踏みしてる感じね……』
自分から参加したいとは言わないもののその眼には『第二回目の合コンに誘え』という沈黙の圧力さえ滲ませるメイドも出始めているではないか……澄ました顔をしているものの、本音が違うことは想像に難くない……
士官候補生というのは政治家になるわけではないので貴族の世界では高い地位にはつけないのだが、メイドたちにとっては貴族の家柄である候補生の実家は再就職先として悪くない選択肢である。候補生と良好な関係を築けば、第四宮を出た後も安泰になる。
『これは思ったよりも好印象だわ……』
バイロンはそう思うとこの先のことを思い描いた。
『第二回の合コン……考えておかないと……』
バイロンがそんなことを考えているとその足元に方眼紙で覆われた石つぶてが転がってきた。投げた思しき相手は近衛兵のひとりである。
バイロンはそれを拾って中身を確認すると、そこには以下のように記されていた。
『第二回目の会合をお願いしたい 近衛騎士団より』
バイロンはその文面を読むとすでに合コンの話が近衛兵にも伝播していることに気付かされた。
『思ったよりもはやく知られているわね……』
バイロンは渋い表情を見せた。
『でも、軽いと思われるのは困るのよね』
副宮長という立場上、いつでも合コンを開いていくれると思われるのは心外である。
『この辺は気を付けておかないと……』
バイロンはこれから先のことをどうするか迷った。
『いいタイミングを見計らっていかないと』
バイロンはカレンダーを見ると会合という名の合コンをいかに制御するかを考えた。
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さて、バイロンがそんなことを考えているとき……マーベリックのいる隠れ家には朋輩であるレイが訪れていた。トネリアでの情報活動の一端をマーベリックの持つ情報と交換するためである。
レイは美男ではあるものの、そのニヒルな表情にはどことなく毒がある……マーベリックと異なる事案の処理の仕方は陰湿といえる……
窓際に立つとレイは涼しい顔で口を開いた。
「ボルト家の兵器決済の話だが、あれは厄介だぜ」
銀髪を後ろ髪でくくりポニーテールのようにしたレイはマーベリックの出したお茶を飲みながら投げやりに答えた。
「ボルト家はトネリアの業者と組んで取引を合法的に処理してる……キックバックにかんしても慈善事業の寄付という形になっていて、それも合法だ……トネリアの業者を一枚かませてその金をトネリアの両替商にプールしているんだ。」
言われたマーベリックはフッと息を吐いた。
「合法的脱税か……」
マーベリックがそう言うとレイがそれに反応した。
「それにもう一つ……その合法的な脱税を指南した奴がいるんだが……」
レイはそう言うと嫌な顔を見せた。
「パストールだ」
言われたマーベリックは眉をひそめた。
「奴は死んだはずだ、トネリアに寄港する途中で船が難破している」
それに対してレイが答えた。
「ああ、船はお前の指示により爆破されて難破した。だが、奴は生きている、変装はしていたがこの目で奴を確認した」
レイはさらに続けた、
「それだけじゃない。奴は書類上では死んだことになっている。」
「どういう意味だ?」
マーベリックが詰問するとレイは相変わらずのニヒルな口調で答えた。
「自分の存在が死んでいたほうが都合がいいんだろう……やつは死者としてその状況を生かして暗躍している。」
マーベリックはレイの話を聞くと唸った。
「いずれにせよ、ボルト家の資金繰りは合法的な処理がなされている。俺たちがダリスで非合法だと喚いても金が向こうにある限り賄賂としては認識されない。」
レイが調査した内容を話すとマーベリックは沈思した。
『何か手をうたねば……』
兵器納入する談合事案が合法的に処理されている事実はマーベリックにとって厄介であった。この状況下では枢密院に告発したところで意味がない……
「不法である証拠を見つけねば、ボルト家は落とせない……」
マーベリックがそう結論づけたときである、二階のドアがノックされた。
*
ドアを開けて入ってきたのはゴンザレスであった。
「どうした?」
マーベリックが問いかけるとゴンザレスがバイロンのいたホテルでの出来事を報告した。
「クラーク司法長官が身をやつして一室にはいっていきました。そこで妙な会話を……」
マーベリックは優雅にお茶を啜った。
「それで?」
言われたゴンザレスは会話の内容とそれにかかわる人物について触れた。
「頭巾の女がいたということか……」
マーベリックはクラーク司法長官と頭巾の女の関係を類推した。
「ただの愛人というわけでもあるまい」
マーベリックがそう言うとゴンザレスが頭巾女とクラーク司法長官の気になる部分をかいつまんだ。
「頭巾の女とクラーク司法長官はゆかりがあるとおもいます、それからクラーク司法長官は書類の内容の裏を自分で取ると言っていました。」
「クラーク司法長官を内定対象に加える必要があるな」
マーベリックはそう言うとゴンザレスをつぶさに観察した。左足をかばうような動きを一瞬みせたためである。
「襲われたのか?」
勘づかれたゴンザレスは襲った人物に触れた。
「執事の格好をしていました。中肉中背、どこにでもいそうな男です。ですが妙に体の細い男でした。」
ゴンザレスは続けた。
「奴の『目』を見た瞬間でした……体が動かなくなって……足は逃げる途中でくじいただけです。」
ゴンザレスの発言にマーベリックは口をへの字にゆがませた。
「どうやら、相手は普通の人物ではないようだな……」
マーベリックが感心してそう言うとゴンザレスがそれに応えた。
「実は……バイロンに助けられて……」
マーベリックは怪訝な表情を見せた。
「バイロンが大声を出して男の気を引いたんです。そのとき体の自由が戻って……」
ゴンザレスがそう言うとマーベリックが息を吐いた。
「芳しいことではないな……」
マーベリックはそう言うとゴンザレスに指示を出した。
「引き続き頭巾の女の正体を追え、あとはクラーク長官の動向を探るんだ」
マーベリックはそう言うとゴンザレスに下がれと目で合図した。
『バイロンがゴンザレスを助けたとなると……バイロンの身にもしやのこともあるかもしれんな……』
マーベリックは顎に手を当てて沈思した。
『最悪も想定しておくべきか……』
マーベリックがそんなことを思うといつのまにか正面に立ったレイが声をかけた。
「何やら深刻な表情だな?」
レイが意地悪く言うとマーベリックが即答した。
「そんなことはない」
それに対してレイが切り返した。
「お前が顎に手を当てて考え事をするときは、普通のときじゃない……」
レイはさらに意地悪い表情を見せた。
「バイロンのことでも考えているんじゃないのか?」
レイはそう言うと意味深な笑みを見せた。そこにはマーベリックの考えを見透かした自信が現れている。
「じゃあな、俺は公爵様に挨拶してくる!」
残されたマーベリックは考えを読まれたことに不愉快になると苦々しい表情を浮かべた。
朋輩のレイによりもたらされた情報はボルト家が隣国トネリアで合法的に脱税をしているというものでした。おまけにかつて船を難破させて倒したはずのパストールも生きているようです……
マーベリックの前には芳しくない状況が展開しています。さて、この状況をいかにして切り開くのでしょうか?




