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第二十六話

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午後の相場は荒れに荒れた……それというのもラッツのいるかわら版の記者たちが第二陣の記事を号外として配ったためである。その紙面は以下の見出しが大きく書かれている。



≪キャンベル卿の嫌疑は濃厚である、果たして枢密院は動くのか!≫



 殺されたピエールという敏腕記者の敵討ちに燃えるラッツは編集長や記者仲間の力を借りてキャンベルたたきを敢行したのである。


 弱小出版社の号外などさほど意味がないと思う連中でさえも、株価が下がる現状を鑑みると記事に対してその眼を向けざるを得なかった。



『相場は心理戦である』



 先物や株取引は現状を分析する客観的な見方で値がつくことよりも、あおられたプレイヤーたちの混乱のほうが価格に影響することが多々ある。つまりプレイヤーの心情が株価に強い影響を与えるのである。


ラッツのいる出版社の第二陣のかわら版はプレイヤーたちの儲けようとする欲をかき乱した。


 さらにはそこに仕手筋というハイエナのような連中が現れて相場を煽った。プレイヤーの心理には混沌カオスが生まれたのである……


 ベアーたちはかわら版の情報力と仕手筋の介在によるマーケットの変化を目の当たりにしたが、キャンベルグループの株価の下がるスピードは常軌を逸していた……明らかに異様な状態である。



だが、それはチャンスでもあった。



『これは勝負ができるかもしれない……キャンベルが新たな資本を投入してこなければ…』



ベアーは下がりゆくキャンベル海運の株価と上がりゆく先物市場の羊毛の値段を頭の中で比較した。



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一方、その株の下がる様子を確認していたキャンベルは想定外の事態に唖然とした。



『かわら版の記事程度でこれほど煽られるとは……』



 怒り心頭であったが月末を前にして決済を抱えたキャンベルグループは株式市場に投下する資本を引き揚げて決済に備える必要性が生まれていた。


つまり、多大な資本を投入できない事態になっていたのである。


『くそっ……仕手筋の連中め、利益確定のための売り注文を出しおって……』


 キャンベルは相場がコントロールできない事態に陥ったことに怒髪天の表情をみせた。だが数秒の間、考え込むと冷静な表情を見せた。



『やむをえまい……あの金を……』



キャンベルはそう思うと隠していた裏金を用いて株式市場に投入しようと考えた。


                                   *


 キャンベルの別邸には地下室がある……そこは代々の頭首だけが入れる特殊な空間が存在していた。キャンベルが燭台の仕掛けを作動させると目に前にあった石壁が音を立てて地下に吸い込まれた。


 キャンベルは石壁がなくなった先の空間に足をのばした。そこにはいくつもの皮袋が無造作に置かれている……



『この金をマーケットに投入すれば、何のことはない……ケセラセラなど一瞬で消えることになる。』



 キャンベルはゴルダの倉庫で盗賊団により強奪された白金を用いて先物市場で大きな利益を得ていたが……その残りを金貨に換えて隠匿していた。


『グループ会社の資産としてあとから計上すれば問題ない。税理士を抱き込めば脱税は回避できるはずだ。なんならトネリアに送って寄付というかたちで誤魔化してもいい』


キャンベルはそう思うと皮袋の一つを開いて中身を確認しようとした。



『………』


『……』


『…』



だが、キャンベルは中をのぞいて言葉を失った……


なんと皮袋の中に金貨が入っていないのである……それどころか小石がぎっしりつまっていた……


キャンベルは焦った表情で二つ目の袋を開けた



『なんだ、これは……』



袋の中には達筆な文字で書かれた手紙が入っているではないか。



『拝啓 


キャンベル殿


 此度の株取引におけるそなたの姿勢は常軌を逸しているとしかおもえない。船会社ケセラセラという弱小企業買収に異常なこだわりを見せて相場操縦という極めてコストのかかる手法を用いたことはノブレスオブリージュとしての品位無きに等しい。


 さらには地回りのヤクザを使って批判的なピエールという記者を死に至らしめた行為がかわら版で露見したことでそなたの名声は失墜した。己のなしたことによる自業自得の事態はグループ会社全体を巻き込む株価の低下を引き越している。


 キャンベル殿、このままでは非常に厳しい事態が訪れることも想像に難くない。広域捜査官より枢密院に証拠が渡ればそなたの未来は閉ざされるであろう、場合によっては貴族の地位さえも失いかねない。


 それ故、我々は今まで働いてきた給金を先にいただくことにする。ここにあった金貨は我々がしっかりと有効活用したいと思う。



ではキャンベル殿、ご武運を!



仮面の騎士より』



キャンベルは手紙を見て色を亡くした。



『どういうことだ……鉄仮面……あいつ……裏切ったのか』



隠し部屋の仕掛けさえも認識していたようで隠されていた金貨は一枚たりとも残っていない……



『……そんな……この金がなければ……買い支えができない』



 決済に現金が必要なためキャンベルのグループ会社はすでにその資金を株式市場から引き揚げ始めている……言い換えればケセラセラを買収するどころではなくなっていた。



『……どうするんだ……これ……』



キャンベルは言葉を亡くすとその場で呆然とした。



と、そのときである……



 キャンベルは背中に異様な圧力を感じた。キャンベルは平静を装って振り向くと、そこには思わぬ人物が立っていた、それはキャンベルの秘書であった。


「なんだ、ジャネット、ここはお前のような平民が入れる場所ではないぞ!」


不穏に感じたキャンベルが怒号を上げるとジャネットは薄ら笑いを浮かべた。



「あの話、嘘だったんですね」



妙に乾いた口調でジャネットが言うとキャンベルは不快な表情を浮かべた。


「何の話だ!」


ジャネットはそれに応えることなく冷たい視線を浴びせた。



「すべて仮面の騎士の方から聞きました。私をケセラセラの経営者にするのは嘘だと!」



それに対してキャンベルが反論した。


「そんなことはない、ケセラセラの買収が成功すれば今でもお前が経営者の候補だ。」


ジャネットはそれを無視して素朴な疑問をぶつけた。



「では、どうして私に生命保険をかけたんですか?」



言われたキャンベルは一瞬たじろいだ……だが、それと同時にすべてを理解した。



『鉄仮面、あやつ、私の資産を持ち逃げしただけでなく、ジャネットまで手なずけたのか……生命保険のことまで……あのクソが!!』



キャンベルがそう思ったときである、ジャネットは懐から光るものを抜いた。



「私をもてあそんだだけでなく、保険まで掛けるなんて!!」



鉄仮面に半分の真実と半分の嘘を吹き込まれて逆上したジャネットはキャンベルに向けて走りだした。




ラッツのいる瓦版によりマーケットは混乱、ベアーたちにとっては追い風になりました。


一方、キャンベルは……ピンチです。


さて、次回どうなるのでしょうか!


インフルエンザ、やばいぞ!、みんな気を付けるんだ!!

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