第九話
あけまして、おめでとうございます~
今年もよろしくお願いします~
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騒乱事件を終えたゴルダは都の直轄地として統治されていたが、工業都市としては以前と変わらぬ隆盛を見せていた。荷車が物資を運ぶ様子は絶えることがなく、メインストリートは荷馬車で渋滞していた。製鉄所から湧き上がる煙や、鉄を鍛える金属音はベアーたちの視覚と聴覚を絶え間なく刺激した。
ベアーたちは難なくゲートを通過すると労働者たちのあくせく働く姿を傍目に目当ての場所に向かった。
「すみません、お久しぶりです!」
赴いたのはアルの働いていた金細工の工房である、ベアーとルナのなかで懐かしさが沸き起こる。
ほどなくすると入口の戸が開いて一人の少年が顔を出した。
その少年はベアーとルナの顔を見るとパッと花を咲かせたような表情を見せた。
「おにいちゃんと、おねぇちゃん!!」
顔を出したのはベアーとルナがゴルダ卿の館で助けたポップである、髪を短く刈り込んで職人風のいでたちになっている。
「ポップ、職人になるのか?」
尋ねられたポップは大きくうなずいた。その表情は生き生きとしているではないか。ベアーはかつての事件で苦しい思いをした少年が元気そうにしているのを見てホッとした。
そんなときである、ポップの後ろから親方が現れた。
「おっ、おまえたちか、どうしたんだ?」
筋骨たくましい親方が現れるとルナが声をかけた。
「どうも、お久しぶりです」
ルナはそう言って挨拶すると、親方に対して現状を述べた。
*
「そうか、ゴルダにあったキャンベル卿の倉庫のことを調べに来たのか……」
親方がそう言うとルナが発言した。
「盗賊団が白金をゴルダに運び込んでそのあと製錬、そしてそれをキャンベルの倉庫に保管していたという事実は広域捜査官からききました。だけどあの騒乱事件で白金だけが消えたっていう……」
ルナがそう言うと隣で聞いていたラッツは記者らしい表情で付け加えた。
「うちの記者が、その件を追っていたんですが……亡くなりまして……どうしてもこの事件の手掛かりを得たいんです」
ラッツがそう言うとベアーが続いた。
「親方の持つ人脈で何か手がかりになるようなことを知る人を紹介してほしいんです」
ベアーがそう言うと親方は気難しい表情を見せた。
「あの倉庫の倉庫番が行方不明になってるって知ってるか?」
言われたベアーたちはぎょっとした表情を見せた。
「キャンベルの倉庫で働いていた男はその姿をけしている……」
親方はそう言うと小声になった。
「殺されたっていう話だ……」
親方はさらに続けた。
「あの事件に絡む情報はすべてがシャットダウンされている……」
親方はそう言うと一人の名を上げた。
「飲み屋のマスターなんだが、あの人ならある程度は把握していんじゃないかな。あの人は顔が広いから、役人から犯罪者まで知己がいる。すべての情報が集まる……」
親方はさらに付け加えた。
「あそこでハンナが下働きの手伝いをやってるから、会ってやってくれ!」
ベアーたちは金細工職人の親方のもとを離れようとするとポップが道案内をかってでた。
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ベアーたちが酒場に向かうとその中では開店の準備にいそしむマスターとハンナの姿があった。モツ煮込みを仕込んでいる最中のようでマスターがその味付けを確認し、ハンナは水だなにあった木皿をマスターのところに運んでいた、
「すみません!」
ルナが声をかけるとハンナが振り向いた。その表情は驚きに満ち満ちている。
「おねぇちゃん!!!」
ハンナはルナのところに向かうとその胸に飛び込んだ。実にうれしそうな表情である、ルナも妹のような存在のハンナが嬉しそうにしているのを見てその顔をほころばせた。
ゴルダ卿の館で人体錬成の素材として危うくその命を落としかけた少女は意外に元気そうでその表情は明るかった。
一方、ラッツとベアーはマスターに挨拶をすますと早速、用件を切り出した
「あの、行方不明になってる倉庫番のことを聞きたいんですけど……」
言われたマスターは二人をじろりと見ると。体全体で不愉快な雰囲気を醸し出した。
「よその人間に話すことはないね」
にべもない態度をマスターがとるとポップとハンナがそれに反応した。
「このお兄ちゃんとおねぇちゃんは、俺たちをゴルダ卿の邸宅から救ってくれた命の恩人なんだ。マスター、助けてやっておくれよ!」
ポップとハンナがそう言うとマスターはベアーとラッツをねめつけた。
それに対してラッツは答えた。
「俺、かわら版の記者見習いをやってるラッツって言います。実は先輩が闇討ちされて殺されたんですけど、それがキャンベルの仕業じゃないかと思ってるんです。」
ラッツはそう言うとキャンベル卿の倉庫の管理人が行方不明になっていることに触れ、その事案を殺された先輩が調べていたことを述べた。
「面倒見てくれた先輩がやられたんです……なんとかキャンベルの鼻を明かしてやりたいんです!!」
ラッツが正直に心情を吐露すると亜人のマスターは大きく息を吐いた。
「酒場に来て一杯も飲まねぇで人の話を聞こうってのか?」
その物言いは『何か注文しろ』という意味合いがある、ラッツはそれを悟るとビールを三杯とルナ、ポップ、ハンナようにホットミルクを頼んだ。
「どうぞ、マスターも一杯!」
「気が利くじゃねぇか、小僧」
ラッツが店主の分まで頼んだことに気をよくしたマスターはベアーとラッツにつまみ代わりにナッツを出した。
*
飲み始めると50代半ばの亜人のマスターは立て板に水といった感じでゴルダ卿の倉庫で管理人をしていた男のことについて話し出した。
「あの倉庫には精錬された白金が運び込まれていたらしいんだが、騒乱事件が起きたどさくさに紛れて北方のゲートを抜けて蛮族の里のほうに向かったらしい。」
ベアーとラッツはうんうんと頷いた。
「だが、あの騒乱事件の後、あの倉庫では何やら別の動きがあったらしいんだ。」
ベアーとラッツはその表情を変えた。
するどい目つきを見せた二人に対して親方はにやりと笑った。
「ここから先はもう一杯ビールを飲んでもらわねぇとな」
商売人らしいテクニックをマスターが見せるとベアーとラッツはお変わりのビールをたのみ、さらにマスターに対して麦の蒸留酒(焼酎に似たもの)を進めた。
マスターは氷を入れた陶器のコップになみなみと蒸留酒を注ぐと饒舌になった。
「騒乱事件が終わった後にあの倉庫に見知らぬ商人連中がたずねたらしいんだ。その時に倉庫の管理人がその3人と一緒に出掛けたのを見た客がいるんだ。だけど、その様子が……おかしかったって……」
マスターはもう一杯、蒸留酒を注ぐとビールを飲むのに難儀している二人をあおった。
「まだ空になってねぇな……」
言われた二人は慣れないビールをあおった。ただでさえ飲にくい麦芽酒を飲むのはつらかったが核心に近い情報を聞くためにはやむを得ない。
ベアーとラッツは声をそろえた、
「おかわり、おねがいしまひゅ!!」
すでに二人は酔っているようでその眼は座り始めている。
それを見たマスターはフフっと笑うと失踪した倉庫番の話を続けた。
ホットミルクを飲みながら様子を見ていたルナはろれつが怪しくなった二人を見て溜息を吐いた。
『これはつぶされるわね……でも、これもいい経験か……』
ルナはそんな風に思った。
ゴルダにやってきたベアーたちは酒場のマスターからキャンベルの倉庫で働いていた倉庫番について話を聞き出そうとしますが……
べろんべろんです……(正月の作者と同じ)
この後、彼らはどうなるのでしょうか?




