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第一話

ニルスでの旅を終えた二人は暖かな秋風を受けながらポルカに帰ると、土産を持ってフォーレ商会の倉庫に向かった。食のフェスで美味であったロールケーキをウィルソンとジュリアに振舞おうと考えたためである。


「あのケーキは絶品だったからね、コンテストのスイーツ部門でも準グランプリになってたからね」


ルナがかわら版で読んだ内容を伝えるとベアーはニヤけた表情を見せた。


「ジュリアさんの入れる紅茶との相性は絶対抜群だろうね……俺、ケーキは食ってないから楽しみなんだ」


ベアーがそう言うとルナがシレっとした表情で発言した。



「あんたの分はないわよ、ロイドさんの分はあるけど」



 ルナが辛辣な一言を浴びせるとベアーがこの世の終わりのような表情を見せた。そこには実家の母屋がドラゴンの炎で焼かれたような衝撃さえ滲んでいる……


ルナはそれを見るとニヤリとした。



「……フフフ……嘘よ~」



ベアーをからかったルナがコロコロと笑うとベアーが何とも言えない表情を見せた。


「これだから魔女は信用できないんだよ」


ベアーがそう言うとルナがそれに反論した。


「何言ってんの、あんた 『夜のダンシング』とかいって娼館に出掛けたじゃない!」


ルナはニルスでの出来事を舌鋒鋭く突っ込んだ、


「あんたの考えそうなことはお見通しなのよ!」


ルナに言われたベアーは意気消沈した。


『アレはマジで失敗だった……入場料だけ取られただけだからな……今度からああいう失態は繰り返さないようにしよう……予算の無駄になるし……』


 ベアーが仏頂面を見せるとルナが再びニヤリと笑った。その表情にはベアーがいまだにチェリーボーイであることに満足した魔女の充足感があふれていた。


                                   *


 さて、二人が倉庫につくと……ベアーはいつものように従業員用の裏口のドアを開けようとした。


「………」


ところが、通常なら開いているはずの扉が閉まっている……


「あれ……鍵がかかってる……」


ベアーがそう言うとルナが怪訝な表情を浮かべた。


「今日は平日だし……そんなことはないんじゃない、仕事があるでしょ?」


ルナに言われたベアーは倉庫の表に回って状況を確認しようとした。


そして、



「………」



「……………」



「……………………」




 正面入口にの前に立ったベアーは異様に長い沈黙に襲われていた……ベアーの様子にただならぬものを感じたルナはベアーに話しかけた。


「ねぇ、どうしたの……」


ベアーの表情は今までにないものである。その眼は死んだ魚のようであり、その顔色は真っ青である。



「ねぇ、どうしたのって、聞いてるでしょ??」



ルナが強く言うとベアーは倉庫のシャッターに張り出された黄色い紙を指差した。



≪暦305年、11月13日


この日をもってフォーレ商会は廃業とする。なお取引に関することはフォーレ ロイドと連絡を取ってしかるべき処置をするように


なお、この倉庫の使用権は同日をもってポルカの組合に変換される。


ポルカ商務行政委員会≫




 黄色い公的な厚い紙に記された『廃業』という文字を見たベアーは言葉を失うとその場に凍りついた彫像のようになった。



「廃業って……どうなってんの……」



ルナが不可思議な表情を浮かべると二人の後ろを通った年配の商人が声をかけた。


「あんたら、フォーレの人間だろ?」


言われたベアーが呆然とした表情をしていると年配の商人が気の毒そうな表情を見せた。



「キャンベルにやられたんだよ……キャンベル海運ににらまれてな、倉庫の使用権を奪われて……それで商売が滞ったんだ……」



年配の商人はそう言うと周りを見た。


「残念だけど、フォーレは終わりだ……あんまり話すとうちもにらまれるから……」


年老いた商人はそう言うとそそくさと二人の前から離れた。


                                  *


残された二人はしばし呆然とした、現実の事態があまりに衝撃的で言葉が出ない。


「……どうなってんだ……」


ベアーが顔色を青くして声を振り絞るとルナがポツリと漏らした。


「キャンベルにやられたって……言ってたわよね」


ルナはそう言うとベアーを見た。



「フォーレ商会、倒産なの……」



尋ねられたベアーは微動だにしない。あまりの衝撃に反応できなくなっている……



『これ、めっちゃ、ヤバイな……』



ルナがそう思ったときである、その後ろから再び声がかかった。



「よう、お前ら!」


 声をかけてきたのはウィルソンである、その表情は明るく朗らかである。自分のいた会社が倒産したとは思えぬ快活さがあった。


それを見たベアーは大声を上げた。



「フォーレ商会、倒産してんじゃないですか!!!」



ベアーがそう言うとウィルソンは何食わない顔を見せた。


「まあな」


ウィルソンは余裕のある表情でそう言うと二人に近づいた。


「今から説明するから……とりあえずついてこい」


ウィルソンにそう言われたベアーとルナは顔を見合わせるとウィルソンの後を追うことにした。


                                    *


 ウィルソンが二人を連れて行ったのはロイドの屋敷であった。そこではいつもと変わらぬ日常が展開していた。そよ風がささやき、小鳥がさえずる、穏やかな風情が展開していた。


ベアーが視線を移すと、中庭には多くの人間が集まっている様子があった、


「あれ、みんないる……」


 中庭にはロイドやジュリアだけではなく、ケセラセラ号の船長や船員も集まっていた。彼らは和気あいあいとお茶を飲みながら和やかに談笑している。倒産した会社の社員とは思えぬ様子である……


彼らの姿を見たベアーが首をかしげるとウィルソンが声を上げた。



「ロイドさん、全員集まりました!」



その声を聴いたロイドは3人のほうに目をやると早く来いと手招きした。


ベアーとルナは何のことかわからずポカンとした表情を見せた。



ロイドに手招きされたベアーは開口一番に尋ねた。


「フォーレ商会が……倒産しているんですけど……」


ベアーがそう言うとロイドは落ち着いた表情でうなずいた。


「そうだ、昨日をもってフォーレ商会は40年にわたる歴史に幕を下ろした」


その物言いは淡々としていて何の感慨もない、ベアーはその様子に驚きを禁じ得ない……


「……えっ……」


ベアーが唖然とすると、それを見たウィルソンが笑った。俗にいう『プー、クスクス』状態である。


ベアーはそれを見るとさすがに腹がたった。



「会社がなくなってるんですよ、笑いごとじゃないですよ!!!」



ベアーが息巻くとロイドがそれを抑えた。



「フォーレはなくなったが、倒産というわけじゃない、あくまで廃業だ」



ベアーは意味がわからず怪訝な表情を浮かべるとウィルソンがそれに答えた。


「廃業と倒産は違うんだ。倒産は債務が返せなくなってつぶれることだが、廃業は自主的に会社をたたむことだ。借金で首が回らなくなってフォーレはつぶれたわけじゃない。」


ウィルソンはそう言うとその眼を光らせた。


「わざと自主的に廃業したんだよ!」


ベアーが廃業という言葉に記憶をひらめかせると、先ほど年寄の商人に言われた一言が思い起こされた。


「そういえば、キャンベルが邪魔したって……そう、倉庫の権利がなくなったって……」


ベアーがそう言うとウィルソンが厳しい表情を見せた。


「そうだ、キャンベル卿の圧力で組合が屈して倉庫の使用権が奪われたんだ。倉庫の使用権がなければ土地をもっていても使用はできない。商売が滞る状態になるんだ。そのあたりの仕組みを看破したキャンベルの策略だよ」


それを聞いたルナが憤った


「なにそれ、超ひどい!!!」


それに対してウィルソンが答えた。


「ああ、あまりに横暴だ。正直、カチこんでやりたいぐらいだ。それに、組合の奴らも腹が立つ。今までまっとうに付き合ってきたのに、キャンベルに一声かけられただけで手のひら返しやがった!!」


ウィルソンも相当怒りをため込んでいるようでその表情は火達磨のようである。


 だが、それに対してロイドが冷徹な目を見せた、そこには商人ではなくベテランの狙撃手のような鋭さがある



「だが、逃げ道もある……」



ロイドはそう言うと雄々しい声を上げた。



「新会社の設立だ!」



ベアーは思わぬ言葉にその眼を大きく見開いた。




キャンベルの策略によりフォーレ商会は廃業に追い込まれますが……ロイドはそれを交わすべく新会社を設立します。


はたしてこの後どうなるのでしょうか?

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