第十話
26
ミーナからポーションを手に入れたルイスはアギーレとともにプールされた金のある現場についていた。
そこは町の中央から少し外れたところにある清掃局の一画であった。
「街でコンテストが開かれている間はそれに合わせてここの人員は減るんだ。ゴミの収集に忙しいから事務所の中には必要最低限の人間しかいない。正確には警備の人間だけだ」
アギーレは自信を見せた。
「役人に女を抱かせた甲斐があるってもんですね」
ルイスがそう言うとアギーレはフフッと笑った。
「確かに高い買い物だった。だが、そのおかげで金のありかが分かったんだ。」
アギーレはフェスの審査員である清掃局の課長に少女を抱かせて裏金の情報を得ていたが……警備の状況だけでなく、隠し金庫の暗証番号さえも認識していた。
「紫色のスカーフは子供の娼婦のことだ。違法な子供と遊んだとなれば、恐喝するのは簡単だ。」
アギーレは言葉巧みにフェスの審査員である清掃局の課長をたぶらかすと少女を娼婦としてあてがうという陰湿な離れ業を成功させていた。そしてその結果、信ぴょう性のある裏金の情報を聞き出していた。
アギーレは悪魔的な表情でルイスを見た。
「ルイス、ポーションを構えろ!」
アギーレは邪悪な笑みを見せた。
*
アギーレに言われた通り、霧吹きに入ったポーションを用意したルイスは清掃局の中にある事務所の奥へと向かった。
「2人だ、俺が引きつける、お前は出てきた2人に霧吹きを使え!」
アギーレはそう言うと迷い込んだ観光客のふりをして待機所のドアをノックした。
*
「すみません、迷ってしまって」
アギーレは人のよさそうな亜人のふりをすると頭を下げた
警備の二人のうち、1人がアギーレに近づいた。
「何を迷ったんだ?」
警備員の1人が怪しんでそう言うとアギーレがそれに答えようとした。
その瞬間である、柱の陰に隠れていたルイスが躍り出た、そして手にしていた霧吹きを吹きかけた。
警備の男は何が起こったかもわからずその場に崩れ落ちた。だが奥にいる警備員からはドアと壁が邪魔になりルイスの様子は微塵も見えない。
アギーレは素っ頓狂な声を上げた。
「こちらの警備の方が、突然倒れたんですけど……」
アギーレは善人を装うと倒れた警備員を介抱する様子を見せた。その様に釣られた警備員はドアの方向に向かって近寄ってきた。
10m
5m
3m
「いまだ!」
アギーレがそう言うと屈んだアギーレの陰から飛び出したルイスが霧吹きを警備員に向けた。
警備員は倒れた警備員に気を取られていたため全く無防備であった。ルイスの霧吹きの射出口から甘い匂いの液体が放たれると、それと同時に気を失った。
「よくやった!!」
アギーレはそう言うとルイスに合図した。
「昏倒している間に金を頂くぞ」
ルイスはあらかじめ用意していた皮袋を開くと裏金を収集するべく事務所の奥へとその足を踏み入れた。
27
アギーレは紫色のスカーフの少女を抱かせて清掃局の課長をたらしこんでいたため、プールされた金庫とその鍵の場所を知っていた。
掃除用具の入ったロッカーの裏に隠された鍵を使ってアギーレが隠し金庫を開けると、金貨と銀貨を納めた皮袋が大小50近くあらわれた。盗賊にとって壮観と言っていい光景がアギーレとルイスの眼に映る。
「ポーションの効果は10分程度です」
ルイスに言われたアギーレは頷くと金貨の入った革袋だけを持ち指す算段を取った。
「よし、いそぐぞ!」
言われたルイスは頷くと皮袋を担いで外に出ようとした。
*
2人は大きなアルカ縄で編んだ袋に金貨の入った小袋を詰め終わると、足音を殺して事務所の外に出ようとした。
彼らに気付いている人間はいないようで、計画は100%成功しているように思えた。
「いけそうですね」
ルイスがアギーレにそう言うとアギーレは満面の笑みを浮かべた。
*
その時である、2人の眼の前――入り口付近に1人の少女が現れた。
それを見たルイスが声を出した。
「ミーナ!!」
呼ばれたミーナは不安な表情を見せた。
「ねえ、やめましょうよ、この計画……」
ミーナが不安な声でそう言うとルイスがそれに答えた。
「何言ってんだ、もう金は盗んだ、後は逃げるだけだ!!」
言われたミーナは驚いた表情を見せた。そこには計画を止められなかったことに対する慙愧の念が窺える……
「そんなことより、ブツの入った荷物を運ぶの手伝えよ!」
興奮したルイスがそう言うとアギーレがミーナに厳しい表情で詰問した
「オメェ、まさか治安維持官に告げ口してねぇだろうな?」
アギーレが確認するようにそう言うとミーナは小さく首を横に振った。アギーレはそれを見るとあたりに耳をすました。亜人の聴覚は常人よりも長けている。アギーレは周りにだれかいないか確認した。
「……大丈夫そうだ…」
アギーレは安心した表情を見せるとルイスに声をかけた。
「速く運んじまおうぜ」
アギーレがそう言うとルイスは背中を見せて金貨の入った袋を外へと運ぼうとした。
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さて、ベアーとルナは……
「あいつら、ポーションをつかって裏金をゲットしたのか……」
ミーナの後をうまくつけたベアーとルナは清掃局の裏口にその身を潜ませると、彼らの様子が見える位置に隠れていた――幸運と言っていいだろう、現在の状況を完璧に把握できていた。
だが、すでに裏金である金貨は既にアギーレたちにより運び出されている……
「清掃局の事務所に隠すなんてね……考えもしなかったね」
ルナがそう言うとベアーが神妙な面持ちを見せた。
「あの30代の亜人、見たことあるぞ。あいつ、娼館にいた男だ。」
ベアーはアギーレがベアーに対して圧力をかけて娼館から追い出した男だと認識した。
「なるほど、娼館にいた役人とあの亜人は関係があったんだな……」
ベアーはそう思うとルナに小声でつぶやいた。
「あとはカルロスさんたちがきてくれれば、現場をおさえられる。」
ベアーがそう言うとルナもうなずいた。
「最悪ここで取り逃がしても、金貨を持って逃げるのは簡単じゃない……街道までも逃げられないわよ」
30kgを超える金貨の入った袋を持ち出すのはそんなに簡単ではない、ベアーとルナはプールした裏金を盗んだ連中が捕まるのはさほどの労苦がないとタカをくくった。
「俺たちはあいつらの話をしっかり聞いておこう、そうすれば取り調べが捗るだろうしね」
ベアーがそう言うとルナが明るい表情を見せた。そこにはすでに事件が解決したという思いが湧き出ている。
「一応、ミーナは計画を止めようとしたし……罪は軽くなるはずだよ、今だって困惑してるみたいだし」
ベアーがミーナの様子を見てそう言うとルナもまんざらでもない表情を見せた。
だがそんな時である、思わぬ事態が生じた。
ベアーとルナは金貨を盗んだアギーレたちの行動を確認しました。
ですが、何か起こったようです……一体、何が起こったのでしょうか?




