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第九話

24

ミーナの捜索は困難を極めた、スターリングは複数の治安維持官を捜索にあてたもののその行方は依然として分からなかった。


「観光客が多いから人探しは至難の技ね……集まってくる情報もそれらしいだけで間違ってるわ」


 ニルスの目抜き通りにある治安維持官の詰所で地元の捜査官を指揮していたスターリングはミーナの行方がつかめないことに不愉快な表情を浮かべた。


「コンテストの前だからさらに人が増えてる……喧嘩やスリもあるから、これ以上は治安維持官をミーナの捜索に裂けないし……」


 年に一度のフェスということで観光客が増大し、それに付随する喧嘩やいざこざがあちこちで起こるため、ミーナの捜索は思いのほか捗らない。


「弱ったわね……」


スターリングは困った表情を浮かべた。


「プールされた金のありかもわからないし……このままだと事件をみすみす見逃すことになる」


 スターリングはミーナの身柄をおさえて計画の全貌を証言させたいと考えていたが、ミーナが見つからなければ何の意味もない。


「クソ……」


 スターリングは広域捜査官という監督する立場のため自分自身で動ける状況にはない。捜査の陣頭指揮を執っているために自由がきかないのだ……


「ニルスの治安維持官はやる気がないですね……このままだと賊のおもいのままになる」


スターリングの様子を隣で見ていたカルロスは状況が思いのほか好転しないことに困った表情を見せた。


「ここの治安維持官はコンテストの裏金に興味がないのよ。コンテストの審査員がニルスの住人だから下手に裏金の事が暴かれれば地元住民を逮捕しなきゃいけなくなる。街が小さいから人間関係も濃厚だろうし……私の指示も適当に流すつもりなんだわ」


スターリングが捜査員の動きを分析してそう言うとカルロスがさもありなんという表情で頷いた。


「地方の治安維持官たちは自分の地元に黒い部分は隠したがります。それが裏金となると余計に動かないでしょうね。脱税は人殺しや強盗じゃありませんからね……」


スターリングはカルロスを見た。


「カルロス、自分たちでやるしかないわ」


スターリングはそう言うと戦略を変える表情を見せた。



25

さて、その一方――ベアーとルナもミーナの行方を追っていた。


だが、人探しのプロでない彼らにはかなり厳しい状況が展開していた。


「これだけ人が多いと……わかんないね」


ベアーが困った表情を見せるとルナもため息をついた。


「想像以上の人だよね……」


 観光客だけでなくパレードもあるため町中が人でごったがえしている……喧騒が漂う状況は静かな田舎町を興奮のるつぼへと変えていた。


 町の目抜き通りだけでなく、路地や広場も人であふれ移動するだけでも困難を極めた。ここで人を探すのは不可能と言って過言でない。


「でも、ミーナを見つけなきゃ!」


ルナには強い意志があるようでミーナを見つけようとする気概が強く出ていた。


ベアーはそれを不思議に思ったが、魔女同士のつながりが想像以上に強いのかと心配になった。



『……何か過去にあるんだろうな……』



そう思ったベアーはおもいきってルナに問いかけた。



「そんなにミーナに思い入れがあるのはなぜなんだい?」



ベアーが疑問をぶつけるとそれに対してルナが立ち止って答えた。


「二つある……一つは私のレシピのポーションが犯罪に使われるのが我慢ならないってこと。ミーナのやり方は看過できない。正当防衛で使うならまだしも、自分の欲望をかなえるためにポーションを使用するなんて、魔女として言語道断、絶対黙ってられないわ!」


 そう言ったルナの表情は実に厳しい……怒りと不愉快さのあいまった今までベアーの見たことのないものであった。だがその一方でベアーはその表情の中にルナの魔女としてのプライドを感じた。



「なるほど、わかった……じゃあ、もう一つは?」



尋ねられたルナはベアーをジットリとした目で見つめた。その眼には先ほどとは全く異なる見識がある。



「あんた気づいてないの……」



言われたベアーはなんのことかわからず首をかしげた。



「……これだから男は……」



ルナはそう言うとはっきりとした口調で述べた。



「ミーナのためじゃない、未来のためよ」



その言い方は溌剌としていて翳りはない。ベアーの心配など歯牙にもかけぬ快活さがある


ルナはベアーの唇に人差し指を置いた。


「あんたが勘ぐるような過去のトラブルはミーナとあたしとの間にはないわ……ポーションのレシピを盗まれたことには問題あると思うけど」


 ルナがそう言うとベアーはいつもの表情に戻った。その表情は幾ばくか漂っていたルナの過去に対する不安感が払しょくされている。


その表情を見たルナがベアーに話しかけた。



「ひょっとして、心配してくれたの、わたしのこと?」



ルナがツンツンした物言いで発言するとベアーは若干ながら言葉に詰まった。



「べ…べ………別に」



ルナはしたり顔を見せた。


「……いや、犯罪にポーションが使われれば、この後大変だと思っただけだよ!」


ベアーがそう言うとルナは口角を上げてニヤニヤした。


                                   *


 と、そんなときである……いつの間にか二人の前に足の短い動物が現れた。その動物は二人を見ると鼻を鳴らした。


「お前と今遊んでる暇はないんだよ」


 ベアーがそう言うとその動物は前脚を上げて関節を器用に曲げた。そして鼻の前でカクカクと横に振った。どうやら違うという意味らしい……


「じゃあ、なんか、あんのかよ?」


 ベアーが胡散臭そうにそう言うとその動物は自信を滲ませた。不細工な表情を引き締しめると妙に雄々しい態度を見せた。そしてその動物は顎を前方斜め45度の方向に向けたのである。


「おまえねぇ、それ何の意味があるの?」


 ベアーが人ごみに向けて顎をクイクイやるロバに対して悪態をつくと、隣にいたルナが突然、素っ頓狂な声を上げた。



「あれ、ミーナだよ……ミーナのフードだ」



 ギョッとしたベアーはルナの差した方向を見ると確かに見覚えのあるフードが人ごみの中で移動している。


ベアーとルナは顔を見合わせた。


「……間違いない……」


ベアーは確信するとロバに語りかけた。


「おまえは、カルロスさんとつなぎをつけろ、俺たちはミーナを追う」


ベアーがそう言うと不細工な生き物は微妙な表情を見せた。



『……ハゲはいや……』



ブサイクな生き物がジェスチャーでそう示すとルナがそれに答えた。


「スターリングさんも一緒にいるわ。チュニックを着てるんだけど、それがノースリーブになってるの」


 ノースリーブという単語を聞いたロバはその表情をかえた、そして哲学者のような深い思考を一瞬見せるとクルリと振り返って治安維持官の詰所に向かって走り出したではないか……


ベアーはその様子を見て確信した、



『あいつ……絶対、わきフェチだ……』



ベアーは短い脚でダッシュするロバの姿に変態としての片鱗を見出していた。




ロバの助けにより、ベアーとルナはミーナを見つけることができました。


さて、この後どうなるのでしょうか?

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