第八話
21
ベアーとルナは現状を簡潔にまとめてカルロスに報告した。
「なるほど、ミーナって言う魔女がポーションを使って何か企んでいるっていうことだね……」
カルロスはきらめく額に汗を浮かべて腕を組んだ。
「そう、大きなお金でも手に入れるような口ぶりだった……かなりやばいと思うんだよね」
ルナがそう言うとカルロスが神妙な表情をうかべた。
「となると狙いはニルスの両替商かな……フェスで人出が多くて出回る金も増えているから入金される金の量も増えているだろうしね……」
だが、カルロスはしばしの間、沈思すると自分でその考えを否定した。
「だけど、あそこの警備はしっかりしてる。この時期は強盗に入るのは不可能だ。警備の人間すべてをポーションで昏倒させるのは至難の業だと思うしね。大掛かりな事件になれば捜査の網は厳しくなる、そうなれば彼らの犯行は露見する……必然的に逮捕の可能性は高くなるだはずだ。」
カルロスが犯罪者の行動を推理して、広域捜査官らしい見識を見せるとルナとベアーは困った表情を見せた。
そんな時である、彗星のごとくもう一人の人物が現れた。同じく町人服に身を包んだ美しい女である。その魅力的な容姿と氷のような瞳は忘れようのない人物である。
「スターリングさん!!」
カルロスの上司であるスターリングは相も変らぬ美貌を振りまくと冷静な見解を述べた。
「狙いは両替商じゃないわ」
スターリングは自信を見せた。
「ニルスのフェスでは屋台の連中が運営側に袖の下を渡しているのは知っているでしょ」
ベアーとルナがうなずくとスターリングが続けた、
「徴税官の話を聞いてきたんだけど……袖の下としてフェスの運営側に渡る金額は売上の10%はあるそうよ。」
スタ-リングは冷たい瞳を輝かせた。
「徴税間によると屋台の売り上げとニルスの税収との間に明らかな隔たりがあるの。つまり袖の下として渡された金は裏金として蓄積されているはず……それも毎年ね」
スターリンが事前に調べてきたことを述べるとベアーが貿易商らしい見解を見せた。
「毎年となると相当の金額ですね……両替商に入金すれば徴税官の眼に入るはずですから、脱税がばれる……」
ベアーはそう言うとさらに続けた
「つまり、その金をどこかに隠してるってことですね?」
ベアーがそう言うとカルロスが『なるほど』という表情を見せた。
「つまり、ミーナ達はそのプールされた裏金を狙ってるってことか」
カルロスがそう言うとベアーが素朴な疑問をぶつけた。
「でも、そのプールされた金はどこにあるんですか……」
素朴な疑問というのは答えに詰まることが多いのだが……ベアーの問いもまさにそれであった。残りの3人は苦虫を潰したような表情を見せた。
そんな時である、ルナが突然声を上げた。
「ミーナを見つけるしかないわ、見つければ計画の全貌がわかるはず」
ベアーは強くうなずいた。
「そうだね、それができれば、何とかなるね」
ベアーがそう言うとスターリングが自信を見せた。
「どうやら私の力を見せる時がきたみたいね」
スターリングはそう言うと捜索の陣頭指揮を執るべく広域捜査官の顔を見せた。
22
ルイスは手に入れたポーションを確認すると、計画の首謀者である亜人の男のもとに向かっていた。
『アギーレさんのおかげで、俺たちの未来は変わるんだ。』
ルイスとミーナはコソ泥や寸借詐欺を繰り返しながらダリス各地を廻って生計を立てていた。だが、その行為は実入りのいいものではなくリスクがつきものであった。常に治安維持官との距離を窺いながら恐る恐る生きていくほかなかった。
だがニルスに来たことで2人の生き方に変化が生まれた。
ルイスはアギーレの発言を思い返した、
≪俺の計画が成功すれば、かなりの金が手に入る。そうすれば3人で分けても家一軒くらいは立てられるはずだ。ルイス、ここは勝負の価値がある。ミーナの持つポーションがあれば必ず成功する≫
アギーレという亜人の男と酒場であったルイスは同じ亜人の血をひいているということに安心してアギーレに心酔した。
≪ルイス、俺と一緒に未来を変えないか?≫
アギーレの言葉を思いだしたルイスは決意した。
『金が手に入れば、家が買える。そうすれば知らない土地で定住できる。コソ泥なんてしなくて済むんだ。!!』
ルイスは明るい未来を手に入れるためにリスクを犯すことに何の躊躇もなかった。
*
ルイスがアギーレとの待ち合わせ場所につくとアギーレはルイスの肩を抱いた。
「兄弟、ポーションは手に入れたか?」
ルイスがガラスの霧吹きに入ったポーションを見せるとアギーレが嗤った。
「よし、30分後に襲うぞ!!」
アギーレがそう言うとルイスは気合の入れた表情を見せた。
「行くぞ、兄弟、金は目の前にあるぞ!!」
アギーレが勢いよくそう言うとルイスは大きく息を吐いた。
23
さて、同じ頃……
ミーナは計画通りにニルスの街から離れて街道筋にある人目のつかない待ち合わせ場所に向おうとしていた。
『……うまくいくんだろうか……』
ニーナはあまりの不安に押しつぶされそうになっていた。
『昨日の月……陰ってた……』
ミーナは不安げな表情を浮かべると腹部に手を当てた。
『……大丈夫だろうか……』
不安感が募ったミーナの表情は実に昏い……歩く姿もどことなくたどたどしく若い娘としての溌剌さがない。
『……やっぱり、この計画……無理なんじゃ……』
ミーナの魔女の感がうったえる。
『やっぱり……やめさせた方が、いい……』
ミーナはそう思うと街道に続く町はずれで立ち止まった
『今なら、まだ間に合うかもしれない……』
ミーナはそう思いなおすと踵を返そうとした。
*
と、その時である、振り向いたミーナの目の前に妙な生き物がひょっこりと現れた。その生き物は首をかしげるとミーナに熱い視線を送った。そして流し目を見せてから、絶妙のタイミングで2連発のウィンクをかました……
「あんたみたいなブサイクなロバと遊んでる暇はないの!」
ミーナがきっぱり言うとブサイクなロバは実に哀しげな表情を浮かべた。目元をふせるその様子はブサイクでありながらも哀切さが漂っている……
「……そんな顔しても無駄よ……」
ミーナはそう言うと町に向けて歩み始めた。
「何よ、あんた……こっち見ないでよ……」
ミーナが非難するような口調でそう言うとブサイクなロバはミーナの首から下をねめつけて可思議な表情を浮かべた。
『……気になる……』
ブサイクなロバは神妙な表情を見せるとミーナのうしろをトボトボと歩き始めた。
ロバ登場!!!(以上)




