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第七話

18

翌日の朝、ニルスの街の雰囲気は昨日と打って変わりコンテスト一色に染まっていた。16時に結果が出るのだが、審査員たちはそれに合わせて足しげく屋台に向かい状況を確認している。


 どの店も息の詰まりそうな緊張感で覆われ、屋台の店主は審査員の質問や一挙手一動に真剣に対応している。


「なんか、昨日とが違うね……」


ルナがそう言うと街道筋のターミナルから戻ってきたベアーがルナに話しかけた。


「今日はコンテストの結果が出るからね……みんな気が気じゃないよ。これで人生が変わるんだから……」


ベアーがそう言うとルナが沈んだ表情を見せた。


「ミーナは今日が勝負だって言ってた、あの子…何を考えてるんだろ……」


それに対してベアーが淡々と答えた。


「さあ、どうだろう……ミーナっていう娘が自分で何を選択するかで未来が変わるはずだよ……夕方には嫌でもわかるよ」


 実のところ……ベアーは早朝、街道筋にある駅馬車に向かうと銅のブロンズ像を見せて広域捜査官とつなぎをつけてくれるように頼んでいた。


「司直の手に囚われるか、それとも自由を謳歌するか……すべて彼女の意思次第だよ」


ベアーがそう言うとルナが頷いた。


「さあ、気分を少し変えよう、朝食の代わりに昨日の汁そばでも食べようよ」


ベアーはそう言うとルナの手をひいて昨日の店へと向かった。



19

若い亜人、ルイスは手筈を確認していた。


『ここで隠れる……そして一気に突入……ブツを確認して5分で袋詰め……』


ルイスは脳裏に潜入時の『動き』をシュミレーションすると一人の亜人のことを思い浮かべた。


『あの人が造った計画だ。間違いないはずだ……大丈夫!』


ルイスは自分に計画も持ちかけた壮年の亜人の言葉を脳裏に浮かべた。


≪屋台の多くがコンテストで優勝するために審査員たちを買収している。そしてその買収した金は審査員たちがプールしている。あいつらは買収された金を貯め込んで町の発展に使うとうしているんだ。ここはフェス以外に産業はないから町の奴らは金が欲しくてしょうがないんだよ。ましてそれが裏金となれば、好きに使えるからな……フェスは50年近い歴史がある、毎年プールされた金額は小さくない。≫


 ルイスはコンテストの審査員が買収されていることを壮年の亜人から知らされていた。そしてその金が長年にわたりプールされていることも……


≪コンテストが行われている最中は集めた金を警備する人間が手薄になる。そこが最大のチャンスだ!≫


 壮年の亜人の知らせてくれた革新的な情報によりルイスは既に金のありかを認識していた。その表情には自信さえみなぎっている。


「手薄になった警備なら簡単だ、ミーナのポーションを使って奴らを酩酊させ……その後、金を頂く」


ルイスはそう口にすると金を運ぶ逃走ルートや、その後の足取りを確認した。


「金さえとれば後はこっちのもんだ。」


ルイスは実に不遜な笑みを見せた。


「これから俺の人生が始まるんだ!!!」



一方、その様子を見ていたミーナは不安に駆られていた。



『この計画、うまくいくんだろうか……』


ミーナはルイスと違い、漠然とした怖れを抱いていた


『ルナは勘がいいわ……ひょっとしたら……治安維持官に通報しているかも……』


 ミーナも魔女の端くれである、決してバカではない……彼女はルナという存在が現れたことで不測の事態が生じる危険性を直感的に悟っていた。


『でも……ルイスは止めろって言っても聞く状態じゃない……』


不安になったミーナはルイスを見ると声をかけた。


「ねぇ、ルイス、あんたにプールした金のありかを教えた奴は……だいじょうぶなの?」


言われたルイスは自信を見せた。


「心配スンナ、一番信用できる人物だ。俺と同じ血の入った亜人だ。血のつながりは亜人にとって何よりも重要だ。あの人がいうならまちがいねぇぜ」


 ルイスにプールされた裏金のありかを教えた亜人はルイスと同じ『族』の血が流れている人物であった。血統を人間以上に重要視する亜人にとって共通の『族血』が交じっていることは信用するうえで重要な要素になる。


ルイスはミーナに近寄った。



「ポーション渡してくれるか?」



言われたミーナは不安な表情を見せたが、シブシブ液体の入った霧吹きを渡した。


「ミーナ、後は計画通りにするんだ。俺たちが金を盗んだら、そのあと街道筋に向かう、そこにある雑木林に柿の木がある――そこで落ち合う。その後は金を分けて……」


ルイスはそう言うと興奮した面持ちを見せた。


「今日の午後になればすべてが終わる。夜になれば世界が変わってるんだよ!」


ルイスは嬉々とした表情でそう言うと水車小屋をすさまじい速さで出て行った。


その背中を見たミーナは深いため息を吐いた。



20

汁そばは相も変わらず美味かったがルナの手元はあまり動いていない。それを見たベアーはルナに声を開けた。


「ミーナが気になるんだろ……」


言われたルナはかぶりを振った、だがその様子は行動とは明らかに裏腹である。


「彼女がどうなるかは彼女自体が選ぶことになる。それは外からどうこうできるものじゃ……」


ベアーがそう言うとルナがそれを遮った。


「わかってるよ、そんなこと……」


ルナが沈んだ表情を見せるとベアーがため息を吐いた。


「ミーナがどこにいるかわからなければ、こっちだって声はかけられない。危ない橋を渡っているとしてもね……」


ベアーが正論をかざすとルナが口をとがらせた。


「わかってるよ……」


ルナの見せる複雑な表情にベアーは何とも言えないものを感じた。


『何かあるんだろうな、きっと……』


 ルナのミーナに対する思いにただならぬものを感じたベアーであったが、ルナは口を真一文字にしたまま沈黙している。


『……聞いても答えそうにないな……』


ベアーが心配そうな表情を見せるとルナが口を開いた。



「私はそんなに甘い女じゃないよ、ミーナの事を心配してるわけじゃない……」



ルナがベアーを察してそう言った時である、2人に思わぬ人物が声をかけてきた。


                                     *


「やあ、君たち!!」


 声をかけてきたのは町人服に身を包んだ男である、その額は陽光に照らされ燦然と輝いているではないか。


2人はその額の輝きを見ると声を上げた。



「カルロスさん!!」



 2人の前に現れたのは広域捜査官の男であった。相も変わらず微妙な髪型だがその顔は温和であり、2人を見る目には全幅の信頼がある。


「サングースの事件では世話になったね、君たちからの連絡だとわかってすぐに駆けつけて来たよ」


カルロスはそう言うとさっそく2人に状況を尋ねるべく広域捜査官としての表情を見せた。




どうやら、ミーナとルイスの狙いはフェスティバルでプールされた裏金のようです。


一方、ベアーたちにも助っ人が現れました。 はたしてこの後どうなるのでしょうか?

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