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第六話

15

ルナはかがり火の焚かれた道を足早に進むと眼前にある影を確認してから走った。そして程なくするとその影の持ち主に追いついた。


「ちよっと、あんた!!」


ルナがフードをかぶった影の持ち主に声をかけるとフードの人物が止った。


「あんた、ミーナでしょ!」


ルナがその名を呼ぶとミーナと呼ばれた人物はビクッと体を震わせた。


「別に取って食おうってわけじゃないわよ」


ルナがミーナの様子を見てそう言うと振り返ったミーナがフードを取ってルナを見た。


「やっぱり……」


 ミーナは平凡な町娘といった感じである――さほど高くない鼻、厚くない唇、大きくない眼、どこにでもいそうな顔立ちだ。不細工ではないが凡庸としていて特徴はない。年のころは14,5歳といったところだ。


「何で、声をかけたの?」


言われたルナはミーナから放たれる不快なオーラを感じた。


「久々に会うったのに、妙な口ぶりね……またトラブってんじゃないの?」


ルナに言われたミーナは不愉快な表情を見せた。


「昔の事を蒸し返すつもりはないわ、でも、あんた……」


ルナがミーナの様子を見て続けようとすると、ミーナがルナを睨み付けた。



「あんたに用はないわ、私は忙しいの!!」



ミーナがそう言うとルナがそれに答えた。



「あんた、昔のこと忘れたわけじゃないでしょうね、やっていいことと悪いことがあるんだからね!!」



ルナが詰問するとミーナは夜叉のような表情を見せた。



「何もないわ、うるさいわね!!」



ミーナはそう言うとルナに向き直った



「明日が勝負なのよ、私の人生を変える勝負の日なの、ほっといて!!!」



ミーナはそう言うとかがり火の焚かれた道をはなれて、駆け足で雑木林の方に向かった。



『アイツ、またトラブってんな……』



ルナは直感的にそう思った。



『……大きな間違いにならなきゃいいけど……』



16

そんな時である、ルナはその肩を後ろからポンとたたかれた。振り向くと心配そうな表情で見つめるベアーがいるではないか……


「今のフードの子……俺が街でぶつかった子だ……』


ベアーは萌木色のフードを見て確信するとルナを見た。


「何があったか話してくれるよね」


ベアーが真顔でそう言うとルナはため息をついた。


「いいわ、宿まで間に説明する」


ルナはそう言うとミーナのほうに目をやってから歩き出した。


                                  *


 かがり火がたかれた道は周囲の闇とのコントラストでそこだけが別世界のようなであった。暗闇と炎が溶け合う境界は幻想的で人の住む世界と自然界を隔てる独特の雰囲気が滲んでいる。


「あんたと会う前にミーナと3か月ほど一緒にいたことがあるんだ。まだこっちの世界の事がわからなかったときにね……あの子もはぐれ魔女だったから意気投合してね」


ルナは続けた、


「あの子はデキの悪い魔女なんだ……魔法もまともに使えないし……ポーションの合成もへたくそ……正直、魔女としてはやっていけないレベル……」


ベアーは静かに頷いた。


「出会った当初はそれなりに二人でやってたんだ……全然お金はなかったけど……占いとかしながら路銀を稼いで何とかやってた。だけど、ある日……事件が起きた」


ルナはそう言うと渋い表情を見せた。


「ミーナがご飯をおごってくれるって……それで食堂ダイナーに連れて行かれたんだけど……その店……すごく敷居の高そうな所で、私達の持ってるお金で何とかなるようなところじゃなかったんだ。」


ルナは沈んだ表情で続けた。


「でもミーナはさっくりと支払いを済ませた……それどころか財布には金貨がゴロゴロ入ってるんだよ……」


ベアーはその表情を歪めた。


「稼ぎのないミーナが金貨なんか持ってるはずないでしょ」


ベアーはそれに対して答えた。


「……まさか、盗んだんじゃ……」


ベアーがそう言うとルナがかぶりを振った。



「もっとヤバイ……」



ルナはそう言うとかつてあった核心を口にした。


「私の持ってた手帳にポーションのレシピが書いてあったんだ。何かあった時に身を守るためのね。だけどミーナはそれを盗み見してたんだ……」


ルナは口ごもった、


「盗みとった私のレシピをつかって、金のある商人にポーションを盛ったみたいなんだ。それで商人が酩酊してる間に……お金を……」


ベアーは大きなため息をついた。


「ポーションを使ったこん睡強盗ってわけか……」


ベアーがそう言うとルナはしょんぼりした。


「同じ魔女に裏切られるなんて思ってみなくて……その後、すぐにミーナとは別れたの……」


ルナはそう言うとベアーを見た。


「あの子……ここでも同じことをしようとしてると思うんだよね……」


ルナがそう言うとベアーは頷いた。


「……多分そうだね……」


ベアーはそう言うとキリッとした表用を見せた。


「仮にポーションが使われるなら、それはマズイことになる……魔導に関わる事案は普通じゃない。何か企みがあるならミーナって言う娘のことはなおざりにはできないね。」


 ベアーの言動に対してルナは残念そうな表情をみせた。同じはぐれ魔女として時を過ごした魔女が再び間違いを起こそうとしていることにやるせない思いを抱いているのであろう…


 ベアーは再びルナ肩をポンとたたいた。そこにはルナを配慮する慈愛がある。ルナはベアーの手を握ると向き直った。


「私のレシピでポーションを使うなら、それは私としても許せない。その時はケジメをつけなきゃ」


ルナがそう言うとベアーが熟考した。


「とりあえず、本当にポーションを使うかどうか、確かめてみないか。もし、そうなら司直の手にミーナを引き渡す。そうでないなら……問題は起こらないだろうし……」


言われたルナは大きく頷いた。



「俺に考えがある」



ベアーはそう言うといつもの表情に戻った。



17

その日の夜半……水車小屋では


「ミーナ、明日が勝負だ。たのむぜ!」


亜人の若い男、ルイスはミーナに真剣なまなざしで訴えかけた。


「ここで俺たちは新しい人生を手に入れるんだ……そのためには明日のミッションは絶対成功させる必要がる。」


ルイスはミーナを抱き寄せた。


「底辺を這いつくばって生きていくのは金輪際こりごりだ、ゴミのような人生を終わりにするんだよ。もうコソ泥も寸借詐欺もしなく済むようになるんだ」」


ルイスはミーナを強く抱きしめた。


「お前のレシピでポーションを使って勝負に出る……そうすれば俺たちは……」


ルイスがそう言うとミーナが不安な表情を見せた。


「じつは、さっき私のことを知ってる奴に会って……」


ミーナがそう言うとルイスがその表情を変えた。



「俺たちの計画を話したのか?」



言われたミーナはかぶりを振った。


「そんなことはしてないよ、ルイス……だけどポーションは……ばれるとマズイんだ……」


 魔女の端くれであるミーナはポーションを用いる法的リスクの事を承知していた。すなわちポーションが犯行で用いられればただでは済まないことを……


「心配すんなって、へまはやらねぇよ……それにお前の配合したポーションがばれたことなんてないだろ」


ミーナが心配そうな表情を浮かべるとルイスは不遜な表情を浮かべた。


「いまさら計画は中止できない――かなりの経費を使ってここまでやってきたんだ。ニルスの役人だって抱き込んだんだ。」


亜人の青年はそう言うとミーナを見た。


「大丈夫だ、ミーナ、俺たちならいけるって!!」


青年はそう言うと再びミーナを抱きしめた。


ミーナはルイスの腕に抱かれながら水車小屋の窓から見える月を見た。



『……仄暗い月……』



魔女にとって月は重要な魔力のもとになる。だがその月は陰っている……



『……うまくいくのかな……』



漠然とした不安感が募る中、ミーナは亜人の青年の胸に顔をうずめた。





ルナが声をかけたフードの人物はかつての知人、ミーナでした。ミーナは亜人のルイスとポーションを用いて何やら企んでいます。


はたして、この後どうなるのでしょうか?

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