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第二話

なんと、ベアーの所にフードをかぶった人物が走り込んできてぶつかったのである。その人物は相当急いでいるらしく倒れたベアーを無視して何食わぬ顔を見せた。


「痛ってぇ……」


倒れたベアーは加害者を糾弾しようとしたが、すでにその姿はすでにない……人込みをすりむけるようにして走り去っていた。


「何なんだ、アイツ!!」


 ベアーが不愉快な思いを持って立ちあがると、いつの間にかやってきたルナがベアーを制した。その表情はいつもとは異なり真剣である。ベアーはルナの様子にただならぬものを感じた。


「どうかしたの、ルナ?」


ベアーが尋ねるとルナは持っていた『変わり焼き』をベアーに渡した。


「私ちょっと行ってくる……あとで噴水の所で合流ね」


ルナはそう言うと人ごみの中に消えていった。


ベアーは何のことかわからず首をかしげた。


「一体、何なんだ……」


ベアーは素朴な疑問を持ったがルナの背中に何やら不穏なものを感じた。


「……トラブルじゃねぇのか……」


僧侶の感はベアーにそう告げていた。


                                  *


ルナはベアーを突き飛ばした相手を追っていた。


「どこに行ったんだろ……」


ルナは目抜き通りから少し離れた路地裏をキョロキョロと見回したが目当ての人物は見つからない。


『あれは……たぶん……』


ルナの記憶の中では一人の人物が沸き起こっていた。


『気のせいだろうか……』


ルナは辺りの気配を読んでみたが観光客の足音や話声でうまく状況がつかめない……


『……これじゃ、わかんないわね……この腕輪がなければわかるのに』


ルナが魔封じの腕輪を不愉快そうに見た。


『……魔法が使えれば……』


フードの人物を見失ったルナは状況把握をあきらめた。



ルナが噴水の所に向かうとベアーが待っていた。


「どうかしたの?」


ベアーに尋ねられたルナはさほど感慨のないようすで「別に」と答えた。


「さっきのフードをかぶったヤツ……知ってるの?」


 ベアーの問いに対してルナは神妙な顔を見せたまま沈黙している。ベアーはその様子に若干不審なものを感じたが、尋ねて話すようには思えなかったので別の話題を振ることにした。


「さっきのヤツ、凄くおいしかったよ!」


ベアーがルナの渡した変わり焼きについて触れるとルナがその表情を変えた。


「食べたの???」


ベアーはうなずくと変わり焼きの感想を簡潔に述べた。


「中にはいってたエビとイカの出汁が出て、それに豚の三枚肉がカリっとしてて……それがいい食感になってるんだ。あれは普通じゃないうまさだね。前年度チャンピオンは伊達じゃない」


ベアーは力説すると変わり焼きの上にかかっていたソースに触れた。


「赤黒いソースはドロッとして酸味と甘みがあるんだけどスパイスも混じっててかなり複雑な風味なんだ。だけどそこに自家製のマヨネーズが絡んでくると、いい具合にコクが増すんだ。あのマヨネーズはあれだけでも売りに出せるね」


ベアーがそう言うとルナがその表情をかえた。


「あんた、全部食べたんじゃないでしょうね?」


「……えっ……」


  言われたベアーはその眼を点にした、その様子には『全部食べた』という意図が滲んでいる。ルナはそれを察すると魔女の表情を見せた。


「ちょっとそれで済むと思ってんの、私が買ったんだからね!!!」


言われたベアーは『マズイ』と思うとその場を脱兎のごとく逃げ出した。


                                   *


 この後、ルナによって軽く出血する程度に嬲られたベアーはルナの望むモノを買うことを約束することで手打ちすることになった。


 命をかけたコント(軽め)を終えたベアーはルナのいうがままの目抜き通りに向かってルナの提示した屋台から望んだ商品を買おうとした。


その時である、ルナが声を上げた。


「ねぇ、あれ何?」


ルナの眼には制服のようなコスチュームに身を固めた3人の人物が映っていた。


「あれは審査員だよ。明日はコンテストがあってね、そこで一等になると勲章が与えられるんだ。その勲章は権威があって、優勝した商品はマーケットで高値がつくんだ。」


ベアーはしたり顔で続けた。


「一等になった商品はその年の一年間は特別な扱いをうけるんだけど、それだけじゃなくてね――名物として何年にもわたってその名が知れ渡るんだ。ダリスにある食品系の名物はこのコンテストで優勝していないと箔がつかないからね」


ルナはベアーの話を聞くと審査員に吟味される屋台の店主の顔を見た。


「……ガチで真剣だわ……」


ルナがそう言うとベアーが『さもありなん』という反応を見せた。


「そりゃそうだよ、このコンテストは50年続いているからね、権威に裏打ちされた商品は20年、30年と語り継がれる――定番商品となって定着すれば、手堅い商売になるからね」


 飲食店で成功するのは簡単ではないのだが、このコンテストで優勝すれば間違いなく成功が約束される。店舗を持つための資金も両替商から借りやすくなるという特典さえあるのだ。屋台を出している店の店主たちが異様な熱気を放つのも当然と言える。


「じゃあ、みんなここが勝負なんだね」


ルナがそう言うとベアーが頷いた。


「ここは鉄火場と同じだよ!!」


ベアーはそう言うと次の店にターゲットを縛った。



さて、その頃――


先ほどベアーとぶつかったフードの人物は目抜き通りからはなれて田園地帯へと向かっていた。灌漑用の小川を辿って行くと小さな水車小屋が現れた。


その人物は辺りを見回すると裏口に回って戸をあけた。


                                  *


「おい、わかってるんだろうな!!」


大声が水車小屋の中に響くと、正座していた男が大きな体を震わせた。威嚇されたことで萎縮しきっている。その表情はまさに蛇ににらまれたカエルである……


怒鳴りつけた若い亜人の男はそれを見るとさらに続けた。


「ここでへまをやれば、今までの事が全部パーだ。明日の午後が一番大事なんだぞ!!」


そう言うと亜人の男をいさめるようにしてフードをかぶった人物が声をかけた。


「ルイス、もうやめな、これ以上せめるとビビッて何にもできなくなるよ」


フードをかぶった人物がそう言うとルイスと呼ばれた若い亜人がそれに答えた。


「明日が勝負なんだ、俺たちには!!!」


ルイスがぶっきらぼうに言うと萌木色のフードの人物がそれに答えた。


「わかってるよ」


フードの人物が小さな声でそう言うとルイスが答えた。


「たのむぜ、ミーナ、お前が頼り何だ」


ルイスはミーナと呼んだフードの人物を引き寄せるとその腰に手を回した。


「ここで上手くいけば、俺たちの未来も変わるんだ!!」


若い亜人の男はそう言うとその眼をギラつかせた。




ベアーとぶつかったフードの人物は亜人の青年とともに何か計画を練っているようです。


はたして彼らの計画は何なのでしょうか?

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