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プロローグ その2

「客に向かって皿を投げるとはな」


 くぐもった声の主は実に不遜なオーラを放った。そのオーラを真正面から受けたキャンベルは今ほどの怒りを一瞬で沈めると言葉を無くした。


「……鉄仮面……貴様はゴルダで消えたはずだ」


キャンベルが小さな声でそう言うとくぐもった声の主はキャンベルに歩み寄った。


「枢密院で厳しい沙汰が言い渡されたようだな」


 枢密院での決定は通常外部に漏れることがないのだが、鉄仮面は既にキャンベルの処遇について知っているようである。


「領地の没収と身分の降格……たしか男爵だったかな」


鉄仮面が淡々と言うとキャンベルは再び怒りの火を灯らせた。


「男爵というのは爵位の継承ができない下級貴族だ。つまりキャンベル卿、お前の一族はお前で最後になるということだ」


鉄仮面がキャンベル卿の一番気に病んでいたことを述べるとキャンベルは鉄仮面を睨み付けた。


「お前は私を嗤いに来たのか!!!」


 キャンベルが怒号をあげると鉄仮面はそれを制した。その物言いは相も変わらず淡々としているが人間味はない……


「そのつもりはない。嗤うのであれば酒場で平民たちと酒を酌み交わして罵倒した方が愉しいだろ」


鉄仮面はそう言ってククッと嗤うとキャンベルに向き直った。


「お前がゴルダに所有していた倉庫は没収されていないな。あそこに何があるか覚えていないのか?」



 かつてベアー達が解決したゴルダでの事案にはいまだ未解決の部分があった。それはゴルダ卿への貢物として用意されていた白金の行方である。この白金はもとをただせばパトリックのいたブーツキャンプで盗掘された物なのだが、それが盗賊団にわたった後にゴルダにあるキャンベル卿の倉庫へと持ち込まれて隠匿されていた。



「我々は混乱に乗じてゴルダから白金を運び出し、そのあと北方のゲートを抜けて山脈に至り海路を目指した」


 鉄仮面は蛮族の住む山脈を通って海路に至り、そこからキャンベル海運の船で白金をトネリアに向けて搬出しようとしていた。


「その後だ、パストールに引き渡す前に白金の量を調べてみたが……ゴルダに運び込んだ時とトネリアに運び込んだ時の量があきらかに違っていてな……ズタ袋の中には石さえ入っていた」


鉄仮面が白金に関して言及するとキャンベルがせせら笑った。


「何のことかわからんな……」


 パストールが行方不明になっていることもありキャンベルには余裕がある、全てをパストールに擦り付けて逃げ切ろうとした。


だが、それに対して鉄仮面が冷や水を浴びせた。


「ゴルダの倉庫にいたお前の部下を尋問したが、白金についてしゃべったぞ。」


鉄仮面はそう言うと背中に下げていた麻袋をキャンベルに向かって投げた。


おもりが落ちたような音がした後、麻袋が絨毯に転がると袋の口からゴロリと何かが飛び出した。


それを見たキャンベルは思わず生唾を飲み込んだ……そこには明らかな恐怖がある……


「ゴルダの倉庫番だ――我々をたばかればそうなるぞ」


麻袋から出てきたのはキャンベルがゴルダの倉庫で白金の処理をさせていた管理人の生首であった。


「キャンベル卿よ、お前が白金を隠しているのはすでに分かっている……どうする?」


言われたキャンベルは呆然自失となった。


『……ばれている……』


キャンベルは額に指を当てて沈黙した。


『一難去ってまた一難……どうなっているんだ……』


 キャンベルが想定外の事態にたじろぐと鉄仮面がくぐもった声で続けた。その声は今ほどと打って変わり商談を持ちかける商人のような響きがある


「別にお前を取って食おうというわけではない……白金とお前の持つ商業上のネットワークを使いたいと言っているだけだ」


鉄仮面は有無を言わせぬ恐喝と同時にキャンベルの苦境を理解する声色を出した。


「お前の持つ、残りの白金を用いて一勝負すれば明るい未来が訪れる可能性もあるだろう」


ちびりあがっていたキャンベルは不審な眼を鉄仮面に向けた。


「どういう意味だ?」


尋ねられたキャンベルが鉄仮面に問うと鉄仮面は淡々と答えた。


「トネリアで金融の仕組みが改変され『株』と言われるものが売買されるようになった。そしてダリスでも近々『株の取引き』が解禁されると」


言われたキャンベルはジットリとした視線を投げかけた。


「株の取引で成功すれば、お前は返り咲けるのではないか?」


言われたキャンベルは生唾を飲み込んだ。


「このままではお前は男爵という下級貴族のまま人生を終えるはずだ、そうなれば世襲もできずにキャンベル家は途切れる。お前の子供は平民として生きていくことになる……だが商取引で成功して金を手に入れれば、付け届けや寺院への布施を通して爵位を買うことができる。」


鉄仮面がキャンベルの弱みを覆す論法を仄めかすとキャンベルが知恵を回した。


「お前の狙いは何だ?」


キャンベルは自分を恐喝してまで金融取引に参戦させようとする鉄仮面の意図によからぬ企みを感じた。


「お前と同じだ、金だよ。私の手元の駒は盗賊団だ。その程度の奴らではこの先が思いやられる……」


 鉄仮面はそう言うとキャンベルに向き直った。その背中には先ほどと同じく殺戮者としてのオーラが滲んでいる


「断ることができきんことはお前も重々わかっているだろう」


 盗掘した白金の事を知る鉄仮面の存在はキャンベルにとっても厄介である……鉄仮面の動き次第では司直の縄がキャンベルを絡め取る可能性さえある……それ以上にゴルダの倉庫番と同じ末路もたどる可能性もぬぐえない……


『とりあえず、この男と組むべきか……』


キャンベルは打算的になると素朴な疑問を呈した。


「株の取引は博打的なリスクがあるはずだ。仮に勝負したとしても勝てるとは限らんぞ!!」


キャンベルがまとも見解を述べると鉄仮面はそれに答えた。


「私には人脈がある……その人脈はトネリアにもダリスにも共通している」


鉄仮面はそう言うと人脈に関する具体的な情報に触れた。


「教会や寺院の中にはお布施という形で寄付を募るものが少なくない。そうしたものの中には金融関連の情報に智い者がいる。中には上場する組織と懇意にしている者もいる」


言われたキャンベルは即座に鉄仮面の言葉の意味を理解した。


『出来レースか……それなら……いけるな。盗掘した白金を元手にして金融取引か……悪くないかもしれん』


キャンベルは開き直ると鉄仮面に嗤いかけた。


「いいだろう、その勝負のろうじゃないか!!」




キャンベル卿の前に現れたのはゴルダ編で登場した鉄仮面でした。そしてキャンベルはこの男と組んで金融取引に参画することを決めます。はたして彼らはこの後、どんな動きを見せるのでしょうか?


(次回から第一話が普通に始まります。いつものメンツ、ベアー、ルナ、ロバが登場します。うp予定は週2,3回といった感じになると思います。よろしくお願いします!)

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