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第七話

「どうしようか、これから…」


5000ギルダーは大金である、わざわざ小切手にして安全面を担保したのにこのざまだ……ベアーは完璧にやる気をなくしていた。


「腹も減るしな……」


ベアーが腹の虫を泣かせるとロバが顎をしゃくった。


「何だよ、ご主人様が困ってるんだぞ!」


そう言った時であった。手に紙袋を抱え、制服を着た男が走ってきた。


「君、ここにいたのか!」


やってきたのは若禿の治安維持官であった。


「文無しじゃ、泊まるところもないだろう。ここに行くといい。2,3日なら泊めてくれる。」


そう言うと一枚の紙を渡した。


「ここは犯罪被害者を助けてくれるシェルターなんだ。この書類を持っていけば相談にものってもらえる。」


治安維持官はベアーに書類を渡した。


「港町は人の出入りもあるから色々トラブルが起こりやすいんだ。今回のことは残念だけど……」


治安維持官はベアーにパンの入った袋を渡した。


「ここのバゲット美味いんだ。これ喰って元気出せよ!」


そう言うと若禿の治安維持官は小走りに派出所に戻っていった。


『あの若禿、いい人だな…』


ベアーは立ち上がると気合を入れ直した。


「よし、パン喰ったら、シェルターに行こう。」


                                *


 シェルターは港町の住宅街に位置していた。どちらかというと貧しい人の多い地域で治安も良さそうではない。


『金もってねぇから、襲われても平気だしな』


ベアーは一文無しになったため妙な自信を胸に貧民街を練り歩いた。


 小一時間、歩いただろうか、ベアーは古い石造りの建物についた。二階建てになっていて一階に明かりが灯っていた。木の看板には何とか読める文字で『シェルター』と掘られている。


『これか……』


余り見た目はよくない。旧いだけでなく、ところどころ朽ちている部分もあった。エントランス部分は特にひどかった。


『行ってみるか……』


ベアーは期待せずに受付に向かった。


                                *


受付では中年の女が新聞を読んでいた。


「御用ですか?」


メガネをかけた女はねめつけるようにしてベアーを見た。ベアーは一瞬たじろいだが治安維持官の渡してくれた書類を提示した。


「被害者の方ですか、まあ5000ギルダーもやられたの!!」


ベアーの素状がわかったことで女の顔つきがかわった。


「ごめんなさいね、このシェルターには変な人間も来るから、こちらへどうぞ」


女はそう言うと2段ベッドのある部屋に案内した。


「このベッドを使ってください。風呂は離れにありますので。それから食事は朝8時と夕方6時の二回です。今日はもう遅いのでお休みください。」


そう言うと女は出ていった。余りに事務的な会話にベアーは多少たじろいだが無料で泊めてもらえるのでそれでも十分だと思うことにした。

 

 ベアーの案内された部屋は2段ベッドが3セット置かれている中部屋だった。あまり清潔ではないが寝るのには困らないであろう。


『どうしようかな、これから、やっぱり職探しだな……しかしマント……見つからないだろうな……』


5000ギルダーという大金を無くしたこともショックだが家宝のマントを無くしたことは取り返しがつかない。


『じいちゃん、怒るだろうな……でもどうにもなんないしな…』


ベアーはどちらかというと執着心が薄い方である。『無理なものは無理』とおもうと意外に諦めが速い。


『もう取り返しもつかないしな、とりあえず寝よ!』

アーはそうひとりごちるとベッドの中にもぐりこんだ


                                *


翌朝を起きると昨日の中年の女が部屋に入ってきた。


「食事です。奥にある部屋に来てください。」


あいかわらずの事務的な物言いにベアーは若干不愉快になったが腹も減ってきているので言う通りにした。


 ベアーが顔を洗った後、奥の部屋に入るとと10人くらいの子供たちがいた。肌の色の異なる子もいれば、亜人の子もいた。皆腹を空かせているのだろう、一同テーブルの上にある胚芽パンと鍋に入ったスープを眺めていた。


「では食事にしましょう」


そうメガネの女が言うと食事が始まった。


 子供たちはものも言わずにがっついて食べた。取り合いにこそならないが互いにけん制しあっている。血走った子供たちの目は尋常ではなかった。ベアーはその様子に圧倒され自分が食べるのを忘れるくらいであった。


『足りないんじゃないの、この量じゃ…』


ベアーの目には食事の量が少なくうつった。スープの具も少なく栄養価的にも微妙だ。


そんな時である、メガネ女がベアーに声をかけた。


「犯罪被害者の方はおかわりご自由ですから、好きなだけどうぞ」


そうは言われたもののひもじそうな子供たちを見ているおかわりするのは気が引けた。


「あっ、大丈夫です。もう充分です」


本当は空腹なのだが自分だけ食べるのも気分が悪いのでベアーは断った。


 ベアーはテーブルについた子供たちを見回したが育ちざかりの子供たちがおかわりさせてもらえないのはかわいそうに映った。


そんな時である、メガネ女は鍋のふたをわざと音を立てて閉めた。そして怒鳴るようにして大声を出した。


「さあ、学校に行きなさい!!!」


子供たちは恨めしそうな眼をしてすごすごと退散した。ひもじさがベアーに伝わってくる、正直いい気分ではない。


 メガネ女はそれを察したのだろう、空気を換えるためにわざと愛想のいい声でベアーに話しかけた。


「すいませんね、ここは孤児院も兼ねているんですよ。お客様にろくな挨拶もできませんで」


「いえ、大丈夫です。でも……子供たちの御飯が足りなかったような…」


ベアーが言うや否やメガネ女は顔色をかえてベアーをジロリと睨んだ。シェルターのやり方に口出しするなという雰囲気が体全体から出ている。


「シェルターの予算は少ないんです、これでも十分の食事を与えています。」


その後、メガネ女は間髪入れず話題を変えた。


「役所に行って相談すれば犯罪被害者ということで優先して職の斡旋が受けられます。職が決まるまでの一週間はベッドと厩が使えます。では、私はこれで」


そう言うと女はさっさとテーブルを離れた。


『嫌な感じだな、あのおばさん……』


ベアーは泊めてもらった手前、悪く言うのもマズイと思いそそくさとシェルターを出て役所に向かった。



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