表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/589

第二十五話

62

治安維持官達が押し寄せるようにして応接間に入ってくると検察官がすぐさま状況を問いただした。


「レオナルド様、これは一体、どうなっているのでしょうか?」


まるで三文芝居の役者のような口調で検察官が尋ねると女貴族がそれに答えた。


「不逞の輩が邸内に侵入したのですが、どうやらその輩とそこにいるポルカの男爵がグルだったようなのです」


女貴族が思わせぶりに言うと検察官の男はロイドをジロリと見た。


「男爵ふぜいが伯爵家で粗相をするとはどういうことだ、おまけにお前の使用人は不法侵入というではないか!」


サングースの検察官はそう言うと居丈高な態度をとった。


だが、それに対してロイドが辛辣な一言を浴びせた。


「どうやら、お前もレオナルド家から袖の下を貰っているようだな」


図星をつかれた検察官は一瞬閉口したが、そのあと居直る態度を見せた。


「不法侵入の現行犯をかばいだてすれば、たとえ貴族といえども許さんぞ!!」


検察官がそう言うとなだれ込んできた治安維持官達がロイドたちを包囲した。


「抵抗すればどうなるかわかるな?」


陰険な表情で検察官がロイドたちを睨むと女貴族が実に愉快そうに手を叩いて嗤った。


再び、状況はベアーたちにとって不利な方へと傾いた。



63

一方、その頃――


カルロスにより救出されたマクレーンとジュリアはルナ、ザック、ロバの助けにより秘密の入り口(庭内に潜入するとときに使った大樹の根元)付近にその身を忍ばせていた。


だが安心したのも束の間――その耳に入ったのは武装した治安維持官達の突入してくる駆け足の音であった


「――どうなってんの??」


ルナがそう言うとマクレーンが渋い表情を見せた。


「あいつら、保険をかけてたんだ」


マクレーンはそう言うと推論を展開した。


「捜査官だけじゃなくて訴追するための法律官も抱き込んでいたんだよ――なんてこった……」


邸内に突入していく治安維持官を指揮する文官を見たマクレーンはそう言うと歯がゆそうな表情を見せた。


「このままならこっちの負けだ……不法侵入とおとり捜査の失敗を理由に糾弾してくるはずだ、口裏を合わせられれば裁判では勝てないぞ……」


マクレーンは絶望感に打ちひしがれたが、急に達観した表情を見せるとその眼を大きく見開いた。


「どうせ負けるんだったら、セバスチャンとクララの仇をとってやる!!」


半ば破れかぶれになったマクレーンがそう言うとルナが止めに入った。


「あんた、何言ってんの、無理に決まってんでしょ!」


ルナが正論を述べるとマクレーンはそれを無視した。


「セバスチャンとクララは俺が小さい頃から面倒を見てくれた。俺が芸人になって食えない時は、仕送りまでしてくれて……苦しい時に情けをかけてくれたんだ。」


マクレーンはそう言うと館に向けて走り出した。


その背中を見たルナとロバは唖然とした。


「……あの馬鹿……」


猪突猛進に突っ走るマクレーンの姿は勇猛果敢に見える。だがセンスのない芸人に武闘派のオーラはない……


「絶対、返り討ちジャン……」


ルナが断言するとロバもため息をついた。


                                   *


そんな時である、ルナの足元に石つぶてが落ちてきた。


ルナは怪訝な表情を浮かべたが、間をおかずして二つ目の石つぶてが飛んできた。二つ目の石つぶては外側を瓦版で使われる半紙で覆われている……


不審に思ったルナはくるまった半紙を開いて中を見た。



『広域捜査官の連隊が近隣にて待機、しかしながらきっかけがないため突入ができない模様。


内側で何らかの行動を起こしてほしい。


ウィルソンより』


石つぶてを投げてよこしたのはウィルソンであった――だがその文面から推し量るに広域捜査官は動けないらしい。


ルナはひとりごちた、


「貴族の敷地だから、自由に捜査できないんだ……目の前にとんでもない奴らがいるのに……くそっ、腹たつな!!」


ルナがDQN顔負けの表情を見せるとロバが何やら意味深な表情を浮かべた。


「何よ!!」


ルナがそう言うとロバがロッジの方に顎をやった。


「あっちに行ったって意味ないでしょ!!」


ルナがそう言うとロバが前足を使って『そうじゃない』と示した。


「じゃあ、何よ!!」


ルナが怒鳴るように言うとロバはあるものを蹄で示した。それは秘密の入り口から忍び込むと気に使ったものである。


「カンテラ?」


ロバはフムと頷くとその顎をロッジに向けた。そして含みのある表情を見せた。


ルナはその顔を見るとピンときた


『なるほど……そういうこと』


ルナは良からぬ企みを理解すると58歳の魔女の表情を浮かべた。


「反撃開始よ!!」


ルナがそう言うとザックが何のことかわからず首をかしげた。



64

さて、館の応接間では――


ベアー、ロイド、スターリング、カルロスはおいつめられていた。


 法律官によってベアーの不法侵入と、スターリングたちのおとり捜査が糾弾されたのだ。不法に貴族の邸内に入ったことはいかんともしがたい事実だと突きつけられたのである。


 ダリスの法律において、おとり捜査は貴族の関わる案件には許されていない。すなわちスターリングたちの行動そのものが不法になっているのである……


「お前たちはただでは済まさん、この狼藉に対する責任をとってもらうぞ!」


女貴族が実に楽しげな声でそう言うとサングースの治安維持官達が腰のショートソードに手をかけた。


「お館様、無礼討ちと言うことで処理すれば問題ありません。」


検察官がそう言うと女貴族は上唇を赤い舌でなめた。


「いい考えだな」


 既にレオナルド家とサングースの治安維持官達は倫理と道徳を失っているようでベアーたちの生命を断つことに心血を注いでいる……


それに対してスターリングが声を上げた、


「7人を殺して貴族の身分になり上がった化物に、お前たちは味方するのか!!」


鬼気迫る表情でスターリングがそう言うとその場にいた治安維持官達は何食わぬ顔を見せた。そこには『聞く耳持たぬ』という意志がありありと宿っている。


「お前達も井戸にある白骨死体を見ただろ!!」


カルロスが確証に関して触れたが、検察官はそれを鼻で笑った。


「なんのことかわからんな、どうせお前たちのでっち上げだろ!」


その表情は実に不遜である、すでにレオナルドに取り込まれていることは明白であった。


ベアーはカルロスたちのやり取りを見てサングースの治安維持官も法律官も一線を越えるどころか地に落ちていることを知らしめられた。


『こいつら、腐りきってる……』


ポルカで汚職の連鎖を経験したベアーであったがサングースの事態はそれをはるかに超えていた。


                                  *


そんな時である、応接間に一人の男が飛び込んできた。


「よくも、セバスチャンとクララを!!」


そう言って女貴族の前に躍り出たのはマクレーンであった。


「恥を知れ!!」


マクレーンはそう言うと女貴族に一撃かまそうと鉄拳を振り上げた。


 だが、それよりも早く執事が足を延ばした。不意打ちをくらわそうと思ったマクレーンは執事の足に突っかかると無様にスッころんだ。


ベアーは思った、


『一番大事なところでしくじった……』


マクレーンは一矢報いるどことか転倒して肩をぶつけるとその肩を脱臼していた。


『うわ~……この芸人……どうにもならん……』


ベアーがそうおもってその顔をひきつらせた時である、予想外の事態がにわかに生じた。


                                    *


「何だ、この煙は……」


窓の近くにいた治安維持官が叫ぶと窓から黒煙が入ってきた。想定外の状況にその場の全員がたじろぐ。


黒煙は窓からうねるようにして応接間に入り込むと部屋自体を飲み込んでいく。


治安維持官の1人が声を張り上げた


「火事だ、外で火事だぞ!!」


状況を鑑みた治安維持官が叫ぶとその場にいた人間は血相を変えて外に向かおうとした。そして全員が応接間から出るとその最後尾にいた執事がベアーたちを見てニヤリと笑った。


「このドアは外からカギがかけられるんだ」


執事はそう言うとと応接間のドアを閉めて素早く鍵をかけた。


ベアー達は部屋に取り残される形となったのだ。


だが、無情にも黒煙は先ほどよりも勢いを増して部屋の中に入ってくる……


『このままだと逃げ切れない、煙を吸えば……窒息する……』


ベアーがそう思った時である、一つの考えが閃いた。


『あそこだ!!』


そう思ったベアーはその場にいた全員にアイコンタクトした。



65

さて、その頃、外では……


「いい感じで燃えてるわね」


燃え上がるロッジを背景にしてルナが鼻をほじってそう言うとロバもそれに同意する表情を見せた。


「煙の角度、完璧よね」


ルナがそう言うとロバが大きく頷いた。その表情には三角関数の難題を解き明かした数学者のような風情がある。


「風の計算が想像以上に上手くいったわ――まあちょっと燃えすぎたけどね」


ルナが舌を出して『テヘペロ』の仕草を見せると目当ての存在が正門から突入してきた。


「広域捜査官の連隊だ!」


ザックが興奮した口調でそう言うとルナが胸を張って答えた。


「火事になれば、消火活動を名目に貴族の敷地にも入ってこれるでしょ!」


58歳の魔女は『とりあえず事故に見せかけて火をつけりゃ、その後、何とかなるんじゃねぇ大作戦』を貫徹すると応接間を煙で充満させて、さらには広域捜査官を合法的に庭内に招き入れることに成功していた。


「でも、この後どうなるのかしら……」


右往左往しながら煤だらけになった治安維持官と女貴族が避難してくる。だがベアーたちの姿はそこにない。


「……ベアー達が逃げてこない……」


ルナはそう思うと急に不安になった。


「ひょっとして、煙に巻かれて……窒息的な……」


ルナはその表情を豹変させた。


「マズイんじゃない……これ」


 ルナがそう思って館に駆け寄ろうとするとロバがその行く手を塞いだ。その表情には妙に自信がある、ベアーたちが生きていることを確信しているようだ。


「……わかったわ……」


ルナはそう言うとザックとともに状況を判断するべくその身を隠すことにした。




追い詰められたベアーたちですがルナの策によりとりあえず生き延びることに成功します。


ですが煙にまかれて新たなピンチに陥ります。さて、この先どうなるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ