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第十三話

27

話はベアー達に移るが――彼らの身には思わぬ事態が生じていた。


なんとレオナルド家に向かったジュリアが帰ってこないのである。ジュリアが再交渉をするために出かけてからすでに6時間――レオナルド家に向かったジュリアは戻るどころかその行方をくらませていた。


「どうしたんだろ……」


ジュリアが戻ってこないため、宿で待っていたベアーはさすがに心配になった。すでに夕方近くになり日が落ち始めている……


『レオナルド家は宿から歩いて30分もかからない……5時間以上も経過してるのに戻ってこないなんて……』


ベアーがそう思うとルナが声を上げた。


「探しにこうよ、いくらなんでも遅すぎるよ!」


ルナがそう言うとベアーは頷いた。


こうして二人はジュリアの辿ったであろう道を探索することにした。


                                   *


だが、結果は芳しくない……


「いないね……」


 谷に落ちたような形跡はないし、ジュリアが事故にあったという知らせもない……だがレオナルド家に行きついた形跡もない……。


 道行く人にジュリアのことを聞いたが皆かぶりを振るだけで行方を知るような手掛かりも得られなかった。


「途中で強盗とかに襲われたのかな?」


言われたベアーは何とも言えない表情を見せた。


「……そうかもしれないけど……この辺りはそれほど治安が悪いところには思えないし……」


ベアーは色々と可能性を考えてみたが今一つ考えが浮かばない……


「まさか拉致されたんじゃ?」


ルナがそう言うとベアーが首をかしげた。


「誰に?」


言われたルナも首をかしげた。


「いや……わかんないけど……」


それを見たベアーは地元の治安維持官に相談する選択をおもいついた。


「とりあえず、暗くなる前に相談しておこう」


 行方不明者の捜索はどの地域でもなおざりにされるため、期待はもてなかったが手続きに関しては進めておこうとベアーは思った。


                                 *


 捜索願を出した後、ベアーとルナはこれからの対策を練るために情報を集めることにした。下手に動いてもジュリア失踪の手掛かりが見つかると思えなかったからである。


「あそこなら人が多く集まるし、夜はPUBにもなるし、いいんじゃない?」


 地元の人間が多くいる場所を考えてみたがザックのいるブッチャーに併設された食堂ダイナーがいいとルナは提案した。夕方になると地元客が麦芽酒を飲みながらソーセージを食すためである。


「あそこのおかみさんは地元の事には鼻が利きそうだから、何かわかるかも。それに執事の事もきっと知ってるわよ!」


ルナが魔女の嗅覚を利かせるとベアーも同じ判断をした。


「あそこでは何度か食べてるから、何か情報が得られるかもしれない。早速、今から行こう!!」


 既に辺りには夜の帳が下りはじめ、ランタン灯が至る所で点火していた。二人はメインストリートから奥まったところにあるブッチャーへと足早に向かった。



28

ルナとベアーが店に入ると店のおかみ(ザックをいつも殴っている親方の奥さん)が二人をテーブル席に案内した。


「あら、お嬢ちゃん、この前とは違う男だね。もうチェンジしたの?」


おかみはルナの事を目ざとく観察しているようでベアーを見るとニヤニヤした。


それに対してルナは心得た反応を見せた。


「はい、乗り換えました。売れない芸人から貿易商の見習いに!」


ルナがハキハキ言うとおかみはクスッと笑った。


「あんたは面白いお客だね」


おかみはルナの事が気に入ったようでその表情は砕けている。


「注文はどうするんだい?」


言われたルナは『スペアリブとポトフ』と即答した。


「あら、うちで一番高いやつじゃないか」


おかみがそう言うとルナが応えた。その表情は思わせぶりである。


「実はちょっと聞きたいこともあるんです」


ルナが含みのある言い方を見せるとおかみは『OK』と指で合図した。


                                 *


 スペアリブが運ばれてくるまでの間、ベアーとルナはいなくなったジュリアとレオナルド家およびの執事について尋ねた。


「あんたたちが探してる、女性はちょっとわからないね……いなくなった話はここでは初めてだよ……」


申し訳なさそうに女将おかみは言うと今度は話題を地元貴族に変えた。


「レオナルド家ね……実は、昔と違ってあまり関係がないんだよね。以前の領主様は街に来て酒を飲んだり、うちに来てソーセージを食べたり、気さくな方だったんだけど……今の領主は……」


おかみがそう言うと二人は興味津々の顔を見せた。


「今の領主って誰ですか?」


「前の領主の奥さんだよ……それも後妻……」


「後妻って……前の領主様にお子さんはいなかったんですか?」


ベアーがそう言うとおかみが応えた。


「いたんだけど……いなくなったのよね。前の領主様が厳しい人でね……息子さんにはきつくあたっていたから――嫌になったんだじゃないかね。もう10年も前の話だけど……ひょっとしたらもう死んでるかも……」


 そう言うとおかみは『これ以上話すのは勘弁して欲しい』と言う表情を見せた。そこには余計なことを話すと『何が起こるかわからない』という恐怖感が滲んでいる。


それを感じた二人は切り口を変えて質問した。


「あそこの執事の事は何か知りませんか?」


ベアーが尋ねるとおかみは淡々と答えた。


「実は全然知らないんだよね……先代の領主が亡くなってから……執事夫婦も全然顔を見せなくなったから……ここ5年ほどは見てないわね……」


「接触がないってことですか?」


「そうよ、後妻が領主になってからお屋敷の仕組みも変わったんでしょう……下々の人間とはつきあわない……そう言うスタイルになったみたい。以前に勤めていた使用人もみんなクビになったみたいだし」


言われたベアーとルナは顔を見合わせた。


「あの、執事の夫婦はどこに住んでるんですか?」


「邸内よ、『離れ』があるはず……だけどほんとに住んでるのかは分かんないけどね……月に2回、うちのベーコンを納めに館まで行くんだけど、その時も指定の場所にベーコンを置くだけで顔は合わせないのよね……」


おかみがそう言うとスペアリブがやって来た。おかみはそれを見届けると二人のテーブルから離れた。


                                 *


2人はスペアリブを口にするとおかみの情報をまとめた。


「どうやら、今の領主は後妻で……ほとんど誰とも顔を合わせない……執事に至っては5年ほど顔を見ていない……」


肉汁滴るスペアリブを頬張るとルナが口を動かしながら答えた。


「おまけに前の領主の子供は失踪……なんかおかしいわよね……」


言われたベアーは首をかしげた。


「ジュリアさんは一体……たしか執事の奥さんとジュリアさんの叔母さんが仲がいいって……」


2人は顔を見合わせた。


「やっぱり執事の所に行ってるんだよ……それしかないよ」


言われたベアーは小さく頷いた。


「明日の朝一に館に行ってみよう。それで向こうの出方を見てみよう」


ベアーはそう言うと先ほどのやり取りで気になったことをルナに尋ねた。


「ところでさあ、さっき女将さんが『男』が変わったって……何の事?」


ベアーが尋ねるとルナがその表情を変えた。


「気になる?」


ルナが鼻の穴を広げてそう言うとベアーは『別に……』という表情を見せた。


「ほんとは気になるんでしょ?」


尋ねられたベアーが『そうでもない』と答えるとルナは不満そうな表情を見せた。


『……何故、こいつは気にならんのだ……』


ベアーが余裕綽々とした態度を見せるとルナは仏頂面を見せた。


『グヌヌヌ……』


ルナはカチンときたがここで余計な言動を見せても大人げないと思い、素直に昨日のやり取りを述べた。


                                 *


ルナからマクレーンとのやり取りを聞いたベアーは微妙な表情を浮かべた。


「ルナ、売れない芸人なんかに情けをかける必要はないよ。もう大人なんだから自分のことは自分でできるはずだし……」


ベアーが正論を言うとルナがそれに反応した。


「でも、危ないところを助けてもらったんだから、ご飯くらいはおごってもいいんじゃない?」


 ルナが鼻をツンとさせてそう言うとベアーは若干ながら不愉快そうな表情を浮かべた。そこにはルナを配慮する様子が窺える……


ルナは思った、


『これ、ひょっとして……嫉妬じゃねぇ……』


そう判断したルナはなんとなくだがうれしくなった。


それに対してベアーがすかさず突っ込んだ。


「何で、ニヤニヤしてんの。ひょっとしたらマクレーンっていう芸人はロリコンかもしれないし、場合によっては『流しの窃盗犯』かもしれないんだし……気を付けないと!!!」


ベアーがルナを心配する態度を見せるとルナはさらにうれしくなった。


「キャピ!」


妙な擬音語を口から出すとルナは満面の笑みを見せた。理由ががわからないベアーは首をかしげてその姿を眺める他なかった。




物語は中盤に入りました。


失踪したジュリアは一体、どこに行ったのでしょうか……

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