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第十八話

46

ベアーがアルと亜人の青年の行方を追うと二人は15分ほど歩いて裏路地の一画にある人目のつかない空間で止まった。そして彼らはその軒先で何やら小声で語りだした……


『よく、聞こえない……』


会話の内容は聞こえないがアルの真摯な表情は異様に思える。


『何か、マズイことでもあるんじゃないのか……』


ベアーはアルの猪突猛進な性格を思いだし、良からぬ展開があるのではないかと予期した。


『もう少し近づければな……』


ベアーはそう思い、なんとか接近しようとすると試みた。


そんな時である、突然、アルが声を上げた。


「自由の鷹、万歳!」


さほど大きな声ではなかったがベアーの耳にはその単語がはっきりと聞こえた。


『自由の鷹……そう言えば、前にアルが言ってたな、解放者とか……』


ベアーの中で不穏な思いが浮かび上がってきた。


                               *


 そんな時である、アルと話していた亜人の青年の後ろから妙にこさっぱりとした青年が現れた。いかにもインテリといった感じで、一人だけ異なる雰囲気を醸している。インテリの青年はアルの肩をポンとたたいてねぎらう表情を見せた。


『だれだ……あの……男……』


ベアーは思った。


『ひょっとして、あれが、自由の鷹の……リーダー』


ベアーがそう思った時である、予期せぬ事態が展開した。なんと後ろから突然、口をふさがれたのである。



47

ベアーが抵抗しようとすると耳元から妙にいい匂いがした。


「何だ、この匂い……」


 それは明らかに女性の香りで労働者の多いゴルダでは考えられないものであった。ベアーはその匂いにつられ抵抗することなく引きずられた……


そして――


ベアーの眼に髪を黒くショートにまとめた美形の女性が飛び込んできた


「あなたは……」


ベアーが恐る恐るそう言うと黒髪の女は平然とした表情を浮かべた。


「誰だかわからない?」


ベアーはその声を聞いて首をかしげたが、その耳を見てやっとのことで気付いた。


「あっ、スターリン……」


ベアーがその名を呼ぼうとすると再び口を押えられた。


「その名は呼ばないで!」


強い口調で言われたベアーはスターリングが捜査中だと察した。


「あなた、こんな所で何やってるの?」


スターリングに尋ねられたベアーはアルを追いかけてきたことを述べた。


「ところで、スターリングさんは何でここに?」


スターリングは詳しいことは話せないとジェスチャーで示した。そしてその後、小声でささやいた。


「君の友達も自由の鷹とかかわりがあるみたいね……」


スターリングがそう言うとベアーはアルの話したゴルダ卿の横暴について触れた。


「ゴルダ卿は都の執政官に賄賂をわたして籠絡し、ゴルダを思うがままにコントロールしているようです。気にわない連中は私兵をつかって排除し、そしてそれを告発しようとした会計士は……」


ベアーが『殺された』という表情を見せるとスターリングは『さもありなん』と頷いた。


「アルは自由の鷹が解放者だって言ってました。だけど……」


ベアーが続けようとするとスターリングはフッと息を吐いた。


「あまり首を突っ込まないほうがいい、たとえ友達でもね……」


スターリングはベアーの知り得た情報を分析すると『関わるな』と暗に諭した。


「ベアー君、私、捜査の途中だから」


スターリングはそう言うとその眼を再びユルゲンスとアルに向けた。


「私のことは絶対に秘密よ、何があっても口外しないで!」


スターリングはベアーに釘を刺すとつむじ風のようにしその場から消えた。


『何かがゴルダで起こっているんだ……きっと……』


ベアーは風のように去るスターリングの背中を見てどことなく不安なものを感じた。



48

ベアーと別れたスターリングは自由の鷹のリーダー、ユルゲンスの後を追った。


『スポンサーが誰か突き止めないと……』


ユルゲンスのスポンサーに不信を感じたスターリングはその行先に強い興味を持っていた。


『ゴルダの商工業者はそのすべてがゴルダ卿の『息』がかかっているはず、ゴルダ卿に反発するような政治結社に力を貸すことはありえないし、まして寄付なんて……何か特別な理由があるはず……』


 スターリングは白金に関する情報が微塵も得られないため、手掛かりになれば何でもいいと考えていた。それが微かなものだとしても……


『さあ、ユルゲンス……私を手がかりに導いて……』


 捜査官としての勘、女としての勘、そして彼女の持つ第六感はユルゲンスの金主スポンサーに何かあると告げていた。


                             *


 ユルゲンスは亜人の同志とアルと別れた跡、街の中を脈絡なくぶらついていた。そこには自分の行動を把握されないようにする配慮が見えすいている。


『所詮、素人ね』


 尾行されないようにしているつもりなのだろうが、ユルゲンスの行動はプロの捜査官から見ればわざとらしいものに映っていた。


『……さぁ、目的の場所に……』


 スターリングに尾行されていることを知らないユルゲンスはそれなりに気を遣いながら街中をぶらつくとその足を倉庫街に向けた。


 そして、キョロキョロ周りを見回すとその一画にある倉庫へとその身を忍ばせた。スターリングは後を追うとその倉庫の裏口にある所有者の名を記した看板に目をやった。


『キャンベル海運……』


スターリングは想定外の名前に驚きを見せた。


『どうして名門貴族が……』


それと同時にケセラセラ号に乗船したベアーとルナが被害にあった海賊の事件を思い起こした。


『そういえば、海賊がシージャックした船の積み荷はキャンベル海運が横流ししているはず……』


 スターリングは広域捜査官として得た情報と現在、眼の前にある倉庫の持ち主に妙な共通項を見い出した。


『だけどユルゲンスがなぜキャンベル海運の倉庫に……』


スターリングの中で強い興味が沸いた。


『これは潜らなきゃ、損ね!』


スターリングはゴルダを舞台にしたキャンベル海運の動きに悪の胎動を感じた。




49

「わざわざ、来てもらってすまないね」


妙にくぐもった声がユルゲンスにかけられた。


それに対しユルゲンスは恭しく挨拶した。


「私はキャンベル海運のゴルダの責任者だ。君たちの政治結社『自由の鷹』の活動に興味を持っている。わけあって顔を見せることができないことは申し訳ないと思う。」


鉄仮面をかぶった鎧男がそう言うとユルゲンスが答えた。


「有力貴族の関係者が我々の活動に興味を持っていることは我々にとっても心強いことです。」


ユルゲンスがそう言うと鉄仮面は淡々とした口調で述べた。


「実はゴルダ卿の横暴には我々も手をこまねいていてね……都からの執政官が汚職で役に立たぬため正当な主張をしてもゴルダでは通じないんだ。常に賄賂を要求されこちらも困っている……」


鉄仮面そう言うとユルゲンスに近づいた。


「だが我々はゴルダの内情には疎い……ましてゴルダ卿を告発する不正の証拠を手に入れることは不可能だ。それゆえ君たちゴルダの住民がゴルダ卿の横暴を知らしめる証拠をみつけてくれると大変ありがたい。」


鉄仮面はそう言うとユルゲンスに小袋を渡した。


「この金でゴルダ卿の汚職の証拠を見つけてほしい」


鉄仮面が力強くそう言うとユルゲンスはそれを受け取った。


「ゴルダ卿の横暴を証明する証がみつかれば、都で告発することができる。そうすればキャンベル海運にも自由の鷹にも利益になる!」


鉄仮面の雄々しい言葉にユルゲンスは顔をほころばせた。


「あなた方の支援があればゴルダ卿に一太刀浴びせることも可能です。この金でゴルダ卿の不正蓄財の証拠を暴いて見せます。」


ユルゲンスが答えると鉄仮面は深く頷いた。


「その金で仲間を集めるといい、そうすればゴルダ卿の隠している不当な財産を見つけやすいはずだ。」


鉄仮面はそう言うとユルゲンスの肩をポンポンと二回たたいた。


「明々後日、もう一度、仲間をつれてきたまえ。仲間の数に応じて寄付金を渡そう」


鉄仮面はそう言うとユルゲンスを倉庫の入り口まで導いた。


                             *


 スターリングは会話の一部始終をその耳にしたが、キャンベル海運と自由の鷹に金銭的なつながりあることを確信した


『あの鉄仮面はキャンベル海運とつながっているのね……ユルゲンスを援助してゴルダ卿の不正蓄財の証拠を探らせるわけか……表に出ずに他人にやらせる、賢い方法ね』


スターリングは身をひそめた状態で思案した。


『さて、この後どちらを追うか……』


 スターリングの中でキャンベル海運とつながりのある鉄仮面を追うか、ユルゲンスを追うかという問題が持ち上がった。


『白金に近いのは……』


 スターリングが倉庫の二階でどちらにするか迷っていると、その視野に鉄仮面に近づく一人の男が映った。その男は小股でサクサクと歩くと左手に持っていたキセルをふかした。


『……あれは……』


 スターリングの中で前科者を記した広域捜査官の資料が浮かぶ――そしてその中にあった一枚の似顔絵がその脳裏にくっきりと具体化された。


『間違いない、アイツだ!!』


 上等な服装、立派に蓄えられた口髭、そしてその身のこなし、一見すれば裕福な商人をおもわせる。だがスターリングの眼にはそうは映らなかった。


『リチャード……』


広域捜査官が追い求めている白金窃盗団の頭目がスターリングの視野にとらえられていたのである。



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