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第十七話

43

ベアーは民泊している宿に戻るとルナをでっぷりした女亜人に紹介した。女主人は『ベアーの妹』という『設定』を信じたようで特に料金も取らずにルナを家に招き入れた。


「お金取らないなんて、いい人だね、あの人!」


ルナがそう言うとベアーは頷いた。


「がめついと思ってたんだけど、意外といいとこともあるみたい」


ベアーは小さく驚いたがルナの宿賃が節約できたことにホッと一息ついた。


                             *


その後、2人は部屋に入ると再びソフィア(パトリックの母)の話題で頭を痛めた。


「ソフィアさんのこと、どうにかならないかな……」


ベアーはそう言うとルナが淡々と答えた。


「女ひとりで生きていくのは大変だし……アッチ系の仕事に行くってはあり得るわよね……それにソフィアさんってさ、ぶっちゃけ、超美人じゃん……だから……向こうの方から声かけてくるでしょ」


 ロイドは別としてパトリックもソフィアもその容姿は『超』が付くほどの美男美女である。特にソフィアは30代後半にも関わらずその美しさに翳りはない。ルナはその点を指摘した。


「でもさあ、あんたの話だとさ、ソフィアさんはゴルダ卿の愛人にはなってないんでしょ。それに店でのポジションも悪くないんだから、『客』を取るようなこともしてないんじゃないの」


ルナの指摘はその通りでゴルダ卿とソフィアの会話を思い起こしたベアーは頷いた。


「でも状況的には追い込まれてる、売り上げが悪いからその責任をとれって……」


ベアーがそう言うとルナは如何ともしがたい表情を浮かべた。


「それはマズイわね……」


2人はしばし沈黙した。その沈黙にはソフィアがさらに澱んだ深みにはまっていく未来を肯定している……


「でも、助けられるとは限らないわよ。よれてる人間ってさぁ、こっちが助け舟を出したもその船に乗るとは限らないし……それにまともな仕事につかなかったのは本人の責任なんだしさ、下手に深入りしてもいい結果が出るとは限らないわ」


ルナが至極まっとうな意見を述べるとベアーは大きく息を吐いた。


「でも世話になってる人の娘さんだよ、それに友達のお母さんでもある……」


ベアーがそう言うとルナは渋い表情を見せた。


「あの手の仕事に就く人はまともじゃないの、それにポルカでもカジノでトラブってるし……」


ルナが発言するとベアーの脳裏に祖父の言葉がよぎった。


『澱みからは抜けられない、自らその澱みにその身を横たえる者もいる……』


ベアーはその言葉を思い出すとその身をベットに投げ出した。


「もういい、今日は、寝る!!」


ベアーはどうにもならない現実に蓋をするようにして眠りにつくことにした。


                                *


 翌日の朝はすこぶる天気も良く、実に爽快な朝であった。だが時計の針は午前10時を回っていた


『ヤバイな……パーラーで金払ったからな……ほとんど残ってない……帰りの馬車代しかない……』


 キノコ狩りで飯代を浮かそうと考えていたベアーであったが昨晩の『パーラー未遂事件』の疲労で早朝に起床できず、飯にありつけない状態に陥っていた。


『弱ったな……』


 ベアーが困った顔を見せるといつのまにかベッドの隣で寝ていたルナが目を覚ました。そしてルナは飛び起きるとベアーをチラリと見た。その眼は妙にじっとりとしていて口元は緩んでいる……


「どうだった、新婚初夜は?」


ルナがニヤニヤしながらそう言うとベアーは即答した、


「何にもしてないでしょ!」


「あら、あんなに激しかったのに~」


ルナが根も葉もないことを言うとベアーが何食わぬ顔で切り返した。


貧乳ひんぬーには興味ありません!」


ベアーが新婚プレイをさらりと受け流すとルナは『チッ』と舌打ちした。


                                *


この後、ルナは新婚コントを続けようとしたがベアーのノリの悪さに怪訝な表情を浮かべた。


「あんた、なんか浮かない顔してるわよね、どうしたの?」


ルナがベアーの様子を見てそう言うとベアーが小さな声で答えた。


「預かり証を持ってきてないから、お金がおろせないんだ……」


ベアーが金欠であることを素直に話すとルナの顔が輝いた。


「貸したげよっか?」


「えっ……」


 ルナは恩を売る気、満々の顔でベアーにポシェットを見せた。そこにはカジノで勝ったいくばくかの現金が見え隠れしている。


「いいのよ、貸してあげても!」


黒光りするルナの顔は実に明るい、


『お兄ちゃんプレイも飽きてきたからな……そろそろ趣向を変えても……』


 ルナはそう思うとベアーに意味深な表情を見せた。そこには新たな展開を考える魔女の計算が浮かんでいる……


一方、それを察したベアーは一瞬、躊躇した。


『……このままだとマズイな……主導権をとられる……』


ベアーはそう思ったが……金欠ではどうにもならない……


結局、『やむ得ない』と思い、借りることにした。



44

この後、ベアーはロバとルナを連れて街に出ると屋台で朝食のサンドイッチを買った。胚芽パンにトマトとチーズを挟んだだけのシンプルなものだが新鮮なトマトがみずみずしく思いのほか味が良かった。


ベアーはサンドイッチを頬張るとルナに声をかけた。


「ちょっと友達の所に行ってくるから、ルナは宿で待っててね」


ベアーがそう言うとルナは『ついていく』と主張した。


「駄目だよ、仕事関連だから」


ベアーがそう言って突き放すとルナはベアーにイヤラシイ一瞥を喰らわせた。


「ふ~ん、お仕事なんだ~」


ルナは思わせぶりな表情をわざと見せると鋭く切り込んだ。


「本当はパーラーのお友達でしょ」


ルナに図星をつかれたベアーは一瞬固まったが、何食わぬ顔を演出すると切り返した。


「仕事です!!」


ルナは『クソ怪しい』という表情を浮かべたがそれ以上は追及しなかった。


「いいわ、お昼に待ち合わせしましょ」


ルナはそう言うとポシェットをベアーに見せた。


「お金は私が握ってるの――忘れないようにね!」


ルナはベアーの首に後ろに手綱を巻いたような表情を見せると高笑いを見せた。


ベアーは『グヌヌ……』という表情を見せたが寂しい懐では反論できない……


そして、それを見透かしたようにルナが声を上げた。


「じゃあね、お兄ちゃん、バイバ~イ!」


ルナはそう言うとロバとともにベアーのもとを離れた。


 ロバはベアーを振り返って一瞬、哀しげな表情を見せだが、すぐにいつものブサイクな顔に戻ると『お金のある方についていきます!』という表情を見せた。そしてベアーにケツを向けると何食わぬ顔で歩きだした。


『あいつ……主人を見捨てやがった……』


文無しベアーは相棒にも相手にされていなかった。



45

ベアーはこの後、アルのもとを訪れた。頼んだ細工物の進捗状況を尋ねるという理由もあるが、昨晩のことを尋ねたいと思っていたからだ。


ベアーが工房を覗くとちょうど午前の作業を済ませたアルが出てきた。


「よう!」


 ベアーがそう言うとアルも「よう!」と答えた。その顔は実にさっぱりとしていて、キレがある。その様子からは昨晩の出来事で『愉しんだ』ということがありありとうかがえた。


「昨日はどうだった?』


ベアーがそう言うとアルが切り返した。


「お前こそ、初めてのパーラーどうだったんだよ?」


アルがベアーにそう言うとベアーは微妙な表情を見せた、アルはその様子からピンときた。


「お前、まさか、性病か?」


ルナと同じ反応を見せるアルに対しベアーは即座に応対した。


「未遂で性病になるか!」


それを聞いたアルは怪訝な表情を見せた。


「未遂って……それどういうこと、金払ったんだろ?」


誰しもが思う疑問をアルがぶつけるとベアーはパトリックの母の事を隠してルナの事を話した。


                               *


「『妹』に見つかったんだ……それで……気まずくなって……終了……」


「お前、妹がいたのか?」


ベアーが頷くとアルが腕を組んだ。


「身内にパーラーの現場おさえられたら……そりゃ、微妙だよな……」


ベアーはアルに対して気になる質問をぶつけた。


「ところでパーラーはどうだったの?」


 尋ねられたアルはニヤリとした。その表情には昨晩『素晴らしい体験』をしたという『経験した男』の顔があった。


アルは相変わらずの朴訥とした口調でベアーに語りかけた。



巨乳ビックティッツと3回戦だ」



アルにそう言われたベアーはすさまじいまでの羨ましさにとらわれた。


『うっ……うう……3回戦……』


ベアーがめくるめく官能マッサージの体験を心底羨ましそうにするとアルはドヤ顔を見せた。


                               *


 この後、2人の少年は猥談に花を咲かせた。年頃の少年にとっては『下ネタ』ほど拡がる話題はなく、2人の会話は弾みに弾んだ。二人は嬉々とした表情を浮かべると知りうる知識を互いに披露した。


「そうか、ダーマスって言う港町は『お風呂でニャンニャン』なのか……」


アルの知らない知識をベアーが披露するとアルは何とも言えない表情を見せた。


「行ってみたいな……ダーマス……下半身の異文化交流してみたい……」


『異文化交流』という単語にベアーは思わず吹き出したが、アルの表情は仕事をしているとき以上に真剣であった。


 2人はこの後、『異文化交流、亜人編』の話で盛り上がりを見せると、友人としての距離をさらに縮めた。


                               *


 猥談が一段落した時である、2人の会話を遮るようにして口笛が聞こえてきた。アルはその音に反応すると会話を切り上げた。


「悪い……俺ちょっと用事ができた」


 アルはそう言うと路地の傍らから手招きする存在の所に向かった。そして振り向くとベアーに向かって手を上げた。


「帰るまでに、もう一回パーラー行こうぜ、今度は未遂にならないようにな!」


アルは明るい表情でそう言ったが、ベアーはアルの向かう方向にいる人物が妙に気になった。


『何だ、あの亜人……』


ベアーは手招きした若い亜人の男に何やら秘密めいた匂いを感じた。


『気になるな……』


ベアーはそう思うとアルの後をつけることにした。





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