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第十四話

35

スターリングが給仕ウェイトレスとして酒を運ぶと、注文した客たちはその眼をみはった。


「マスター、あのネェちゃん……メッチャいけてるじゃん!」


 スターリングの容姿は客たちの目を引いた。すらりとした手足、白い肌、大きな瞳、いづれも大衆酒場のウェイトレスのレベルを超えていた。そしてその引き締まったウェイストと、形よく張り出したバストは客たちの眼をフォーカスさせた。


 客たちは興奮した面持ちで我先にと注文し、スターリングと接触を図った。わざと手に触れたり、メニューを落として拾う時にチュニックの中に手を入れようとしたりと、あの手この手でスターリングを攻めた。


 だが、スターリングはそれらを軽快に交わすと、嫌みのない会話と振る舞いでセクハラしようとする客たちを煙に巻いた。


『チョロイもんよ、この程度!』


 一方でスターリングは給仕として働きながら客たちの会話に聞き耳を立てていた。エルフの血が入っていることもあり、その聴力は人よりも鋭い。彼女はその鋭敏な聞き耳の能力をいかして白金に関わる情報を手に入れようとしていた。


『何か手がかりでも……あれば』


 だが、彼女の耳の入るもののはほとんどが『仕事の愚痴』、『猥談』、『酔っぱらいのたわごと』でその内容は甚だしく中身がなかった。白金につながるような組織の情報は微塵もなくゴルダに白金が持ちこまれたことさえ怪しくなってきた。


『今日は駄目ね…………』


スターリングが諦めてそう思った時である、妙に清潔感のある男が扉を開けて店に入ってきた。その青年は禿げ上がった男と亜人の青年を連れ立っていた。


『何だろう……鉱夫にはみえないわね……』


 大衆居酒屋に来る人間には思えぬその雰囲気は学者のようにも思える。小ざっぱりとした雰囲気は明らかにインテリと思えた。


スターリングの中で広域捜査官としての勘がうごめいた。


                                *


そんな時であった、亜人のマスターがスターリングに声をかけた。


「そろそろ、あれを見せてくれ!」


 耳元でささやかれたスターリングは『しょうがない』という表情を見せるとその身をひるがえし颯爽とお立ち台に向かった。


「皆さん、今から余興をお見せいたします。」


 亜人のマスターが自信ありげな声で言うと舞台に上がったスターリングは身に着けていた給仕用のエプロンと膝丈のチュニックを脱いた。


思わぬ演出に客たちは度肝を抜かれた。


 ボディーラインを強調したショートパンツとチューブトップの衣装は髪色と同じ黒色で白い肌とは対照的であった。


スターリングはポールを握ると周りの客たちに微笑み、ポールに足をかけた。


 しなやかな肢体、白い肌、とび散る汗、官能的でありながらキレのあるスターリングのダンスは性的な魅力だけでなく芸術性を兼ね備えていた。


 最初はニヤニヤしながら見ていた客も、スターリングの躍動する肢体に目を奪われ、その途中からはスターリングの見せる技の数々に翻弄されていた。


                               * 


 ダンスが終わりステージを下りると多くの客がスターリングを取り巻いた。その眼は興奮冷めやらぬようでスターリングに接触しようと躍起になっていた。亜人の店主は『商品』であるスターリングを守るために防波堤のようになって客との距離をとった。しつこい客には拳をかまして圧力をかける、商品を守る店主の姿はゴロツキそのものであった。


 一方、スターリングはポールダンスをしながらもその耳に入ってきた気になる会話の主を探していた。それは最後に店に入ってきたインテリの青年とそのとりまきであった。


『やっぱり、あの3人組』


 スターリングはインテリの青年の会話の中に『ゴルダ卿、執政官、癒着、』という単語があったことを聞き逃していなかった。


『白金とは関係ないかもしれない……でも、情報収集としては悪くない……』


スターリングはそう判断するとスニークミッションを開始することにした。



36

ベアーはアルとともに街頭の煌めく街の一画に立っていた。その表情はいつになく緊張感に満ち満ちている。


「いいか、ベアー、俺のマネをすればいい」


 そう言うとアルはベアーを連れて何とも言えない照明(色のついたガラスに街灯の光を反射させたもの)が当てられた店の前に立った。


そこには『フルーツパーラー 輝き』と銘打った看板がある。


「最初に割引券を出すんだ。そうしたら現金を払う。そして奥にある応接室で順番を待つ」


 アルに言われたベアーはすこぶる真剣な表情でアルを見た。そこには未知の領域に進む冒険者のような緊張感がある。


「そして番号を呼ばれたら、案内人がやってくる。その案内人が部屋まで連れて行ってくれる」


言われたベアーはつばをゴクリと飲んだ。


「あとは……その部屋で……」


アルはそう言うとベアーに割引券を渡した。


「準備はいいか!!」


アルに言われたベアーは万感の思いで頷いた。こうしてベアーとアルは『フルーツパーラー、輝き』へと足を踏み入れた。


                               *


 受付ブースは店員とやり取りする客の顔が、互いに見えないような配慮がなされていた。プライバシーの配慮というのは大衆店にないものだが、『フルーツパーラー、輝き』にはそれがあり高級店のような演出がなされていた。


ベアーが薄暗い店内を見回すと料金を記した札がかけられ、明朗会計であることも想像できた。


『ぼったくりはなさそうだな……』


ベアーはそう思うとアルの後ろに並んでそのやり取りに目をやった。


『なるほど、しゃべらなくてもいいんだな』


 アルは店員の提示した冊子(似顔絵が記してある)の中から好みの亜人を選ぶと割引券を渡した。店員はそれを受け取るとアルに対して金額を提示した。アルは提示された金額を払うと慣れた手つきで番号札を受け取った。


『次は俺の晩だ……』


 ベアーがそう思った時である、ベアーの胸中になにやら竜巻のような感情が沸き立ってきた。それは僧侶としての道徳観と貿易商としての冒険心の葛藤であった。


以下はその時、ベアーの脳内で生じたやり取りである。


                              ☆

     

『君は僧侶なんだから、こんな店に入っちゃだめだよ、まだ間に合うよ!!』


倫理を司る僧侶の部分が脳内で叫んだ、その声は真剣そのものである。


一方でそれを揶揄する貿易商の声も響いた。


『ダーマスじゃ、お風呂でニャンニャンできなかっただろ、行っちゃえよ、今回くらい~』


それに対し僧侶の部分が反論する。


『駄目だって、君はまだ15才なんだ、こんなふしだらな店なんか、良くないよ。おじいさんだってきっと心配しているよ!』


『大丈夫だよ、マッサージだけだろ……いけるって!!』


ベアーのなかで悪魔と天使がせめぎ合う、


『誉れあるライドル家の子孫なんだ、こんなところでおかしな行為をするなんて、考えられないよ!』


 脳内で僧侶の部分を体現する天使がそう言うとベアーは若干後ろめたくなった。300年前、魔人を倒した勇者の子孫としての誇りが歯止めをかける。


一方で貿易商の精神とリンクした悪魔の部分は囁いた。


『英雄色を好むって言うだろ。大丈夫だって、何事も経験だって。マッサージくらい大したことないって、それに亜人の娘と巨乳ビッグティッツの組み合わせだぜ!』


悪魔はそう言うと断言した。


『マッサージじゃ、病気はうつらない!!!』


ベアーはその力強い一言に思わず呻った。


『そうだよな……病気にならないなら……いいよな……』


                                ☆


ベアーがその一言に侵食されると倫理を司る僧侶の部分は消し飛んだ。


そして……


ベアーはブースに向かって歩きアルのくれた割引券を提示していた。



37

ベアーは金を払って番号札をもらうと待合室へと足を踏み入れた。そこにはちょっとした食べ物や飲み物が置かれ、客同士が話せるラウンジのようになっていた。娼館の薄暗い待合室とは違い、明るい雰囲気で妙にリラックスできる空間であった。


ベアーが左右を見回すとレモネード(蜂蜜とレモンをを水で割ったもの)を持ったアルが現れた。


「あとはくつろぎながら自分の番を待てばいい、そのうち案内人が呼んでくれる。」


アルが慣れた口調でそう言うと、案内人と思しき40代の女が番号を書いた札を掲げた。


「俺の番だ、じゃあな!」


 アルはそう言うと立ち上がり、案内人のもとに向かった。余裕のある歩き方はすでに何度もこの店を訪れている経験値が浮かんでいた。


ベアーはそれを見送ると自分の番が来るのを待つことになった。


『マッサージ、どんな感じなんだろ……』


ベアーは鼻の穴を大きく広げると悶々とした気持ちをおさえようとした。


『落ち着け、俺、落ち着くんだ!!!』


初めての経験にベアーの心臓は脈動を速めていく……


『めくるめく官能のマッサージ……』


ベアーの脳裏で様々なシュミレーションが渦巻く。


『そしてなにより亜人の巨乳ビッグティッツ……』


初めての経験は童貞の少年にすさまじい興奮を与えていた。





さて、次回、パーラーでベアーはどうなってしまうのでしょうか、


本当に亜人の娘と……………となってしまうのでしょうか


次回、ご期待ください!

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