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第5話 街道と街灯(3)

「お久しぶりです。ご機嫌いかがでしょうか。」

落ち着いて雰囲気でフローレンスはギジロウに話しかける。

「フローレンス、久しぶりだ。ここに居るみんなは元気だ。フローレンスが派遣してくれた人々も元気に働いてくれているよ。おかげでとても助かっている。」

「左様ですか。みなさんのご健勝の様で何よりです。」

 ギジロウとルースの間で軽く挨拶と近況報告が交わされる。

「それで、フローレンスが直々に来てどうしたんだ。また、ファナスティアル王国の連中が攻めてきたか?」

「そこまで、焦っているものではありません。えっと、どこからお話ししましょう…………。」

 フローレンスは口元に指を当ててどこから話始めるかを考える。

「ナターシャが私たちの拠点を復興していた際にレンガの作り方を教えていたのはご存じでしょうか?」

 ギジロウはフローレンス奪還後にフローレンス達の拠点に帰ってきた際のことを思い出す。

(確かに窯の側には土が積み上げられて、窯で何かを焼いていたような気がする。)

 ギジロウは拠点で見た光景がレンガを焼成していた光景であることを理解する。


「そうだったのか、しかし、それがどうかしたのか?」

「その時にモルタルの作り方を教えていただいてなかったのです。」

 フローレンスを連れ帰った翌日にはギジロウとナターシャは帰ってしまったため伝えきれていなかった。

 ナターシャもその後の忙しさのなかでギジロウにレンガの作り方を教えたことを伝えることを忘れていたため、ギジロウも把握していなかった。


「それは申し訳なかった。今まで平積みしていただけか?」

「一応、粘土はとれるので粘土でくっつけていましたが、当然モルタルほどの強度がでておりません。」

 フローレンス達は武器を作るために忙しくしているギジロウに迷惑がかかると考え、ギジロウ達に聞きに来ることを躊躇していた。なんとか自分達でセメントの作り方を考えようと試行錯誤していたが、再びブラックボアが出現するようになってしまった。

「早急に防備を強化したいので、自分達で見つけるのは諦めて教えてもらいに来た次第です。」

「そうだったのか、後で紙に書いて教えることはできるのだが、といってもそちらにある材料だとたぶん作ることはできない。」

ギジロウはフローレンスの拠点周辺で石灰がとれないことを危惧する。

「そ、そうなのですね。なら、モルタルを譲っていただくことはできませんか?」

「そ、そうだな。」

 譲ってあげたい気持ちがあるギジロウは返答に困る。開拓地にも十分な量のセメントはなく、人手も足りないためカイナが必要に応じて最低量を適宜生産している状況だった。

「ごめんなさい、フローレンス達に渡せる状態ではないわ。」

 答えにつまるギジロウを置いてルースが断りを申し入れる。

「そうですわよね。お気になさらなくても大丈夫です。無理なお願いというのはこちらも重々理解しております。」

 フローレンスは一呼吸置いて次の話題に移す。

「それともう1つお願いがありまして、ルース様たちが前進基地で作っていた、コンクリートブロックを私たちも作りたいので製法を教えていただけないでしょうか?」

 フローレンスはサーマリー達からフローレンス奪還戦でのコンクリートブロックの活躍が凄まじかったと聞いたこと、いくつかの粉を混ぜあわせていたことを知って見よう見まねでやったがうまくできなかったことをギジロウに伝える。

「先程も少しお話に上がりましたが、これから冬に向けてブラックボア達も気性が荒くなると考えています! 幸いまだ被害はでていませんが拠点の守りを強化したいのです。」

 フローレンスたちの拠点の近くではブラックボアが争った形跡や死骸が見つかったらしく、冬に向けて縄張り競争が激しくなっていると推定していた。

「まっすぐ突進してくるブラックボア相手なら、コンクリートブロックで被害を減らせると思うのです!」

 コンクリートに高い期待を寄せるフローレンスに対して、ルースは思わず苦い顔をしてギジロウの方をみる。

(ルース! ここで俺の方に振るか!)


「あ、あれは石灰を焼き固める必要があるんだ、そして原料はモルタルとほとんど一緒だからすぐに渡せない。」

「え、そうなのですか?」

 フローレンスの顔が一気に曇る。

「当然、材料は渡せないのだが、ここで1つ提案がある。」

「はい、なんでしょうか?」

「モルタルもコンクリートも粉に加工する行程が多いんだ。作り方を教えるから、製造行程を俺らの代わりにやってほしい。」

「教えてくれるのですか?すごい秘密なのでは?」

「そんなことはないぞ。俺らもこれから大量に使用する予定で増産が間に合わなくて困っていたから助けてほしいと思っていたんだ。」

 ギジロウは大まかにセメントを作る行程をフローレンスに伝える。ギジロウ達が原料を採掘し、その後の粉砕、焼成、配合の行程をフローレンスたちの拠点で実施するという役割分担を説明する。

「説明を聞くと私たちがギジロウ様達の分もまとめて作ったほうが効率的なよう思えますね。ギジロウさんの提案に乗りましょう。」

 フローレンスはギジロウに手を差し出す。ギジロウはその手をがっしりと握る。

「2つの拠点で、協力してニーテツ奪還に向けて頑張ろう!」

「私たちもただ生き延びるだけでなく、ニーテツ奪還に貢献できるのですね。役割を与えてくださりありがとうございます。是非一緒に頑張りましょう。」

 その後も、それぞれの拠点にいる人々の技能などを紹介し、各場所が何を頑張るのか、何を作るのかを話し合う。

「双方で作るのものが異なるから、人の往来も増えるわね。また、貨物の破損を防ぐためにも道を整える必要もあるわよね。川もあったりして大きな貨物を移動するのは大変だわ。」

 話し合いの最後、ルースが2つの拠点の道を整備することを提案する。

 開拓地とフローレンスの拠点の間には川があり、行き来を難しくしていた。フローレンス奪還の過程で数回馬車を通したことがあるが、夏の水量が多いときは渡れそうな場所を探すだけで時間もとられており大変だった。

 川以外の場所も整備されていない獣道は倒木や木の根があり進むのが難しい。

(石灰の採掘現場までの道の整備をしただけでも、だいぶ行きやすくなったしな。)

 ギジロウ、フローレンスはニーテツに近いフローレンス達の拠点が襲撃された際に迅速に対応できることを期待して、道の整備に同意する。


話し合いは白熱し夕食の時間を越えて夜遅くなったため、フローレンス達は拠点の空いた宿舎に泊まり翌日に帰ることにした。

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