第5話 街道と街灯(1)
フローレンスの協力を得られたギジロウ達。
ようやく、ニーテツ奪還に向けたモノ作りが動き出す。
――より遠くから、より強く。そういった考えで飛び道具は発展してきた。攻撃魔法による攻撃はその発展の1つの形である。――
フローレンスをニーテツから連れ戻したギジロウ達は、フローレンス達の拠点から人を派遣してもらう約束を取り付ける。新しい人員が増えるまでの間にギジロウ達は鉄の採掘の準備をしていた。
「フローレンスの元から人員も増えるから、ようやく採掘に向かえるわね。それで、誰が採掘に行くのかしら?」
「それについては今日の夜にみんなで話そうと思う。食堂に集まるように周知しておいてくれるか?」
「わかったわ、派遣するメンバーについてはギジロウに任せていたと思うけど、良かったかしら?」
「それであっているよ。それと、今日の夕方までにはフローレンスの元から派遣される人が到着するから一緒に紹介するようにするよ。」
話を終えるとルースは自分の仕事のために持ち場に戻っていく。
ギジロウは開拓地内に掲示板に「夕食後に食堂に集合」と告知内容を直接書いていた。
「あら、ギジロウ様。本日の夜に到着される方の紹介をするのですか?」
側を通り過ぎたナターシャとポーラがギジロウに何をするのか質問する。
「その予定だ。それと鉄の採掘に派遣する人を発表しようと思う。例の話はよろしくな。」
「はい! 任せてください。」
「ナターシャ様、例の話とは何でしょうか。」
「ポーラにもまだ話していなかったですね。今晩のギジロウ様の発表を楽しみしておいてください。」
ナターシャは含みのある笑顔でポーラの質問をはぐらかす。ポーラは教えてほしそうに再びナターシャに質問するが新しく来る人の受け入れ準備の話に話題をそらされてしまう。
「それではギジロウ様、新しく来る方のために用意した部屋の様子を見に行ってきますわ。」
「よろしく頼む。」
ギジロウは新しく建築された宿舎の方へ歩いていくナターシャとポーラに手を振って見送る。その先には整備が進んだ居住区と新築の建物が見える。
開拓地に到着して以降、洞窟で寝泊まりをしていたギジロウ達だったが、ベンやナターシャ達が到着して以降、建築が進みみんなが屋根の下で寝られるようになっていた。その中でも、リーダー的な役割があるギジロウとルースには個室が与えられていた。
「ギジロウ殿、夜に食堂集合ね。了解! みんなで話し合うのにちょうどよいね。建ててよかった!」
ギジロウが告知を書き終え不要となった古い告知を掲示板から削っていると、カイナとルッチが声をかけてくる。
食堂はみんなで重要な話し合いを行ったりする会議室の役割も担っていた。
ナターシャから話を聞いたであろうカイナが掲示板を見る前に食堂に集合することを了承したことをギジロウに報告する。
「そうだ。夕食後に集まってくれ。建築の進捗はどうだ?」
「宿舎は必要数は完成ね。コンクリートが不足してきたかも。」
「なるほどな。石灰の採掘も必要なのか。」
フローレンスの奪還に随伴しなかったカイナは、建物を建てる際の中心人物となりギジロウからの知識も吸収して建築にも明るくなっていた。(ギジロウの持っている魔導書は日本で書かれていたためギジロウが翻訳して教えていた。)
土地の開墾、木の伐採、木材の加工、躯体工事、内装工事まで幅広い行程でその中心として活躍している。
「ギジロウ様、工作小屋に作ると噂のセンバーンについて何か手伝えますか?」
「ワイバーンみたな発音だな。旋盤な。ルッチは工作機械が気になるのか。」
「はい! ギジロウさんの居た国で稼働していた機械がとても気になります。」
「そうか。旋盤はかなり重要な工作機械だから、鉄を採掘している裏でルッチとカイナに協力してもらって作ってもらおうと思うからもう少し待っててくれ。」
「そうなのですね! 楽しみにしています!」
そう言ってカイナとルッチはナターシャ達とは逆方向に去っていた。
ギジロウは掲示板を書き換え終えると、開拓地内を見回りエイダ、ベン、シー等の他の住民とあいさつをして自分の部屋に戻る。
部屋に戻ったギジロウは残り少ないノートのページを開いて大砲の設計の再開する。
「兵器なんか設計したことないのだけど。見栄を張ってしまったからな。」
ギジロウはニーテツ奪還に向けてどのようにな武器を作りたいか相談した際に、大砲の脅威を一通り説明してしまった。その威力に惹かれたルースはどうしても大砲が作りたいと主張してギジロウが設計することになった。
「ルースのお願いだし、ニーテツを取り戻すためにも可能な限りやるか。」
魔導書を開いて砲の仕組みを調べて設計していく。調べれば調べるほど、素材、加工技術など達成しないといけないハードルがどんどん上がりギジロウは頭を抱える。
(ただの金属の丸い筒だと思ったが、かなり先が長いな。加工を手仕上げはつらい。せめて野生の旋盤が落ちていればよかったのに。)
ギジロウが作業に没頭しているとルースがギジロウを呼びに来る。
「ギジロウ、夕ご飯ができているわよ。もう私たちが最後っぽいわ。」
「それはすまない! 今行くよ!」
ギジロウは作業を中断してルースとともに食堂に向かう。
夕食後、ギジロウはみんなが集まったところで、フローレンスの拠点からやってきた人を紹介する。
「みんな揃ったかな? まずは新しい仲間を紹介する。前に出てきてくれ。」
ギジロウの呼びかけに、ナターシャの近くに座っていた8人の男女が立ち上がってみんなの前に並ぶ。
「彼らがフローレンスの元からやってきた新しい仲間たちだ! 皆で歓迎しよう! 皆さんよろしくお願いします。」
ギジロウの紹介で迎えられた人々は「よろしくお願いします」と頭を下げる。それに対してルース達は拍手で歓迎をする。
ギジロウは彼らの相談役をよく知っているナターシャ達にお願いする。ナターシャ達も顔見知りのため快くその場で引き受けてくれた。
「次は、鉄の採掘についての話だ。まずは、ルースから現状について説明してくれ。」
ルースが前に出て、鉄の採掘を巡る状況を説明する。開拓地の北側にある山の中で鉄鉱石が採取できる可能性があること、採掘のための拠点を作る必要があること、雪が降り始める冬前までには最低限、暖を取れる拠点を作る必要があることを順番に説明していく。
「冬支度もあって、鉄の採掘はここに居る全員で行くことはできないから、採掘する人員を選抜するわ。人選はギジロウに任せてあるわ。ギジロウ発表をよろしく!」
そう言ってルースは話の続きをギジロウに振る。
「ルース説明ありがとう。それでは採掘に向かう人を発表する。みんな心して聞いてくれ。まずはベン、シー、エイダ。採掘を任せてた。」
「わかったぜ兄貴! なんといっても、俺らはニーテツに居たときから採掘担当だからな。任せてくれ!」
「つづいて、ポーラ。未踏の森の中に拠点を作るからみんなを守ってくれ!」
「わかりました、ギジロウ様。皆さんを守れるように鋭意努力します。」
その後も順番にギジロウは採掘の担当を発表していく。
「最後にナターシャ。今回の採掘団の団長を任せる。みんなを率いて無事に帰ってきてくれ!」
その発表に会場は一瞬どよめく。
(えぇ、ギジロウさんかルース様が団長だと思った。)
ポーラもこれが秘密にしていた話であることを理解して驚きの表情でナターシャを見つめる。
「わかりました。採掘団の団長、謹んでお受けいたします。」
「以上だ。採掘に向かうみんなは明日から、ナターシャの指示で動いてくれ。」
その後、みんなからいくつか質問があり、人選の発表会は終了した。
解散後、みんなが食堂から去り、食堂にはギジロウとルースが残る。





