乙女ゲームのメイド喫茶イベントをレディ・ミイラの館に変えたった
10月なので掘り出してきたハロウィン作品を投稿します。
ある日、前世を思い出した。
ウザいぐらい目の前でイチャつかれてれば、誰だって叫ぶって。リア充爆発しろって、心の中で。
その勢いで思い出した。
ついでにこの世界が乙女ゲームの世界だって気付いた。
逆ハービッチ(乙女ゲームのヒロイン)とバカップル男たち(攻略対象+クラスの男子生徒)のイチャイチャにイライラさせられていたある日、学園祭でやる催しが決まった。それがゲーム通りのメイド喫茶。バカップルたちの意見ゴリ押し(王子の婚約者以外、反対できない)だった。
ゲーム通りにイチャイチャするんだろう。
私ができることは当日、女生徒全員で反乱を起こすことだけ。
反乱は言い過ぎだけど、まあ、そういうこと。
代理を立ててボイコット。
当日、朝にビッチ以外のクラスの女生徒に声をかけて代理たちと入れ替わってもらった。
「なんだ、これは?!」
大慌てのバカップル男たち(攻略対象+クラスの男子生徒)。
「ご覧になってわかりません? 高貴なご令嬢にメイドの真似事などさせられませんから、顔を隠した姿にしましたわ」
そう言うのは、全身包帯グルグル巻きのミイラ女集団を従えた王子の婚約者。彼女はまだ入れ替わる前で、ドレスから見える手だけ包帯を巻いている。
発案者である私も取り巻きAとして同じ格好だ。
他の女生徒は既に入れ替わっていて、別人だとわからない。ついでにミイラだから服も着ていないお尻の形もバッチリわかるこの格好、この世界では全裸に近い認識なので、破廉恥、極まりない姿である。
そんな破廉恥な格好を代理でしてくださっているのは、プロの方々。
エロい格好×立っているだけでエロいお姉さんたちのエロのコラボだ。
クラスの男共を骨抜きにしたビッチVSエロの権化。すごい構図だな。
この格好を思い付いたのは某バカップル男の婚約者との会話でミイラが出たからだ。この世界にもミイラがあると知って、私は思い出した。ミイラ取りがミイラになる、という諺を。
この世界ではミイラ女の仮装はエロい。
もう一度言おう。この世界ではミイラ女の仮装は、お尻の形が丸わかりでエロい。
だって、上乳の見える二分の一カップブラ並みに露出度の高い夜会用のドレスは着れても、お尻の形が丸わかりのドレスは着れない。本職のプロだって着られない卑猥すぎる格好なのだ。
プロの方々にミイラ女の仮装してもらって、これでビッチに負ければ世界の強制力に屈したと諦めがつく。
しかーし。ビッチに籠絡されているだけならギルティだ。こんな奴ら、支配者階級にいる必要はない。
「顔を隠したのはいいとして、その格好はなんだ?! そっちのほうが問題だろ?!」
顔を隠したのはいいのか。意味不明だ。そっちが一番問題だろ。顔がわからないなんて、警備の面で身分不詳と考えられる事案だ。
それをしたとはいえ、問題にならないなんて、やっぱゲームの強制力が働いているんだろうか?
「メイドなんか、品位を落とすような真似できませんわ」
「ひどいわ! メイドさんを馬鹿にしているのね!」
ビッチが何やらほざいている。ゲームだと、メイドなヒロインのラッキースケベ(転びかけたところを抱きとめられる)でスチルGETと好感度大幅UPを狙える。
メイドさんを馬鹿にしているのはどっちだ。
「そのような破廉恥な格好をしておいてよく言うな!」
「顔が隠れておりますので、名誉は守られます」
発案者の私も援護射撃をする。
「その通りですわ。メイドなんて屈辱的な姿、誰にも見せられませんわ」
メイドは下働きのランドリーメイドとキッチンメイド、1階の掃除メイド。家主とその家族や客人と顔を合わせる上級メイドの二種類に分けられる。
メイドとは言えば、大概、礼儀作法もない下働きのメイドを意味する。
メイドをするということは、学園に通う良家のお嬢さんにとっては屈辱的な言葉だ。
乙女ゲームのイベントのメイド喫茶は客に快適な時間を提供するパーラーメイドなんだろうけど、これはマナー知らずのビッチがやること自体、特大のブーメランである。
が、学園に通う良家のお嬢さんは、客室付きのメイドや専属メイドと呼ばれる侍女にそのままなれるだけの礼儀作法と教養があるわけで、食事の給仕なんてライオンにネズミ退治をさせるようなものである。
そんなわけで、本人たちが楽しんでやりたがっていたのなら兎も角、ビッチ以外の女子生徒は誰一人やりたいとは思わない。
個人的に崇拝している相手とメイドごっこしたい子もいたかもしれないが、客という名の不特定多数相手の屈辱的な仕事だ。
誰かわからなければ、名誉が守られるのでメイドの仕事もできる。
学園に通う良家のお嬢さんがメイド喫茶をやるなら、顔を隠さなければいけないのだ。
そんなことしていたら、乙女ゲームのスチルはGETできないけど。
「俺たちが執事の格好をしているのに、お前たちはメイドの格好をしないというのか?!」
執事はメイドの男性版と考えていい。ただし、執事は客前に出るので、容姿が整っていて、頭が良くなくてはいけない。
王宮で侍従と呼ばれて働いている執事たちは、学園を卒業した貴族である。
だからといって、王子が執事をやるなど、ありえない。コメディだ。
乙女ゲームの攻略対象たちは、執事になるはずのない王家や公爵家の息子ばかり。笑える。乙女ゲームクオリティにしても、笑える。
学園にいる間は身分を問わないという、創作あるあるを踏襲していたとしても、ご都合主義すぎる。
本来なら、無礼だと立ち叫んでもいい事案をビッチの言いなりになった彼らは自ら勧んでやっているのだ。
これを笑わずして何を笑おう。
ついでに、ゴシップ紙にも王子が執事の格好をする情報は流しておいたので、次の新聞の売り上げは過去最高を記録するだろう。
それほどの醜聞なのだ。
それはさておき、自分たちでやりたいと言っていたことに不平を言われるのは、腹が立つ。
メイド姿のビッチだけが見たかったのか?!
「どうぞ、したい格好でご参加ください。私共はメイド姿で顔を晒したくないだけですわ。メイド服に包帯は似合わないので、包帯姿でメイドをさせて頂きますわ」
犬神家のスケキヨがメイド服着ているようなのは、もうホラーだ。客だって回れ右で逃げ帰る。
引き留められる格好は足首の露出だけかもしれない。入学前は女児が着る膝丈のスカートを着ていても、入学後は丈の長いスカートだけしか許されていないのも、大人扱いされるようになって、足首を出してはいけないからだ。
ふくらはぎは見られても、足首はNG。
屋敷の庭に出るだけでも、淑女がショートブーツを履くのは、風でスカートの裾が翻って足首が見えないようにだ。
淑女は室内履きとダンスシューズ以外はショートブーツしか許されていないのである。
ハリウッド映画でウエスタンなカウボーイ幽霊のおっちゃんが言っていたように、足首はお尻以上に破廉恥な部分なのである。
不思議の国のアリスの挿絵でしっかりアリスの足首が出ていても、それは靴下を履いた子どもだから許される。
アリスの足首見てハアハア言ってたら、通報案件(実際は社交界で小児性愛者だと認定される)。
むしろ、大人として見られる年頃は足首を出してはいけない。出したら痴女だ。
足首を晒して歩く成人女性は公然猥褻罪で捕まる事案なのだ。
え? 漫画で足首出しているご令嬢ヒロインがいた?
その話の舞台が足首出していても破廉恥だとは感じない文化のナーロッパなんでしょ。
本来は足首出してる=下半身露出という認識だからね。足を高く振り上げて下着を見せて踊るフレンチカンカンだって、ショートブーツを履いているからね。
「・・・」
ミイラ女の全身と包帯を巻いた制服姿の婚約者を見比べて、王子たちの鼻の下が伸びる。
良し!
そうなるよね。
ほぼ全裸扱いのミイラ姿と、犬神家のスケキヨがメイド服着ているようなのは、大違いだ。
その鼻の下が全部を物語っている。
「よし。メイド服は勘弁してやる」
「では、着替えて参りますわ」
着替えと称して退出、出来れば、もうこっちのものだ。あとは入れ替わってくれたプロの人がやってくれる。
何をって?
何を、だ。
その後――
バカップル男たち(攻略対象+クラスの男子生徒)は、授業が終わったら飛ぶように帰宅するようになった。
プロの方々の手腕はすごいね★
逆ハービッチは一人で寂しく卒業し、
バカップル男たち(攻略対象+クラスの男子生徒)は婚約者と仲直りして結婚し、
世はすべてよし。




