その五十六
悔しそうに見送るモリガンへ振り返る。
「塔の暮らしは悪いことばかりではありません」
「くそ、嫌味か」
「いえ、本心です」
彼女には塔でのつらい暮らしが待っている。
だから伝えたくなった。
「もしもです。もしもピンクの傘に白水玉のキノコが生えたなら」
「キノコだと?」
一年前に占い魔法で調べたことを伝えておく。
「恋愛運を向上させるには南の方角に淡いピンクの物を置くのが最も効果的です。まずピンクの傘に白水玉のキノコが生えたらそれを大切に増やして一本ずつ南側の壁際へ置いてください。方角の対象範囲は凄く狭いので印がある石の前に正確に置くことが大切です」
「は? 早口すぎてさっぱり分からん」
「お元気で」
ミレーユたちが乗った紅蓮の飛竜は大空へ飛び立った。
振り返ると悔しそうなモリガンと起き上がったケルベロスの姿が見える。
その姿はすぐ小さくなり、塔がどんどん遠ざかっていく。
出られない、離れられないと思っていた塔からあっという間に離れていった。
お父様、祓占術士を継いだミレーユは生きて塔から出ることができました。
諦めずに抗い続け、最初に出た占い魔法の結果を外せたのです。
どうかミレーユを褒めてくださいませ、お父様。
スピアの首に手を突いていると、ランスロットが髪に顔を寄せて語り掛けてくれる。
「まずミレーユの母君を迎えに修道院だ」
「ありがとうございます!」
お母様に会える。
一時は今生の別れを覚悟しましたけど、これからは隣国で一緒に暮らせます。
再会したら、至らない娘で心配かけたことをお詫びしたい。
そしてお父様の分も親孝行して生きていきたい。
みんなで暮らせると喜んでから少し不安になった。
母親を迎えに行ったら、スピアの背中に全部で五人も乗ることになるから。
「ねえ、スピア様。お母様も一緒に乗って飛べそうですか?」
「おいおいミレーユ。俺は飛竜の里の長だぞ。そんな心配やめてくれ」
余計な心配とばかりに怒られた。
「それよりもさ、ミレーユが呪いでピンチだった時、何があったんだ?」
「え、あ、はい」
スピアも告白のやりとりを当然見ていた。
ランスロットからプロポーズされて、応じたのを知っていると思っていたけど。
「悪魔の攻撃をさばくのに必死で、ふたりの声が殆ど聞こえなくて」
「あ、そうだったんですね」
あのとき殿下は好きだと言ってくださった。
さらには誓いのキスまで。
考えてみればあれはみんなの前でした。
ハンナやアンディも石階段から覗いていたというし。
ここにいるみんなにキスを見られていたと気づいて顔が熱くなる。
「なんかランスの牙が当たったように見えたんだ」
「え? 牙がですか?」
一体何のことだろう。
「だってランスが飛竜の恰好で支えてただろ」
「飛竜の恰好で? えーと、あっ」
あのとき呪いの影響で視界が白黒になり、自分にだけみんなの本当の姿が見えていた。
モリガンは黒い肌の悪魔に、ランスロットは銀髪の男性に、スピアは真紅の飛竜に。
だから誓いのキスも人の姿のランスロットにされたように見えていた。
でもほかのみんなには飛竜の牙が当たったように見えたのだ。
「ねえ、お姉ちゃん。あのときどうやって呪いを解いたの?」
ランスロットの後ろにいるアンディに聞かれた。
それを一番後ろのハンナが慌てた様子でたしなめる。
「ア、アン。その話は地上へ降りてからにしなさいな。あのスピア様、それで目的の修道院ですが」
ハンナはどうやら察したらしい。
あれが誓いのキスだったということを。
だから話を打ち切って修道院への案内を始めたのだと思う。
隣国に着いたら、ちゃんとスピアとアンディに結婚したことを伝えなければ。
ハンナが遠くに見える鐘のついた建物を指さす。
「スピア様、あの屋根がそうです」
あと十数秒で到着するだろう。
後ろのランスロットへ振り向いて顔を寄せる。
「殿下。隣国に着いたら、その後はどうするのです?」
「すぐに国中の貴族を招待して、盛大に祝いの式をしよう」
「く、国中ですか。あの、殿下。いまでこそ話せるようになりましたが、わたくしはあまり社交が得意でなくて」
忘れていた。
王子と結婚したのだ。
社交からは逃げられない。
やっていけるのだろうか。
「実は私も社交が得意ではない」
「えっ、そうなんですか? とてもそうには」
「心配はいらない。私がそばにいる。――いつだって、ずっと」
「……はい」
後ろから首すじへキスされた。
そのままゆっくりと頬へのキス。
さらに唇へ。
風の音も、空の青も、すべてが遠くなった。
彼の唇が情熱的に降ってくる。
後ろからの包むような愛にただただ満たされた。
突然風が吹き抜けて、スピアの紅蓮の背中で白いドレスの裾がはためく。
はずみで女王からもらった花のティアラが落ちそうになり、咄嗟に両手で押さえた。
すると、ランスロットが手を回して体を支えてくれる。
「ひとりではない。みんなで支え合っていこう」
「はい!」
雲ひとつない澄み渡る青空。
太陽の日差しが暖かい。
寒々しく感じた屋上と違って、空で受ける風はとても心地よかった。
後日、あの塔の話を聞いた。
広まっている噂は、隣国の女王が街はずれの塔に移り住んだというもの。
彼女は自慢の黒髪が真っ白になり、それを見られるのが嫌で塔に引きこもっているとか。
臣下たちが慕ってあれこれ世話を焼いても、誰も塔へ入れずに一人で暮らしているそうだ。
でもなぜか三つ首の猛犬だけは塔の中へ招き入れるらしい。
その犬は妙に彼女になついていて、脚にすり寄って片時も離れないという。
了
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