33.消散した過去
※ 文章の終わりにイメージイラストがあります。
上弦の月から二日が経った日の昼下がり。外は早春ののどかな日差しが降り注ぐ中、リオンの姿は神殿図書館のとある書庫にあった。
その書庫は窓のカーテンが閉じられているため、真昼だというにも関わらず薄暗かった。そんな中、シンプルな紅藤色のドレスを纏ったリオンは、本棚と本棚の間に立って黙々と本を読んでいた。その横には、ランプの灯りでそれを照らしているリックの姿もあった。
書庫に二人以外の姿はない。しかし、扉の外などで物音がすると、リックは油断なく辺りを窺っていた。そんな中、リオンが一心不乱に読んでいるのは紺色のハードカバーの本。それは、以前グレッグが異動になった日に読んでいた本――聖典だった。
頁を捲る音だけが微かに響く中、彼女はふと手を止めてリックに問いかけた。
「ねぇ、リック。ここに書いてある月神の花嫁って、具体的にはどういうことなの?」
「え。リオン、月神の花嫁の意味は知らなかったの?」
彼女の質問に対し、リックは呆気に取られた様子で問い返した。リオンがコクリと頷き返せば、リックは得心がいった様子で、僅かに間を置いて言った。
「うーん、月神の花嫁がどういうものか、か……。端的に言うと、月神様にその身を一生捧げます、って誓うことかな」
「一生?」
「そう。月神様の伴侶として一生涯を過ごすってこと。神様の奥さんだから、他の男性を伴侶とすることなく、一生神殿で巫女として仕えるんだ。巫女長様がその筆頭だよ」
そんな彼の回答にリオンは、僅かに考え込んだ後、納得顔で一つ頷いて言った。
「そっか。だから、グレッグはあんなこと言ったんだね」
「あんなこと?」
「私は月神様のモノなんだって。あのときはよくわかってなかったけど、全部これに繋がる話だった気がするの」
「そんなことまで言ってたのか……」
年下の同僚に対し、リックは呆れ果てた様子でこめかみを押さえて嘆息を漏らした。そんな彼の様子に苦笑しつつ、リオンは本の文字を指でなぞりながら言った。
「このまま何もしないでいたら、私はあと四年……。ううん、三年とちょっとで月神の花嫁の儀式をすることになって、そこからはずっと神殿から出られなくなるんだね」
「……そうなるね」
そんな彼の言葉に、リオンはただ静かに『そっか』と呟くと、黙って本を閉じた。静かにじっと聖典を見つめる彼女の様子にリックは眉根を寄せて言った。
「リオン、大丈夫?」
彼の発した言葉に、リオンの肩がピクリとはねる。そして、リオンは泣きそうな笑みを浮かべて言った。
「正直怒りたいし、泣きたい。これ以上私の人生勝手に決めないでって叫びたい。そうするだけで何か変わるならそうしたいよ」
そこまで気持ちを吐露すると、リオンは深呼吸を一度して続けて言った。
「でも、それじゃ何も変わらないから」
「……別に泣いて怒っても構わないと思うけど」
「それは一昨日ルイスにぶつけたし、少しだけどルイスの本音も聞けたからまだ平気。それよりも今は未来を変えるために、私ができること探すことに全力を尽くしたいの」
そう言って、リオンは口を結んで聖典をギュッと胸に抱いた。そんな彼女の頭をリックがポンポンと撫でれば、リオンは泣きそうな笑みを返した。そして、リオンが手にしていた聖典を書架へと戻せば、リックは真っ直ぐ彼女の顔を見て問いかけた。
「で、聖典読んでみて、リオンはどう思った?」
「どう、かぁ……」
「気になったこととか、そういうの何かない?」
リックの言葉に、リオンは思案顔で天井を見上げた。そして、僅かに間を置くとポツリと言った。
「どうしてここまで外に興味を抱かせないようにしてるのか、理由が見えないのが気になるかな」
「穢れに触れないようにするため、じゃなくて?」
「でも、私は穢れに触れても尚、月巫女としてこうしているわけだし。それだけが理由とはちょっと考えにくい気がするの」
考えを整理するように紡がれたリオンの言葉に、リックもまた『なるほど』と顎に手を当てて考え込んだ。そんな彼にリオンは続けて言った。
「あとは、字が気になる、かな」
「字?」
「うん。この字、何となく見覚えある気がするの」
リオンの『字』という単語に、リックは戸惑った様子で目を瞬かせた。僅かに思考を巡らせると、彼は首を傾げながら問いかけた。
「他の古い本の字と似てるとか、そういう意味じゃないんだよね?」
「そういうのとはちょっと違うと思う。けど、どこで見たのか思い出せなくて……」
「そっか。あ、リオン、そろそろ移動しないと」
「え? もう、そんな時間?」
壁に掛けられた時計を見て慌てた様子のリックに、リオンも時計を振り返り見た。そして、それが指し示す時刻を確認すると、少々慌てた様子で自分のドレスに目をやった。そうして、汚れ等がないことを確認すると、リックと共に禁書庫を後にしたのだった。
図書館を出れば、廊下には行き交う神官や巫女、騎士の姿があった。そんな中、神殿の方へと向かう途中、リオンはリックを振り返り問いかけた。
「そういえば、リック。ルイスの具合はどうなんですか?」
「今夜まで大事を取るようですが、本人は至って元気ですよ」
「……本当に?」
笑いながら答えたリックに、リオンは疑いの眼差しを向けた。じとっと見つめるリオンに対し、リックは一瞬たじろいだあと、苦笑いを浮かべながら言った。
「本当です」
「でも、パチル様が病室に泊まるよう仰るくらい酷い熱だったんですよね? そんな簡単に良くなるものなんですか?」
「通常でしたら仰るとおりなんですが……」
リオンの指摘に対し、リックは困り顔で視線を明後日の方向へと向けた。それに対し、彼女の眼差しがより強くきつく細められる。『説明しろ』と言わんばかりの無言の圧力に、リックは頬を掻きながら言った。
「さすがに私から話すのは憚られるのですが……」
「病気か何か?」
「病気じゃなくて体質的なものですね」
はっきりしないリックの返事に、リオンは進めていた足を止めた。そして、くるりと彼の方へ体ごと振り返ると、眉根を寄せて言った。
「リック、それじゃわからないから、はっきり言ってください。護衛騎士の体調に関わることなら、私は主として知っておくべきだと思いますから」
揺らぎない真っ直ぐな彼女の眼差しに、リックは困り果てた様子で頭を掻いた。そうして、一呼吸置くと小さくため息をついて言った。
「わかりました。少々気は引けますが、彼は――」
***
「知恵熱ぅ?!」
同時刻、個室の病室に素っ頓狂な声が響き渡る。それに対し、ルイスは小さく息をつきながら言った。
「エマ、声がでかい」
「あ、ごめんなさい。あまりにも予想外過ぎてつい……」
ベッドサイドに腰かけているエマは、彼の指摘に慌てた様子で口元に手をあてた。そうして、少し間を開けると訝しげな顔で、恐る恐る彼に問いかけた。
「でも、本当に? 冗談で言ってるのではなくて?」
「体調崩してるのが前提条件にはなるが、事実だ」
「……ちなみに、ルイス様。その知恵熱の原因は……?」
淡々と告げるルイスに、エマがそう問いかければ、彼は視線を気まずそうに逸らした。そうして何とも言い難い空気を漂わせたあと、ポツリと言った。
「一昨日の話、お前はリオンからどの程度聞いてるんだ?」
「え? 昨日、話したときに一通り聞きましたよ。ルイス様らしくない告白含めて。月が綺麗だからっていうの、告白……なんですよね?」
「……そこまで喋ったのかアイツ……」
真顔で淡々と答えるエマの返答に、ルイスは大きくため息をつき、頭を抱え込み唸った。耳まで真っ赤に染め上げた彼にエマは苦笑しながら言った。
「正確にはルイス様に守ってくれる理由を聞いたってところまではリオン自身が。そこから先は、私の誘導尋問に引っかかってポロッと漏らしちゃっただけよ」
「……お前、主に誘導尋問仕掛けるなよ」
「あら。主でもあるけど、私はあくまでも友人としてだもの。だいたい、そんなことを言ったらルイス様だってそうでしょう?」
にっこりといい笑顔を浮かべて首を傾げるエマに、ルイスは言葉に詰まった様子で小さく呻いた。そんな彼に、エマは真顔で問いかけた。
「で、それが私の質問とどう関係が?」
「……その告白が今回の知恵熱の原因なんだよ」
心底気まずそうな様子で視線を明後日の方向へ向け、ポツリとルイスはそう言った。そんな彼の言葉に、エマはたっぷり間を置いてから『はい?』と呆気に取られた様子で声をあげた。
「ま、待って。告白で知恵熱? それこそ冗談よね?」
「子供の頃にあったことが原因で、許容量超える事柄に直面すると熱が出る体質なんだよ」
「告白程度で超えるものなんですか? 普段あれだけ対処力あるのに?」
「リックと違って、色恋に関する耐性なんてこれっぽっちもないんだ、オレは」
大真面目な顔でそう問いかけるエマに、ルイスはぶっきらぼうに言った。そんな彼の言葉にエマが絶句していると、ルイスは不貞腐れたように言った。
「笑いたかったら笑え。そのくらい情けない話だという自覚はしてる」
半ばヤケクソ気味に告げられたその言葉に、エマは目を瞬かせた。しかし、それでも彼女が彼を笑うことはなく、代わりに微笑みを浮かべて言った。
「笑いません。だって、それだけ真剣にリオンに向き合ったってことでしょう?」
「オレは女心なんてものわからないし、戦う以外はたいした取り柄もない。そんなオレがリオンにしてやれるのは、せいぜい真摯に答えることくらいだからな」
「でもそれは今、リオンの確かな支えになってるわ。だから、ありがとう、ルイス様」
そう言って、心から嬉しそうに目を細めたエマを見て、ルイスは微かに瞠目した。そして、照れくさそうに頭を掻きながら、『そうか』と言って視線を逸らした。
そんな彼に、エマは一つ大きく深呼吸をした上で問いかけた。
「それでルイス様。少し脱線しちゃいましたけど、このままお聞きしても?」
「ん? ああ、今のところ人の気配もないし、問題ない」
「じゃあ、お聞きしますけど。ルイス様はライル様のこと、本当に何も覚えてないんですか?」
エマが問いかけたのは、一昨日の夜、リオンの乱入により中断された会話の続きだった。それはルイスも想定内だったのか、ほとんど間を置くことなく口を開いた。
「覚えてない。オレが知ってるのは騎士団に残っている記録の知識だけだ。オレとリックが騎士になりたての頃に上官だったことや、リオンの護衛騎士を六年に渡って務めていたこととか、な」
「じゃあ、ルイス様が護衛騎士になる前の、ご自身の五年間については?」
エマの質問に対し、内容を図りかねたのか、ルイスは訝しげな様子で彼女をしばし見つめた。そんな彼に、エマは重ねて言った。
「聖湖でのお茶会のこと、覚えてませんか?」
「聖湖での茶会? 何の話だ?」
「やっぱり、覚えてないんですね。その頃のリオンとのこと」
悲しげに小さく息をついたエマに、ルイスは驚愕に目を大きく見開いて固まった。しばし沈黙した後、ルイスは戸惑った様子で問いかけた。
「ちょっと待て。護衛騎士になる前から、リオンとオレが知り合いだったって言うのか?」
「そうです。ライル様が当時のリオンのために連れてきた騎士様が、ルイス様とリック様で……」
「なんだってまた? そう会えるものじゃないだろ」
そんな彼の言葉に、エマは僅かに視線を彷徨わせた後、慎重に言葉を選ぶように言った。
「リオンは今でこそ感情豊かだけど、昔は人形のように無感動な子だったのよ」
「……すまない。記憶がないせいか、全く以て想像がつかないんだが」
「ライル様と私だって、当時のリオンの変化に驚いたくらいだもの。信じられなくても無理ないわ」
目を閉じ、こめかみを押さえながら唸るルイスに、エマは苦笑した。そして、郷愁の色を帯びた視線を落として続けた。
「だけど、ライル様が、彼と親しげな様子のお二人を引き合わせなかったら……。ルイス様が尖ってなかったら、今のあの子はいなかった。それは事実よ」
「尖ってってどういう……、あ」
エマの言い方に、ルイスは一瞬眉を寄せたが、何かに気付いたように瞠目すると、額に手を当て唸りながら言った。
「エマ、頼む。後生だから当時のオレの発言云々忘れてくれ、今すぐに」
「え、嫌ですよ。せっかく取り戻した記憶を忘れるなんて。それも反抗期真っ只中のルイス様とか、あんな貴重なもの忘れたら勿体ないじゃないですか」
「お前は悪魔か……?」
そう言って、恨みがましい視線を送るルイスに、エマは楽しげな口調とは裏腹に寂しげに笑った。そんな彼女の笑みに、ルイスは小さく息をつくと視線を逸らして言った。
「それが、昔のリオンにとってもオレが必要だっていう理由か?」
「そうです。それからだったのよ、リオンが自分から人と話すようになったのは」
「しかし、わからないな。リックなら昔から人当たりよかったからわかるんだが……」
納得いかない様子で首を傾げるルイスに、エマは遠い目をして静かに言った。
「リオンが望んでいたのは今も昔も変わらないのよ。リオン個人に対してありのまま接してくれる誰か。だから、最初から月巫女として扱っていた私達じゃダメだったの」
「……つまり、反抗期だったオレはリオンをそう扱わなかったと?」
「端的に言うとそういうことです」
苦笑いを浮かべたエマに対し、ルイスは額を押さえて嘆息した。そして、僅かに顔色を失いつつ顔を俯かせれば、彼は愕然とした様子でポツリと呟いた。
「確かに当時、納得できないものには、団長だろうが何だろうが噛みついてた。だから、月巫女というだけで年下の女の子を敬ったかと言われたら、想像に難くないんだが……」
「実際、よくヤヌス団長に噛みついてましたね」
クスリと微苦笑を浮かべるエマに、ルイスは口元を引き攣らせて呻いて言った。
「正直オレにとっては抹消したい過去なんだが……」
「絶対忘れてなんてあげませんよ。私は一人で二年も四苦八苦してたのに、ルイス様があっさりリオンの反応引き出したの、正直悔しかったんですから」
窺うように振り返ったルイスに、エマは両肩を竦めて見せながら、すまし顔でばっさり切って返した。そして、病室の窓の外に広がる森――否、その奥にあるはずの聖湖を見つめながら静かに言った。
「誰の言うことも、ただただ聞くばかりだったあの子が、初めて『いやだ』って主張したときもそう。きっかけはルイス様が、敬語でリオンに話したときだったわ」
「わざわざ敬語を使おうとしたのに拒否、か。リオンらしいと言えばらしいけど、当時のオレは相当戸惑ったんだろうな、それ」
その頃の自分を想像したのか、ルイスが苦笑いを浮かべて告げれば、エマもまた苦笑しながら言った。
「ええ。それはもう。だけど、最終的には昔もルイス様が折れてたわ。それがあってから、あの子はいろんなことへ興味を示すようになったの」
「そうなのか?」
「お二人から外の話を聞いたこともあって、ライル様も私もそれはもう対応に難儀したのよね」
懐かしそうに紡がれたエマの言葉に対し、ルイスは一瞬ぴしりと固まり、その動きを止めた。そして、唖然呆然とした様子でエマの方を振り返り、問いかけた。
「今なんて言った? オレとリックが外のことをリオンに話したって?」
「ええ。リオンに問われて仕方なく、ではあったけれど」
エマがルイスに返したのは肯定の言葉。そんな彼女にルイスは戸惑いに翠緑色の瞳を揺らしながら言った。
「オレはてっきりライル=フローレスが話したものだとばかり……」
「あのとき決断を下したのはライル様だったから、ある意味そうなるわ。でも、実際に話をしたのがお二人だったのは間違いないです」
真顔でそう答えた彼女に、ルイスはしばし考え込んだ後、当惑した様子で言った。
「だが、当時のオレたちだって、そういう話を神殿内、特に月巫女の前でしないように、とは言われていたはずだ。いくら何でもそれは……」
「ええ。だから、お二人ともリオンに問われて戸惑っていたし、私達も戸惑ったわ。だけど、最終的にライル様は話すことをよしとして、お二人はそれに従ったのよ」
「……ちなみに、そのとき話した内容はどんなのだったんだ?」
そんな問いかけに、エマは記憶を探るように天井を見上げながら言った。
「そうね。確かルイス様は、外にはたくさんの人がいること、悪人もいるからみんながみんな幸せってわけじゃないって感じのことを言ってたかしら。リック様は補足で大半の人は幸せにしてるって言ってた気がするわ」
「……詩の内容と一致すると言えば一致する、か」
「詩?」
ルイスの言葉にエマは不思議そうに首を傾げた。そんな彼女に対し、ルイスは『こっちの話だ』と、緩く首を横に振って言った。
「しかし、話を聞いていると、ライル=フローレスの行動が理解できない。リオンを浚って、どうこうしようと考えるような人間には到底思えないんだが……」
「それは私も同感です。恐らく、聖典の十巻……いえ、月神の花嫁の件がきっかけだったんじゃないかって、私は思ってるわ」
「去年存在が明らかになった聖典の十巻と月神の花嫁、か……。確かに気になるところだな。オレの方でも探れるだけ探ってみるか」
考え込む仕草を見せてそう言ったルイスに、エマは小さく頷いたあと、彼に何かもの言いたげに見つめた。その視線に気付いた彼が訝しげな顔で首を傾げれば、エマは意を決した様子で口を開いた。
「ルイス様はリオンとのこと、これからどうするおつもりなんですか?」
「どう、か。答えが出ていない、というのが正直なところだな」
「告白までしたのに? 理由によっては引っぱたきますよ?」
苦笑を見せたルイスに、エマは半ば怒りを露わに睨めつけた。そんな彼女にルイスは、苦笑いをそのままに言った。
「元々気持ちを伝えるつもりはなかったんだ。リオンの願いを叶えることと、オレが傍に居続けること。それらは恐らく両立不可能だからな。それなのに、オレの気持ちを伝えたところで辛い思いをさせるだけだろ?」
「あなた、まさか死ぬ気……」
「まさか。ただ本気で動いた場合、相手は国そのものだ。一騎士でしかないオレが何の罰もなく済むとは思えない。少なくてもリオンの傍には居られないだろうな」
エマが言った『死』に対し、ルイスは手を振って否定した。しかし、自嘲気味に紡がれた彼の予測する未来の可能性に、エマはあからさまに顔を顰めて言った。
「今もそのおつもりでいるんですか?」
「……アイツの願いを叶えてやりたいとは思う。けど伝えてしまった以上、勝手に消えるわけにはいかないから、最善と思える道を探す、そのつもりだ」
「そう……。ならいいわ」
そう言って、エマは小さく息をついた。しかし、『ただし』と前置きすると、彼を真っ直ぐ見つめて言った。
「もしリオンを一人にして泣かせたら、ルイス様と言えど許しませんから」
真剣な顔でそう言い切ったエマと彼女の言葉に、ルイスは一瞬目を瞬かせた。が、彼女の言わんとする言葉を理解すると、彼は口元に笑みを浮かべてしっかりと頷き返したのだった。




