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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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それぞれの傷跡

梵天丸が俺の傍から離れようとはしなかった為、台湾まで連れて来てしまった。

そして台湾に着いてからも、梵天丸は俺から離れようとはしなかったのである。

久爺、鴉には顔色を、伺いながら接していたが、熊と雉麻呂には近づく事すら拒否し、俺の後ろに隠れていた。

そんな時、新たに付き人にした李旦が梵天丸の近くに来て話をする。

「なぜ?人を恐れるのですか?」

李旦が梵天丸の前で膝を付いて目線を合わせる。

「・・・!」

梵天丸は驚いて俺の後ろに隠れる。

「言葉がまだ分かりませんか、ならば・・・こんにちはぼんてんまるさま」

李旦はあまり流暢ではない日の本の言葉を使う。

梵天丸は俺の後ろから顔を少し出して、恐る恐る李旦を見る。

「・・・言葉しゃべれるの?」

梵天丸は李旦に話しかける。

「ええっ、すこし、しゃべれます。ぼんてんまるさまは、ひとがきらいですか?」

李旦は梵天丸を見て話す。

「ぼく、片目が無いから・・・」

そう言って俯く梵天丸。

「そうですか、わたしとおなじですね。」

そう言って微笑みながら前髪を退かす李旦。

「・・・!」

梵天丸は李旦の左顔を見る。其処には深い傷跡で額から頬にかけて抉れて、左目は潰れていた。

「これは過去に犯した過ちの代償として出来た傷ですが、この傷を見る度に私の選択は間違っていなかったと思えるのです。梵天丸様の無くなった目にも、きっといろんな意味があるのだと思いますよ・・・」

李旦は微笑みながら梵天丸に話しかける。

「かかさま・・・」

梵天丸は俺を見る。

「そうね、李旦の言う通りかもね。今の言葉の意味分からないなら、貴方は暫く、李旦と共に言葉を教え合いなさい。きっと貴方と李旦、双方の為になると思うわ」

俺はそう言って梵天丸を李旦の前に押し出す。

「わかりました・・・かかさまの言い付けを守ります!」

梵天丸が俺に振り向き、話をする。

「ところで李旦、それは・・・倭寇から離れる時に付いた傷ね」

俺は李旦を見つめて話す。

「やはり、お市様には知られておりましたか・・・」

そう言って、顔を伏せる李旦

「ええっ、少し調べさせてもらったわ。あの決起を主導した手腕が、その辺の民に出来る芸当ではないもの」

そう言って冷たい視線を李旦に向ける

「・・・・・・」

李旦が俺を見つめながら沈黙する。

「どうして倭寇を離れたの?」

俺は李旦に問う。

「十字軍と手を組む話を私は拒否しました。それで仲間から裏切られ、この傷を負いました。生死を彷徨う怪我を負って、行き倒れていた私を、弱い者と私が散々馬鹿にしていた民に助けられたのです。そして養生していた時に十字軍、倭寇の侵略に遭い、私を助けてくれた民も巻き込まれ、亡くなりました。私は自分の行ってきた事が何と愚かな事をしていたのだと思ったのです。そんな時、お市様が十字軍、倭寇を破り、この台湾とルソンを開放して頂いた。そして織田の政策を聞き、触れて私はお市様の力になりたいと・・・」

李旦は自分の思いを話していくうちに、徐々に涙声になり、言葉に詰まる。

「もういいわ、貴方が今まで行った悪行は、けして消えるものではないわ。生きてる限り、償いなさい!弱き民を守りなさい!大事になさい!それが貴方の贖罪よ!いいわね、無闇に死のうとするのは・・・私は許さないわよ」

そう言うと俺は李旦を睨む

「・・・心に刻みます」

李旦は涙を流し、頭を地面に落としていた。


明の皇帝万暦帝は織田に対して台湾、ルソンの返却要請をしていたが、織田からの返答は

「台湾、ルソンは明国が十字軍に譲渡した領地で、織田が十字軍を破って得た領土である。明国からの返還要求は聞けない」

ときっぱりと拒否した。

これに怒りを露にした万暦帝は、北方の守備に着かせていた戚継光と四川や広西方面の少数民族の反乱鎮圧をしていた劉顕、劉綎親子を台湾攻略の為に派遣する事にする。

福建沿海に兵と船を集める三人の男が対策を話し合っていた。

「この辺はまだ異国の侵攻の傷跡が癒えておらんな」

戚継光が話す。

「そうですな。それに台湾、ルソンを攻略せよとは・・・」

劉顕が苦しげに話す。

「船が足りませぬ。兵がいても運べませぬ」

劉綎が追従して話す。

「それに、日の本の水軍は・・・強い」

戚継光が暗い顔をして話す。

「向こうから手を出してはこないのですか?来れば返り討ちにして、船を分捕り、攻めれるものを!」

劉綎が怒鳴るように話す。

「無いな、日の本は大陸には興味が無い。今はだが・・・」

劉顕が息子を馬鹿にしたような目で見ながら話す。

「しかし、あの日の本と争わねばならんとわな。行っている政策は古今東西で例の無い政策だ。力ある者には、けして考えられる政策ではない」

戚継光が二人を見ながら呟く。

「しかし日の本を治めた織田の力は、凄いと言わざるおえん。特に二人の人物が・・・信長と市」

劉顕が話す。

「あの異国の軍と倭寇を殲滅した力、認めざるおえませんな」

劉綎が付け足すように話す。

「それに台湾、ルソンは異国に譲渡した領地。その異国を追い払い、領土を勝ち取った織田に返還を迫り、断られたからと攻めるとは・・・」

戚継光は苦虫を噛んだような顔をする。

「それにあの女のやる事は、策とは認めたくない物だしな」

劉綎は苦通を浮かべて話す。

「陛下は何故、あのような倭人を此処に送り込んでいたのか。理解に苦しむぞ!」

劉顕が履き捨てるように言い放つ。

そんな会話をしていた時、一人の女が三人の前に向かってくる。

「将軍?私の悪口でも仰っていたのかしら?」

そう言って、妖しく微笑む女。

「いえ、小少将殿の策を皆で褒め称えておりました・・・」

戚継光は瞬時で笑顔に変えて話す。

「貴方達は知らないでしょうけど、あの女の弱さを付けばいいのよ・・・」

そう言って、微笑む小少将を見た三人は、不安を消す事が出来なかった。

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