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飛び降りた!


 エレベーターホールには、都合五つもケージがあったが、テンキーがそばにあるエレベーターは、隅の一つだけだった。


 そこでまた番号を打ち込むと、普通に扉が開いた。

 ……行く先のボタンは一つだけどな。


「い、いちいち驚くな」


 こんな際だが、おれはまたブルジョアぶりに驚く羽目になった。

 問題の十五階まではすぐだったが、ケージを下りるとそこは狭い廊下があるだけで、すぐ前にドアがある。

 おそらく最後のこれは、中の人が開けるか鍵がないと、勝手に入れない仕組みだろう。


 早速チャイムを鳴らしたが……応答なし!


 その代わり、屋内でどったんばったん暴れる音が微かにする。

 まさかとは思うが、あの超人風の女が夕霧を襲っているんじゃないだろうか?




「や、ヤバいっ」


 周囲を見渡し、右奥にバルコニーに出る窓付きのドアが一つだけあるのを見つけた。

 そこも鍵がかかってたら終わりだったが、幸い普通に開いた……ただし、ここから先は、本当に不法侵入になるけど。


「――誰なのっ!?」


 一瞬だけ迷ったが、夕霧の声が微かに届いて、俺は決断した。

 これであの子が殺されたら、後悔しきれないしな。


「い、いざとなれば謝るさっ」


 意を決して、そのまま外に出る。

 外から見てわかったが、このフロアはどうやら二階分の吹き抜けとなっていて、いわゆるメゾネットみたいに、中のリビングにまた階段が見える。


 そのままバルコニーを回って、俺の家が見える方へ移動した。外から見ても、階段の上の部屋にいたら見えるわけないけど、幸い、見つけた!

 巨大なテレビが置いてあるので、ここも客間とかそんな場所だろう。


 鍵が破壊されたサッシの向こうに、夕霧とあいつがめまぐるしく姿勢を入れ替え、取っ組み合っていた。


 しかも、なぜか夕霧の方はレオタード姿!




「夕霧っ」


 中へ飛び込んだ俺が叫ぶと、光の速さで彼女がこっちを見て、途端に驚愕の表情を浮かべる。


「誠司さんっ」

「――ええと」


 いや、なんで名前で呼んだんだろう。

 別に気にしないけど、普通は呼ばないよな、名前では。

 ところが、これが悪かったらしい。


 あのクンクン女が「隙ありよっ」と叫ぶと、夕霧を捕まえたまま、力任せに体勢を入れ替え、壁に叩き付けたのだ。


 ズシンッとヤバげな音がして、壁にヒビが入り、明らかに足下が揺れた。

 なんという馬鹿力っ。


 だが、夕霧はちょっと呻いたくらいで、逆にかっと目を見開いた――うおっ、アレだ、アレこそ、俺が見間違いだと思っていた目だ。


 両眼の色が、明らかに普通じゃないっ。


 クンクン女もさすがに驚いたのか、刹那の間、動きが止まった。

 仕返しとばかりに、今度は夕霧が腕の力だけで投げ飛ばした。


「出て行って!」

「わっ」


 相手じゃなくて、俺の方が声が出た、声が。


 なぜなら、彼女が軽々ぶん投げた女は、嘘みたいなスピードでかっ飛び、俺の横をすっ飛んでいった挙げ句、鍵が破壊されたアルミサッシの窓を粉々にして、バルコニーに転がり落ちた。


 当然、言語道断な破壊音がした。


 普通の女の子なら、そもそも投げるのさえ不可能だと思うのにっ。

 ただ、投げられた女もさして効いてないのか、すかさず俺を見上げ、女がニッと笑った。


「邪魔して悪かったわね」

「いや、あんた――」


 話しかけようとしたのに、それまでだった。

 こいつ、続いてバルコニーに出ようとした夕霧より先に、その場でジャンプして外に消えたのだ。手すりをあっさり越えて。




「マジかよっ」


 慌てて俺も追いかけ、手すりから外を見たが……既に女は地上に着地して、そのままどこかへ走る去るところだった。

 そう、間違いなくここから飛び降りたのだ、あいつっ。


 開いた口が塞がらないとはこのことだが……即座に俺の横に並んだ夕霧は、不思議なことに、顔をしかめただけだった。

 少なくとも、俺ほど驚いた様子ではない。


 あと、間近で見るレオタード姿に、俺はたちどころに夕霧の方が気になりはじめた。我ながら、めちゃくちゃ現金である。

 でも……何をしてたのか、汗かいてて妙に色っぽいし、レオタードが薄いのか、なんかうっすら胸の先端とかわかるし……そりゃ気になるさ。


 おまけに、逃げた女は放置で、夕霧が俺の手を握るしな。




「もしや……助けに来てくれたの?」


 もう戦闘中の厳しい目つきじゃなく、潤んだ瞳で見られた。

 でも普通は中坊妹みたいに、怪しむのが本当の気もするけど。


「ま、まあ……返事ないんで慌てて上がってきただけ」


 誤解のないように、俺は早口で用件を告げた。

 万一にも誤解されたら、たまらんからな。

 でも夕霧は妹みたいに胡散臭そうに見たりせず、ただ潤んだ瞳で「そうなの……嬉しい」と言ってくれただけだった。


 こそっと見たけど、今はちゃんと瞳も元に戻ってるしな。


「……こ、怖くなかった?」


 自分の動揺を隠すために問うと、夕霧はなぜかきょとんとして――次の瞬間、いま思いついたように抱きついてきた。


「こ、怖かった、怖かったです、誠司さんっ」


 めちゃくちゃわざとらしかったぞ、おい! うちのセアラとタメを張るほどに。

 まあ、柔らかい膨らみがこっちの胸に思いっきり押しつけられていたせいで、そう思ったのはだいぶ後だったけど。


 うわぁ……こんなに女の子の胸を感じたの、初めてかも。


レビュー、感謝です。

評価やブクマなどくださった方達も、ありがとうございます。

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