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第一次制空戦闘~大敗のNRC~ (後編)

「なんなんだこの胸騒ぎは……」


 NRCの超大型機の12番艦の指揮官は、治まらない胸騒ぎに恐怖を感じていた。

 何かが来る気配を、軍人としてひしひしと感じていた。


 観測員からは特に反応がなく、周囲には敵影はないとされていたが、確実に近くに敵がいると考えていた。

 要因としては、度々報告が来る「海上に巡洋艦アリ」の報告。


 巡洋艦は、まばらに散らばってこちらの進路を伺うがごとく配置されており、明らかにこちらの位置と進路を捕捉されていた。


 また、巡洋艦は相互に通信を行っており、内容は不明だが、情報共有している点についても指揮官は気になっていた。


 何か、とてつもない勘違いか過ちかを我々は犯している……指揮官は超大型機内でただ一人そう感じていた。



 フォォォォォォオオオオオオオオオオオオオァァァァァァ


「何の音だ!? 上!?」


 防音が十分になされている超大型機の機内にすら響く謎の音に指揮官は驚く。

 

 それは、彼にとって聞きなれない音であるが、レシプロ機独特のダイブ時の音である。

 プロペラによって風を切りながら落下するため、このような音を発する。



「防御エンジン始動! 進路右っ! 回避!」


 指揮官の声が艦内に響きわたった次の瞬間、前方にいた旗艦が閃光を発する。


「くっ 一体なんだ!?」


 観測員に状況を確認する。


「上空からの攻撃です! レシフェの戦闘機! 風車で飛んでます!」



 フォォォォオオオオオオオオオン

 

 ボゴオオオオオオオ


 さらに、すぐ近くにいた10番艦も上部が突然大爆発を起こした。


「10番艦も食われた!」


「総司令部旗艦より通信! 我操舵不能! 我操舵不能!」


 12番艦はいまだ無事であったが、艦内は大混乱に陥っていた。


「言わんこっちゃないっ! 弾幕! 隔壁防御!」


 指揮官も感情的にはなっていたが、最低限の指示を出す。

 12番艦は真っ先に弾幕を展開し、回避行動をとる。

 編隊からは離脱する方向に舵をとった。


 他の無事な艦隊も同様に回避行動をとる。

 旗艦は燃え上がりながら下降を続けていた。


「こんなの……信じられません!」


「何がだ!」


「相手の機体速度が尋常ではありません!」


 観測員はサルヴァドールを捕捉したが、すぐに見失ってしまった。

 それもそのはず。


 ダイブブレーキを併用したとはいえ、サルヴァドールは800kmオーバーで突撃し、一撃離脱をして退避していった。


 このような速度で動く存在は、極一部の国家にある小型機しかなく、それも少数しかない。

 それが集団で飛んでくるというのは、これまでの世界の常識に反していたのだ。


「最初の攻撃、何機見えた! うわっ」


 観測員に確認を求めようとした時、10番艦が大爆発を引き起こした。

 10番艦は爆撃型であったため、燃料に引火しただけでなく、積載した爆弾にまで火の手が回ったのだった。


 爆発の爆風で機が揺れ、体制を崩した指揮官は、体制を立て直して再び観測員に確認を求める。


「旗艦を攻撃したのは6です! 10番艦を襲ったのも同数で――うわあぁ」


 再び機内の窓に閃光が降り注ぐ。

 正面にいた6番艦、4番艦、3番艦に攻撃が加えられた。


「今こちらから見えたのは20近くいたぞ、全体で30は軽くいるというのか! にしたって、なんて速度だ! 小型迎撃機を全機発進させろ! 弾幕薄い! 付近の艦隊なぞ構うな! 高度を下げろ!」


 指揮官の怒号が艦内に響き渡る。

 

 その姿を見ていた副艦長は、もう少し指揮官の言葉を真面目に聞いておくのだったと後悔した。


「形状から2種類います!」


 観測員はベレンとサルヴァドールの形状の違いから、敵が2種いることを見抜いた。


「8番艦から通信。敵の攻撃武器は20mmの波動連弾だそうです! 曳光弾から、それを2門以上装備している模様!」


「20mm波動連弾だと……そんな重装備を風車付きがしていると」


 20mm波動連弾は、この世界では対空機銃としては大口径の部類に入る。

 9mm、13mm、20mm、30mmが世界的に用いられる口径であったが、その中でも2番目に大きい。


 サルヴァドールにはこの20mmを4門搭載していたが、超大型機に致命的なダメージを負わせるだけの威力は十分にあった。


 超高圧ガスで飛ばすため、音速の3倍の速度を飛びながら、古代の世界に存在した20mm機関砲と違い、火薬式でいう弾頭のみで構成されるため、弾丸自体かなり大きく威力も非常に高い。


「速度のデータでました……ありえません……800km近くでています!」


 観測員は、攻撃からの観測データからサルヴァドールやベレンの速度の分析をしたが、そのデータのあまりの数値に、データ表を持つ手が震えていた。


「エンジンの新造にでも成功したのか……夢なら醒めてくれ……」


 指揮官は、次々と来る報告に頭痛がした。

 レシフェは超大型機をいとも容易く破壊可能な航空戦力をなぜか保有している。

 航空戦力の大半を奪ったはずの状況で、NRCの超大型機部隊を壊滅させうる戦力がある。

 

 そんな、あるはずのない現実をいまつきつけられている。


 バゴオオオオォォォォォン


 爆発音と共に爆風によって艦内が振動する。


「うわ! 味方機を巻き込んだ!」


 6番艦も爆撃型であったが、爆発により真上付近で回避運動をとっていた19番艦を巻き込んだ。

 さらに10番艦、11番艦、13番艦が、新たな攻撃によって爆発、炎上する。


「ぬ? 7番艦と9番艦は何をやってるんだ!?」


 指揮官は、艦内から2機の超大型機が妙な行動をおこしていることに気づいた。

 2機はそれぞれ、レシフェの超大型艦を攻撃していた。


 一方、レシフェの超大型機は2機共武装解除されており反撃不能であった上、なぜか回避する様子がなかった。


「バカ共め……戦場で恥を晒すとは……」


 指揮官は回避しない理由を知っていた。

 なぜなら、回避できないように操縦系に細工をしていたからである。


 本当の意味での、肉の盾もとい肉の壁であり、この状況を12番艦の指揮官は気に入っていなかった。


「副艦長。離脱して命令違反になると思うか?」


 指揮官は副艦長に向けて、状況から緊急離脱が可能かどうか尋ねる。

 この状況では、全滅は時間の問題であるが、今なら離脱すれば生き残れると予想していた。


「既に旗艦は消滅。旗艦が消滅した際に指揮権が譲渡されるはずの3番艦も、爆発炎上し操舵不能」

「編隊行動は不可能な状況」

「これで離脱して軍法会議にかけられたとしても、敵前逃亡で銃殺刑になることはないかと……」


 ハンカチで汗をぬぐいながら副艦長が応える。


「なら、この行動の全責任は私がとる。我々12番艦は、このまま雲を利用して離脱する! 反転160度! 艦載機を呼び戻せ!」


「艦載機を呼び戻します!」


 12番艦の指揮官は、たった1機で戦場を離脱した。




~~~~~~~~~~~~~~~


 一方、こちらはレシフェ王国空軍。

 攻撃と編隊の組みなおしを行って、次々に超大型機を落としている。


「くそっ! 奴ら同胞を!」


 レンゲルは、7番艦と9番艦が自国の超大型機を攻撃し続ける状況に焦っている。


 超大型機内には、最低800名の乗組員が搭乗可能であるが、人質として用いるために艦内にはさらに大量の人間がすし詰め状態の可能性があった。


 エスパーニャに出兵して拘束された中には、レンゲルの後輩や知り合いなども多くおり、どうしても彼らを救いたかったのだ。


 しかし、レンゲルは軍人として、自分をなんとか落ち着かせながら指揮をとり、7番艦と9番艦の攻撃部隊を編成して突撃させた。


 ネオの方は、編隊を組みなおすためのポイントマンの位置を守っていたが、下方の状況を常に気にしていた。


 単眼鏡で下方を確認しているとあることに気づく。

 ベレンの1機が、NRCの超大型機に搭載される艦載型の迎撃機に追われて必死に逃げ回っていた。


「よし、待ってろ!」


 ネオは、レンゲルに「一旦降下して支援攻撃をする」と信号を発すると、即座にダイブした。


「こっちに来るなぁ! 誰か助けてっ!」


 ベレンに搭乗していたのはまだ10代の女性パイロットであった。

 彼女は、超大型機に何とか攻撃を加えたものの、Gを気にして即座に上昇しなかったために小型迎撃機に追われることとなってしまったのだった。


 小型迎撃機は、攻撃を回避している間に保有エネルギーを失って低速になったベレンを追うぐらいなら、可能であった。


 小型迎撃機のパイロットはゆっくりと照準を定め、ベレンを捕捉し、今度は確実に命中する距離から攻撃を加えようとしていたが……


 上空から先ほどから何度も聞こえる降下音がこちらに向けて響いてくるのを感じた。


 音がする真横の方向を振り向いた時には遅かった。


 そこにはルクレールの姿があった。

 ネオは、冷静に引き金を引いて敵のコックピットだけを完璧に射抜いた。


 エンジンに命中させて爆発されると、ベレンが巻き込まれる恐れがあるためであった。


 すぐさまベレンにルクレールを近づかせ、上昇してベレンの部隊の指揮官と合流しろと信号を送る。


 相手の女性パイロットは涙でゴーグルが満たされていたが、ネオに敬礼するとすぐさま上昇していった。


 その姿に安堵しつつも、他にもそういった者がいないか、すぐに周囲を警戒する。

 すると、小型機はどれもこれも空戦理論など無視した動きをしているため、ベレンやサルヴァドールを追えないでいたことに気づく。


 ネオはその状況から、一番近場にいる小型機を仕留めるため、方角を合わせ進んだ。


 次の瞬間、ネオが向いている正面のやや遠くで3つの大きな閃光が発生した。

 

 7番艦と9番艦に攻撃が加えられた様子であったが、

 後一歩間に合わず9番艦が攻撃し続けていたレシフェの超大型機の1機が爆散したのであった。


 単眼鏡でその方向をみたネオは、大量の人間がレシフェの大型機の残骸と共にボロボロと落ちていく姿を見て思わず吐き気がした。


 同時に尋常でない怒りを感じ、顔面に大量の血が巡って顔が熱くなる感覚を覚えた。


 ネオはそのまま2機の小型機を撃墜。

 周囲を見渡すと残りの小型機は4機。


 味方の援護のため、それらも迎撃することとした。


 ネオが2機の小型機を撃墜するまでの間、次々に超大型機が撃墜されていった。


「超大型機は、あといくつだ?」

 

 ネオは単眼鏡で周辺を見渡すと、超大型機は残り5機となっていた。

 

 迎撃機は4機、超大型機は5機である。


 レンゲルとサントスの指揮はまだ続いているようで、サルヴァドールは何度もダイブ攻撃を繰り返している様子なのが音から判断できた。


 ベレンの部隊はさきほどの小型機を2機迎撃する頃には見えなくなっていたが、恐らく燃料の問題でサン・パウロに帰還したと思われる。


 ネオとしてはあの女性パイロットが無事に辿り着いていればいいなと思った。


 最終的にネオは小型機を4機全て撃墜することに成功。

 この時点でネオの撃墜数は小型機のみであるが、女性パイロットを救うために攻撃した1機と、それ以外が6機の計7機であった。


 特に数は気にしていなかったが、自らの行動として覚えておくこととした。

 小型機を迎撃した後は、レンゲル達がいるであろう方角へ他のサルヴァドールと共に合流した。


 その時にはすでに5機の超大型機全てが撃墜されており、一行は周囲に打ち漏らしがないか帰りの燃料が保つ間、索敵することとした。


 海上では王国海軍も索敵しており、信号で状況を伝えている。


 墜落した超大型機の中には、不時着による着水に成功した敵機が数機いたが、王国海軍の巡洋艦が包囲していた。


「まー救助はするんだろうな……」


 包囲する姿を見て、ネオはそう呟きつつ索敵を続けたが、行動限界になっても周囲に敵影は発見できず、王国海軍も周囲に敵影はナシとして一行は帰還した。

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