実証用ジェットエンジン完成(前編)
今日は事情により18時頃に後編を投稿します。
すみません。
「うおおおおっ。始めて来たがなんつー豪華な設備だッ! この工廠のガレージだけで、ほぼ全ての開発が行えるのか……予算の具合が全然違うっ」
ダヴィ達、第七研究開発室のメンバーは始めて見る航空工廠の設備に狂喜乱舞していた。
海軍工廠の中で第七研究開発室は潤沢な予算がかけられているわけではなかったが、施設などは他の研究室と同レベルのものを用意されていた。
だが、花形の王国空軍とは、やはりその質に大きな隔たりがあったのだ。
航空工廠は、風洞実験室など全てのものが揃っている一方で、海軍工廠ではドックなどと工廠自体が離れていたり、開発予定の製品の製造は、近場の町工場のような場所に委託することとなっていたり、1つの施設で完結するということがなかった。
「技術中尉。とりあえず、君達にはみてもらいたいものがある。」
「ダヴィでいい。どうせ、ここでは階級なんて意味がない。他の奴らは俺の部下だ。そいつらも名前で呼んでやってくれ」
「わかった」
ネオはエンジン開発班とタービン開発班の者達も呼び出し、ダヴィ達をいつもの設計会議室に案内した。
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「さて、これが今から開発に参加してもらうジェットエンジンだ」
ネオは実証試験のためのターボジェットエンジンの図面を切り出す。
とてもシンプルだが飛行を行うためではなく、ジェットエンジン自体の技術を確立するものであり、現在誠意製作中であった。
「こんなのすぐ出来るだろ。何が問題なんだ?」
ダヴィの言葉にタービン開発班のリーダーはため息を吐いて肩を落とした。
「圧縮を行うコンプレッサー部分などは、エンジン開発班の力によって熱や圧力に耐えられる構造を作ることは出来ている」
「じゃ、タービンか。国税を潤沢に投入されていながら、こんな簡単なモンすら出来ねえとはッ。国立なんたら研究所別室の名が聞いて呆れる」
ダヴィの言葉にタービン開発班は何か反論しようとして一度立ち上がるも、ダヴィの鋭いにらみつけに怖気づいてすぐ座った。
「ネオ。エンジン開発班とタービン開発班を1つにしてくれ。今後、ジェットエンジンやガスタービン機関ばかり開発するなら2つはいらない。その中でグループ分けをすりゃいいだけだ。熱力学側が圧縮機や排気システム開発を担当して、俺らが最高のタービンを作ってやる」
ダヴィの言葉に他の第七研究開発室の4名も「おうっ!」や「おっしゃあ!」と続く。
「一応、引き続き既存のタービン開発班も解体せずにチームに入れるぞ?」
ネオは今後の彼らのためを考慮しても、タービン開発班はまだ必要と判断した。
だが、ダヴィの希望通り、今後エンジン開発班とタービン開発研究班を「ジェットエンジン開発研究班」として統一し、その中で熱力学チームとタービンチームで分けることとした。
意味合いとしては、開発班を1つの研究室に集めたいというのがダヴィの希望であり、その方が情報伝達速度的に素早くジェットエンジンが作れると見込んでのものだった。
エンジン開発班は、野心家達や知的好奇心に富む者が多く、ダヴィ達とは相性がいいのか、会議開始前の段階で意気投合していたため、特に問題はなさそうだとネオも感じていた。
「いいぜ。一応今のうちに宣言しとくが、ジェットエンジンが上手くいったら、俺はここの設備をつかってガスタービンの研究も行う。その時にスクリューなどの開発もこっちでしてえからな。そん時に、水力発電開発をしていたノウハウは使えそうだ……こいつらも俺の部下でいいよな?」
ダヴィはニマァとニヤけてタービン開発班の方を見る。
ネオが目を向けると、タービン開発班の者達はもういっそ殺してくれといったような表情をしていた。
「采配は任せる。ジェットエンジンの開発は俺も主体的に関わっていくつもりだが、変なことをしなけりゃ。お前の動きを抑制したりはしない」
「ところで、さっき排気タービン見てたんだが一言いいか」
「ん?」
ダヴィは突然妙なことを切り出した。
ここにくるまでに試験用の排気タービンを見ていたのだった。
「亀裂が入ってた奴だ。多分そんな時間かからねえと思うが、アレの様子も、ちと見たい。原因は詳しく探る必要性があるが、耐久力ねえんだろ、アレ」
ダヴィは排気タービンの改良について申し出た。
「もうそんな時間が無いとはいえ、改良が可能なら頼む。現状じゃ消耗品扱いだ……もっと耐久性が上がってくれれば整備の労力が減る。ただ、仕事は兼ねてくれ。優先度合いは排気タービンよりもエンジンだ」
「へっ。じゃあもう始めさせてもらうぜ。排気タービンの調査と、立証用のジェットエンジンのタービン製作な」
ネオの言葉にダヴィはサムズアップし、そのまま開発室の方へ4人を連ねて向かっていった。
その様子を伺っていたタービン開発班をネオはにらみつける。
タービン開発班も慌ててダヴィの後を駆けていった。
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5日後、実証実験用のジェットエンジンが完成した。
ダヴィ達はエンジン開発班と熱や圧力の計算を綿密に行い、見事にタービンを完成させたのだった。
排気タービンについても、すぐさま亀裂の原因をつきとめ、改良型のタービンが完成し、現在極大負荷による試験作業中であるが、現在の時点でこれまでのタービンでは完全に破裂してしまう時間を余裕で経過しており、耐久性は確実に向上しているのは間違いなかった。
ネオは、今後の排気タービンは改良型のみ量産する方針としたが、残念ながら決戦までに全てのベレンとサルヴァドールに装着することはほぼ不可能であった。
しかし、完成した排気タービンは優先的に出撃予定の機体への装着を整備班に依頼した。
ベレンとサルヴァドールはすでに別地域の航空工廠で量産第一号以降のものが完成しており、順次こちらのガレージに運び込まれ首都の航空工廠の整備班によって調整が行われていたが、胴体の完成度こそ、こちらのものとほぼ同等の品質であったものの、エンジンの品質が若干落ちていた。
整備班はエンジンを同じレベルにまで調整するのに全力を注ぎ込んでいた。
元々、排気タービンは他の航空工廠では製造不可能であったため、こちらにて順次取り付けられている。
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ギュァァァァァ キュイイイイイイィィイ ゴォォォォオオオ
「なんつー甲高い音だ! 今まで聞いたどんな機関より美しい音色を響かせやがる!」
ネオ達は現在、翌日に控えたトーラス2世へのお披露目のため、完成したジェットエンジンをコンプレッサーを用いて始動させ、起動試験を行っている。
ダヴィはジェットエンジンの独特な音に狂喜乱舞していた。
出力は設計通りであり、上手くいけば2週間以内にネオが作りたいM2.2級を発揮させうるターボジェットエンジンを作ることは不可能ではなかった。
ターボジェットエンジンさえ作れれば、後は流体力学班が開発中のファンとインテークさえ間に合えば、ネオの理想の戦闘機に搭載したい、ターボファンエンジンを生み出すことが可能。
ネオはダヴィ達第七研究開発班の合流によって、自らがレシフェで作りたかった存在が1つ1つ具現化していく実感を噛みしめていた。




